第24話 フルオープンだ

「「「え、じゃあ違うの?」」」


 しかし三人が三人とも絶対の自信を持って、そんな風に言ってくるもんだから、


「…………違わないけど」


 そう答えざるを得なかった。


「フフ、いいのよ、タツミ。あなたの良いところはそういう素直で嘘をつけないところなんだから。それに私たちは誰もデュオパーティー・・・・・・・・なんて言ってないわよ? お間抜けさん。それで彼女はなんて名前なの?」


 どうやら間抜けは俺の方だったようだ。


「……マジで彼女ではない。昨日会ったばかりの子だよ。名前は一ノ瀬ヒカリ。正直に言ったからもうこれ以上、この件には触れないでくれ。別に好きだの嫌いだのとかいう関係じゃなく、只ダンジョン攻略を一緒にしているだけだ」


 俺は一番話しが分かる母さんに真面目にそう言った。


「でもぉ~、男女でデュオパーティーを組むとぉ~、そのあと、付き合う確率が70%以上ってぇ、雑誌で見たしぃ~」


 気持ち悪い顔をした親父が、気持ち悪い声で、気持ち悪い喋り方をしている。殴りてぇ。


「あら、余計良いじゃない。友達なら変に意識せず気軽に呼べるでしょ? それに息子の大切なビジネスパートナーだもの、ちゃんと挨拶くらいさせてほしいわよね」


「うん。茜もヒカリお姉ちゃんにお兄ちゃんのことよろしくお願いしますって言う責任があるっ!」


 いや、茜、お前にその責任はないだろ。


「……はぁ、分かったよ。一ノ瀬さんの方にはそう言っておく。んで、タイミングとか合えばまぁウチに呼ぶ日が来るかも知れない、くらいでいい?」


「「「おけ」」」


 こうでも言っておかないとずっとうるさいからな。まぁ、一ノ瀬さんの方から俺の家族の話題とか振ってきたら、そう言えば程度に話しておく。それで義理は果たしたと言えよう。


「じゃあいってきます……」


「「「はーい、いってらっしゃーい、楽しんでね~」」」


 こうして俺は朝からげんなりしながら駅を目指すこととなった。


「ふぅー」


 夏真っ盛りのため、朝の早い時間帯とはいえ、歩くとすぐに汗が出る。救いとしては、土曜のこの時間帯は電車が空いてて、冷房もよく効いてることくらいだろう。


(……さて、一応、ライン送っておくか)


 朝が弱いと言っていた一ノ瀬さんが少しばかり心配なので、念のためラインを送ることにした。


『おはよう。今日もよろしく』


 送信する前にスイスイと打った短い文章を眺めてみる。


(……流石に淡白すぎるか?)


 先ほどの文章を消し、新しく打ち直すことにした。


『おはよう! 今日もいい天気だね! ダンジョン攻略頑張ろう!』


(……きしょいな。なんか薄っぺらい気もするし)


 これも消す。


「うーーーん」


 そして俺は悩んだ挙句、おはようのスタンプと、『今日もよろしく!』の短い文章だけを送った。幸い──。


『おはようございます──』


 すぐに既読がつき、待ち合わせの連絡が取れた。どうやら一ノ瀬さんは寝坊しなかったようだ。


『次は成城学園前駅ぃ~』


「んー、ここか?」


 乗り過ごすこともなく無事降り、改札を出て、スマホの地図と睨めっこしながら一ノ瀬さんに指定された場所へと歩く。辺りにそれらしい車は見えない。


 ブロロロロ。


 待つこと五分。何やら丸々として可愛らしいオシャレな白い車が近付いてきて近くに止まった。


(これか?)


 と思い、車内を覗こうとすると──。


 ウィーン。


 助手席の窓が開いた。ついでに後部座席の窓も、運転席の窓も、それどこかルーフまでも。つまりフロントガラス以外フルオープンしたのだ。その運転席に座っていたのは、クールなサングラスを掛けた一ノ瀬さんだ。


「…………」


 正直に言えば、この時、俺はカッコいいなと思うと同時に、ハリウッド女優かとツッコみたかった。


「辰巳君、おはようございます。お待たせしてしまい、すみません。どうぞ」


「お邪魔しまーす……。一ノ瀬さん、おはよう。そのサングラスめっちゃカッコいいね」


 バタンとドアを閉める。だが、他がフルオープンなため、全然車内って感じがしない。それと日差しが暑くて痛い。


「フフ、ありがとうございます。あ、ルーフ閉めますね?」


「うん、ありがとう。すごいね、この車。それに可愛いし、オシャレだね」


 とりあえず衝撃的だったのは事実だし、フルオープンする前は可愛くてオシャレだと思ったのも間違いない。


「ですよねっ、私もこの車、可愛くて、オシャレで大好きなんですっ。イギリスの車でミニっていうんですけど知ってます? それのクーパーS、コンバーチブルと言って──」


 なるほど。意外な趣味だが、どうやら一ノ瀬さんは運転も車も好きなようだ。車を走らせてからもこの車への熱いパッションを語ってくれている。


「……あの、辰巳君、すみません。退屈ですよね」


「え? いや全然。俺車詳しくないけど、そうやって熱く語られると興味沸くし、面白いよ」


「ほ、ほんとですかっ!? 気を遣われてません?」


「ううん、ほんとほんと」


 嘘じゃない。車のことは詳しくなかったが、スピードメーターや内装を見てるとワクワクするし、楽しそうに喋りながら運転する一ノ瀬さんを見ると、俺も運転してみたいなぁとかいう気持ちになる。


「免許取ろうかなぁ……」


「!? 是非っ。そしたらドライブしましょう!」


「え? 俺の車でってこと?」


「ん? いえ、お互いの車で」


 ……それって楽しいのか? なんて思いながら車についての会話を楽しみ、気付いたら──。



「着いちゃいましたね」


「うん、あっという間だったね」


 まだ話し足りないと言わんばかりに高尾ダンジョンの施設に着いたことを残念がる一ノ瀬さん。


「正直に言えば、まだ話し足りないのですが、それは帰りにとっておきます」


 言わんばかりというか、言った。


「う、うん。楽しみにしてるよ?」


「はいっ♪」


 俺としては車の話しも楽しくていいんだけど、ダンジョンとかモーラーについての話しもしたかったなぁー? とかちょっと思ったので、帰りはそれとなくそっちに持っていこう。


「おはようございます。デュオパーティーでの入場お願いします」


 ダンジョン施設はどこも似たような作りだ。IDO職員の人にモーラーカードを二人分見せ、受付を済ませる。


「はい、確かに。では、どうぞ」


「ありがとうございます。よし、行こう」


「はいっ」


 小さくて大きな違いとしてはゲートだ。見た目は一緒だが、小さく刻まれている──推奨レベル40という文字。これは六人パーティーの推奨平均レベルだ。当然、デュオの俺たちはより高いレベルが要求されるだろう。


「辰巳君、頑張りましょう!」


「あぁ、初見攻略することとしよう」


 俺たちはお互いの拳をコツンとぶつけた後、二つ目のダンジョン、高尾ダンジョンのゲートをくぐった。

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