第19話 狂喜乱舞
「……ふぅ」
神剣を鞘に収める様は一ノ瀬さんの容姿の美しさと相まって、映画のワンシーンのようだ。
「お疲れ様。一ノ瀬さんやったね」
「はい、辰巳君のおかげで戦い抜くことができました。本当に感謝します」
腰を深く曲げて礼をする一ノ瀬さんに、そんな大げさな、とは思ったが、これが彼女の性分というか性格なのだろう。
「一ノ瀬さんの役に立てたなら嬉しいよ」
「はい、誰かとパーティを組むということが今までなかったので比較できないのですが、その、辰巳君がサポートしてくれてるとすごく戦いやすくて、その、イイ感じのデュオだったと思いますっ」
その言葉に道中の雑魚戦や今のボス戦を思い返す。俺は決定打に欠けるが、素早く敵を翻弄し、牽制するカバースタイルだ。逆に一ノ瀬さんは一撃さえ当たればそれが必殺となりうる強ダメージディーラー。
「……確かに、相性がいいかも知れない」
「ですよねっ、ですよねっ。フフ。なんだか私、すごく今嬉しいです」
第一印象はクールで大人っぽいお姉さんというイメージだったが、感情をストレートに表現して笑顔でクルクルステップを踏んでいる姿を見ると、まったく正反対な印象に変わってくる。
「っと。それよりドロップ、ドロップ」
俺はブンブンと頭を振り、浮かれた思考を追い払う。
「あ、辰巳君っ、三個も落ちてましたよっ!」
「流石は高LUK」
なんだか某便秘薬の名前みたいになってしまった。ちなみにボス箱は参加者のLUKの合計値/人数、つまりLUKの平均値で箱の数や中身が変わる。俺は相変わらずの低空LUKだが、一ノ瀬さんが高いため、銀箱、緑箱、青箱の三つが出てきた。
「銀の箱は高級感がありますね……」
「うん、俺も実物は初めて見たけど、ファンタジー感があっていいね。……これは最後に開けない?」
「フフっ、いいですよ。じゃあ私がこの緑と青を開けちゃいますね?」
「お、おう」
ということは銀箱は俺に開けさせてくれるのか。ちょっと緊張する。
「えぇと、青からは【HPポーション(中)】と、緑からは【ゴブリンの腰ミノ】が出ましたね。ちなみに私は絶対に装備する気はありませんから」
ニコリと笑って釘を刺された。スライムパーカーの件をまだ根に持っているのだろうか。あれは故意じゃない。事故、過失なんだ。
「まぁ、残念ながら当たりではなかった感じだね。……さて、銀箱を開けてみようか」
「はい……」
「いくぜぇ、ハッ!!」
気合が入りすぎて、なんか無駄に叫んでしまった。そして銀箱に手が触れた瞬間、ポップアップには──。
【
「うおぉぉおおおお、ハンドガンきたぁぁああああ!! しかもレアっぽいヤツっ!! よっしゃああああああ!!」
俺はこの一ヶ月ずっと待ち焦がれていた左手武器のドロップに心から喜んだ。そりゃもう狂喜乱舞した。早速装備し、左手に収まった洗練されたフォルムのハンドガンを見つめてニタニタし、ウキウキしながら構える。そんな姿を──。
「……ハッ!?」
一ノ瀬さんがニコニコしながら見ていたことにようやく気が付いた。
「…………いや、だって、ずっと出なくて、しかもE5ダンジョンで落ちる武器としては最上位クラスで……。あの、ごめんなさい。忘れて下さい」
「フフ。はしゃぐ辰巳君も可愛かったですよ?」
「……恥ずかしすぎる」
子供っぽいと思われただろうか。いや、まぁ実際大人びているとは思っていないから、間違ってはないのだが、落ち着きがないガキと思われるのは好ましくない。
「フフ、辰巳君。おめでとうございます。装備揃って良かったですね」
しかし、一ノ瀬さんは全然そんな感じで見ている雰囲気ではない。俺はチラリともう一度火焔単筒を見て、このままだとまたニヤニヤしてしまうと思い、アイテムボックスに仕舞う。そして首を傾げて、肩を揉みほぐした後──。
「うん、ありがとう。その、俺も一ノ瀬さんのおかげで前へ進めそうだよ」
なんとなく照れくさいけども感謝の言葉を口にする。
「はいっ。これからも一緒に頑張りましょうっ」
これから……。
「……うん。そうだね」
「……え。もしかして辰巳君は、もう私とのパーティがイヤになって……」
「いや、違う違う。その、一ノ瀬さんとは衝撃的な出会いから流れでこうなったけど、ちゃんとお互いの状況や攻略のスタンスとか予定とか色々相談しなきゃいけないよな、って思って」
今日のところはオールオッケーだ。だが、
「!? そ、そういうことでしたか……安心しました。てっきり、愛想を尽かされたと落ち込む寸前でした」
「あー、言葉が足りなくてごめん」
「いえ。誤解が解けて良かったです。そうですね、辰巳君の言う通り今後についてしっかり話し合いましょう。では、どうでしょうか? 夕飯を食べつつ、ミーティングをしませんか? ダンジョン攻略ミーティングですっ」
何が嬉しいのか、目を輝かせながらミーティングをしたいと言う一ノ瀬さん。
「そうだね、そうしよう」
断る理由もないし、必要なことだと思うのでそれを了承する俺。
「はいっ。では、お店はどこにしましょうか?」
「一ノ瀬さんは食べたいものある?」
「できれば、色々なメニューがあるお店がいいかも、です……」
「なるほど、了解」
俺は頭に候補がいくつか浮かび上がる。その中で、今の気分で一番食べたいのは──。
「どうだろう、一ノ瀬さんはイタリアンって好き?」
「! イタリアンっ、好きですっ」
「よし、決定。じゃあ行こうか」
「はいっ」
こうして俺たちは世田谷ダンジョンを後にし、仙川の駅前へ向かった。
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