第37話 家族と書いてカオスと読む家族パーティー(後編)
「じゃあじゃあ、どう、ヒカリちゃん。ウチのタツミは異性としてはどう?」
調子にノる母さん。まぁ一ノ瀬さんも冗談だと分かっているだろうから放っておく。いや、別に一ノ瀬さんの答えなんか気になってないぞ。本当だ。
「フフ、とても素敵な方だと思っています」
「えぇー、本当にぃ? ボクの方が断然ステキな男だと思うんだけどなぁ。ナイスミドルはお好きじゃありませんか? マドモア──ぐふっ」
息子の友人に対してキメ顔すんなクソ親父。あと母さんナイスボディーブロー。
「でも茜もヒカリお姉ちゃんみたいな人がお姉ちゃんだったら嬉しいなぁ……。お兄ちゃん、彼女作れるかすごく心配だし……」
十二歳の妹にガチ目に恋人の心配される兄とは。
「ムリね。このままだとタツミは一生童貞」
そしてお前はよく家族の団欒の場で、そういう直接的な性ワードをぶっ込めるな?
「「「ヒカリちゃん(ヒカリお姉ちゃん)」」」
「お前ら―? マジで怒るぞー?」
真に受けるな。三人揃って兄の童貞を貰って下さいと言わんばかりに縋るような目つきを今すぐやめろ。
「キャー、たっくんが怒るぅーー。あ、辰巳ビールおかわり」
「でも、タツミ? これがラストチャンスかも知れないのよっ。あ、タツミ母さんもビールおかわり」
ビールが切れるとキレるので、仕方なく無言で二人のグラスに注ぐ。
「ね、ね、お兄ちゃん、ドウテイってなにっ!?」
知らなかったんかい。でもちょっと安心。
「イイ? アカネ、童貞ってのはね──」
「やめい」
ポンコツオートマタの頭にチョップを入れる。俺の妹はまだ知らなくていいんだ。
「フフ、辰巳君の家族はみんな賑やかでとても楽しいですね。あれ、アハハ、笑いすぎて涙が……」
「「「「…………」」」」
なんか四人から視線を感じた。
(え、俺?)
コクリ。どうやら俺が何か言えってことらしい。
「あー、と、その、賑やかさだけが取り柄の家族だから笑いたきゃいくらでも笑っていいよ?」
なんだかガチっぽい涙を見せる一ノ瀬さんにフォローを入れる。そう言えば一ノ瀬さんは一人暮らしだし、家族の話は聞いたことがない。あと、今のフォローに対してみんなで広告の裏に点数書くのやめろ。そして軒並み点数低いなおい。あとアンナ、お前はあとで殴る。
「あの、ホントすみません……。全然、そんなつもりじゃなかったんですけど、ホントごめんなさい」
俺の経験値の少なさがここで露呈する。ドウスレバイイカワカラナイ。
「ヒカリちゃん。無理しなくていいんだよ。辰巳の友人である以上、我々獅堂家はヒカリちゃんの味方だ。多少ボンクラではあるが、ウチの辰巳は頼られたら絶対それに応える男だ。そう俺が育てた。ドヤ」
「そうよ。アナタみたいな若い子は背伸びせず、甘えていいの。泣きたい時はタツミの胸で泣いていいんだから、ね?」
いや、すごく答えづらいけども。
「ふぅー。ありがとうございます。私、その小さい頃に両親を失って、歳の離れた兄に育てられたんです。でも、兄とも暫く会えないでいて……。こういう家族の団欒ってすごく久しぶりで、それで、その──」
感情が高ぶったのか、一ノ瀬さんは両手で顔を覆ってまた泣いてしまった。
「「「「…………んっ」」」」
え、ここでまた俺!?
「……コホンッ。あー、えーと、じゃあウチの子になる? アハハ、なんつって?」
「「「「っ!?」」」」
俺の言葉に家族+アンナは我先に広告の裏に何かを書き始めた。
父──満点。お前にしちゃ上出来。
母──80点、もう一押し。
茜──120点、お姉ちゃん欲しい!!
アンナ──キースッ! キースッ!
「辰巳君……」
「はっ!? うん、まぁ、別に本当にってわけじゃないけど、こんな家族でよければおすそ分けというか、むしろウチの家族の方が喜んじゃうんだけど、アハハハ」
一ノ瀬さんが顔を上げた瞬間に、全員が広告をグシャグシャに丸めて背中に隠す。お前ら一ノ瀬さんが真剣な話をしているっていうのに。あとやっぱアンナは殴る。
「ありがとうございます。フフ、すごく嬉しいです。皆さんのこと本当の家族だと思ってもいいんですか?」
「もちのろんだ。ダディと呼んでくれ」
「えぇ、獅堂家は大歓迎よ。お義母さんって呼んでちょうだい、オホホホホ」
「わーいっ、お姉ちゃんできたっ!! 嬉しいっ!!」
「ん、ヒカリも今日からウチの子」
いや、アンナお前さっきからシレっと獅堂家の立ち位置でいるけど、お前、いや、うん、もう何も言うまい。
「よしっ、母さん! うちのヒカリにじゃんじゃん白米をよそってやれぇ」
「あら、うちのヒカリは体型も気になる年頃でしょうから、野菜多めの方が嬉しいはずよ、ねー? あ、茜はおっきくなるために何でもたくさん食べなさいっ」
「はーい! はい、ヒカリお姉ちゃんこれ! 茜が作った玉子焼き! 食べて?」
「辰巳君……」
嬉しそうにはにかむ一ノ瀬さんが俺の方を見てくる。
「あー、獅堂家では食器の片づけはじゃんけんだから覚悟しとけよー。もちろんアンナも負けたら片付けやらすからな」
「ハンっ。神話級のオートマタにジャンケンという性格と統計で未来が予測できてしまう勝負を挑むなんて百年早い」
そして、相変わらず親父とアンナが独特のウザさで会話を盛り上げながら、一ノ瀬さんとアンナの歓迎パーティーは進み、ちゃんと最後にアンナがじゃんけんで負けるというオチまでついてご馳走様だ。
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