第14話 天才
「……そうですね。私はどうしてもダンジョンモーラーになりたいと思っていました」
だろうな、と思う。気になるのは、その理由だが──。
「その、理由を聞いても?」
「ごめんなさい。それはきっと言わない方がお互いのためだと思うので」
一ノ瀬さんはそう言うと深く頭を下げた。
「あ、いえ。事情はそれぞれですし。俺なんかは結構単純で、このまま魔王の思い通りに弄ばれるのが許せないというか、まぁあとはダンジョンオーバーの時、何もできずに家族や知り合いを殺されるのは、ね。って、聞かれてもいないのに勝手にベラベラとすみません」
無遠慮にツッコみすぎたと思った俺は、つい勢いで、聞かれてもいないのに自分のことを語ってしまった。結果、二重で失敗したなぁと恥ずかしくなり、そっぽを向く羽目に。
「獅堂さんは優しい方なんですね。きっとこんな風に獅堂さんを育ててくれた家族の方も素敵な方なんでしょうね」
「え、いやぁ、どうかな。……まぁ、でも大切な家族ですね」
親父にそんなこと言うと調子に乗るから絶対に言ってやらないが。
「あ……」
「どうしました?」
「いや、その、忘れてました。とても、というかかなり重要なことを」
「はい、なんでしょうか?」
気が緩んだせいか俺はふと、思い出してしまった。自分が最弱かつパーティに加わると経験値を獲得できないことを。
「……あの、見た方が早いので、ひとまずステータスオープン」
俺は隣の一ノ瀬さんに見えるようにステータスボードをそちらに寄せてポップアップする。
<名前> 獅堂 辰巳
<Lv> 53
<ステータス>
HP:10
MP:10
STR:1
VIT:1
DEX:1
AGI:1
INT:1
MND:1
LUK:1
<装備>
右手:なし
左手:なし
頭:なし
上半身:なし
下半身:なし
靴:なし
アクセサリー:なし
<ジョブスキル>
<アクティブスキル>
<パッシブスキル> 【契約者ステータス補正Lv1】
<特殊スキル> 【レベル転生★】【アイテムボックスLv1】【契約を交わされた者Lv1】
<スキルポイント> 0
<称号> 【弄ぶ者】
「……これは、その」
契約者となり、多少のスキルが増えていたり、変化していたりするが、それでもやはり最弱に違いはない。
「アハハハハ……、そうなんです。俺めちゃくちゃ弱いんで、恐らくというか絶対足手まといになっちゃうんですよね……。しかもパーティに加入すると経験値も入らないんです」
重大な欠陥。失望されるだろうか。いや、されるだろうな。折角見つかった契約者がこんな最弱ステータス+呪いつきなんて。
「え、と。Lv53ってありますけど、このステータスでダンジョン攻略してたんですか?」
ほら、引いてる。
「えぇ……、まぁ、この世田谷のチュートリアルダンジョンだけですけどね」
「ボスも?」
「まぁボスも」
「それってすごくないです? 一撃食らったらリスポーンしますよね?」
ん? なんか一ノ瀬さんの口調が早口だ。
「え、えぇ、しますね。なので基本は避けるかパリィするかで」
「その状態で何回攻撃すればボスを倒せるんです?」
「えと、初回は千回以上でしたね」
数えてなくても【弄ぶ者】の称号を貰う条件が千回以上だから間違いない。そこまで聞くと一ノ瀬さんはわなわなと震えて──。
「天才じゃないですか……」
変なことを言った。
「え?」
一ノ瀬さんは呆れたようにジト目で俺のことを見る。天才、俺が?
「そのステータスであれば生身の体と変わらない状態なんですよ!? 人間同士だって千発も殴り合えば絶対に一発くらい当たりますっ。それをダンジョンモンスターやましてボス戦で……。獅堂さんは自分がどれだけすごい人か分かってないんですか!」
「え、……えと」
なんか怒られた。でも確かにそう言われると不思議だ。なんで俺そんなことできたんだろ。
「なんか、自分がすごい気がしてきました……」
「気がするんじゃなくて、すごいんですっ!」
「はいっ」
一ノ瀬さんはズイっと身を乗り出し、俺の胸に人差し指を当てて凄む。その迫力は教官を思い出させてつい、そんな返事をしてしまった。
「……ん、コホンッ。ちょっと興奮しすぎました、ごめんなさい。でも獅堂さんはすごい方です。そんな方と契約できて私はとても嬉しいですし、迷惑をかけたとしたら絶対こっちなので、気にしないで下さい」
「いえっさー」
睨まれた。小さく謝っておく。
「ん、でも、経験値の方はどうなんでしょうか? 【契約を交わした者Lv1】の効果に経験値を共有とあったので、もしかしたら。それに獅堂さんの方にも【契約を交わされた者Lv1】というスキルがありますよね」
「……確かに。一ノ瀬さんと契約する前はなかったスキルですからちょっと見てみますね」
【契約を交わされた者Lv1】
一、スキル所有者(以下、乙)は、契約者(以下、甲)とのみ、パーティを組める。
二、(乙)と(甲)はダンジョンアイテムの譲渡が可能。
三、(乙)と(甲)は経験値を共有する。
四、当該スキルのLv経験値は(乙)と(甲)が半径20m以内かつ、その距離(m)の近さに比例し、時間当たり(sec)獲得可能。尚、ダンジョン外でも適応。
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