第34話 トゥインクル・トゥインクル
そのあとは特に何事もなく、いそいそとピクニックシートを仕舞う。片付け終えた後はボス戦だ。緩んだ雰囲気から切り替えるためにも俺は自分の頬をパチンッと両手で叩く。
「よしっ、それじゃボス戦といき──」
<【契約を交わされた者Lv1】のレベルが上がりました>
ますか、と言おうとしたら天の声に出鼻をくじかれた。一ノ瀬さんも同じタイミングでビクッとなったので、恐らくそういうことだろう。
「一ノ瀬さんも?」
「辰巳君も、ってことですよね。はい、【契約を交わした者】がレベル2に上がったようです。あと、装備品を獲得しました」
「装備品?」
同じタイミングでスキルが上がったようだ。しかし、俺の方はそれで天の声は終了。一ノ瀬さんの方にはオマケで装備品が付いてきたらしい。
「えぇ、【神足具ラフラニール】とありますね。足装備……、ですね。ひとまず装備してみましょうか」
そう言って一ノ瀬さんはアイテムボックス内から【神足具ラフラニール】を装備した。それは白と金を基調とした美しい細身のブーツだった。
「綺麗なブーツだね。ステータスはどう?」
「ありがとうございます。えと、はい、確認してみますね。ステータスオープン」
<名前> ヒカリ エヴァンス 一ノ瀬
<Lv> 45
<ステータス>
HP:1360/1360
MP:145/145
STR:3986(素:488 装備補正+3498 スキル補正+0)
VIT:3580(素:390 装備補正+3190 スキル補正+0)
DEX:2258(素:65 装備補正+2193 スキル補正+0)
AGI:2232(素:58 装備補正+2174 スキル補正+0)
INT:2140(素:60 装備補正+2180 スキル補正+0)
MND:2534(素:131 装備補正+2403 スキル補正+0)
LUK:2152(素:38 装備補正+2114 スキル補正+0)
<装備>
両手:神剣カーディナルLv2(ALLステータス+1000 乗算ボーナスALLステータス2.50倍)
頭:バレッタ(VIT+1 MND+5)
上半身:ライトチェストプレート(VIT+10 MND+2 DEX -3)
下半身:スチールスカート(VIT+9 MND+3)
靴:神足具ラフラニールLv2 (ALLステータス+1000 乗算ボーナスALLステータス2.50倍)
アクセサリー:力の指輪(STR+10 乗算ボーナスSTR1.05倍)
<ジョブスキル> 【神剣使いLv2】【世界を蹴る者Lv2】
<アクティブスキル> 【絶・穿ちLv2 消費MP1万2千】【凪・流星Lv2 消費MP50】
<パッシブスキル> 【全ステータス成長補正Lv2】【HP・MP自動回復Lv2】【神剣装備補正Lv2】【契約者ステータス補正Lv2】【剛力Lv2】【金剛Lv2】【不動Lv2】【縮地Lv2】【跳躍Lv2】【天賦の才Lv2】
<特殊スキル> 【契約を交わした者Lv2】【アイテムボックスLv2】
<スキルポイント> 0
<称号> 【神剣所有者】【神足具所有者】
「「…………」」
なんかスゴイことになっていた。
「えぇと、とりあえずスキルポイントは0のままで、【契約】スキルが上がると全スキルと【神装備】系のレベルが上がっていく感じか……」
自分で言ってて、なんだその無茶苦茶は、と思いながらも一ノ瀬さんのパッシブスキルの詳細を確認していく。
【全ステータス成長補正Lv2】全ステータス成長補正+2
【HP・MP自動回復Lv2】毎秒2%回復
【神剣装備補正Lv2】神剣装備時、全知覚速度2.00倍
【契約者ステータス補正Lv2】契約者からのステータス30%付与
【剛力lv2】STR・VIT成長補正+2 クリティカル倍率1.20倍
【金剛lv2】VIT・MND成長補正+2 全状態異常耐性小
【不動lv2】衝撃軽減(小)
【縮地Lv2】AGI成長補正+2 直線方向への加速移動
【跳躍Lv2】跳躍距離が伸びる
【天賦の才Lv2】武器熟練度補正+2 経験値入手量2.00倍
「うん、無茶苦茶だわ」
無茶苦茶だった。と言うのもステータス成長補正がエグすぎる。これは単純にレベル1毎にその数字が足されていくわけではない。成長係数の等級アップに関わる数字だから下手したらステータスの上がり方は何十倍、何百倍にもなっていく。本人が望むか望まないかはさておき、このまま行くと一ノ瀬さんは、闘争に技術など要らぬ、必要なのは純粋なパワーのみよ、というゴリゴリのステータスゴリ押しモーラーになってしまう。
「チッ。ヒカリをマスターにすべきだった」
今後も著しい成長が見込まれるステータスを見て、アンナがわざとらしくそんなことを言う。
「おい、そこ。傷つくからやめろ。つーか、俺のステータスも見てから言えや」
もしかしたら【契約】スキルがレベル2になったことで、俺にも新たなスキルが習得されているかも知れない。そんな一縷の望みとともにステータスを開く。
<名前> 獅堂 辰巳
<Lv> 66
<ステータス>
HP:10/10
MP:10/10
STR:185(素:1 装備補正+38 スキル補正+146)
VIT:144(素:1 装備補正+26 スキル補正+117)
DEX:76(素:1 装備補正+55 スキル補正+20)
AGI:112(素:1 装備補正+94 スキル補正+17)
INT:19(素:1 装備補正+0 スキル補正+18)
MND:81(素:1 装備補正+41 スキル補正+39)
LUK:12(素:1 装備補正+0 スキル補正+11)
<装備>
右手:ウルフファングダガー(STR+38 DEX+25 AGI+52、乗算ボーナスSTR DEX AGI 1.13倍)
左手:火焔単筒(AGI+30 DEX+30 乗算ボーナスAGI、DEX1.10倍。通常攻撃時属性付与【火炎】)
頭:ポンポコフード(VIT+10 MND+20)
上半身:ゴブリン布切れ(VIT+5 MND+4 AGI+5)
下半身:ポンポコステテコ(VIT+10 MND+20)
靴:ゴブリンズック(VIT+1 MND+1 AGI+7)
アクセサリー:ゴブリンのお守り(ゴブリンからのダメージ軽減5% ゴブリンへのダメージ強化5%)
<ジョブスキル>
<アクティブスキル>
<パッシブスキル> 【契約者ステータス補正Lv2】
<特殊スキル> 【レベル転生★】【アイテムボックスLv2】【契約を交わされた者Lv2】
<スキルポイント> 0
<称号> 【赫き者】
「……ヒカリが本気出せば小指でリスポーンできちゃうレベルだね」
それは言い過ぎ──と思ったが、VIT144でHP10の俺なら一ノ瀬さんに心臓を小指で突かれれば死ぬな、と思い直す。
「一ノ瀬さんを怒らせないようにしよう……」
「何言ってるんです? そんなことするわけないですから」
と、小指を立てて笑う一ノ瀬さん。
「さて、冗談はさておき、この【契約を交わした者Lv2】は物凄いスキルですね……。これ、私ダンジョン潜らずに辰巳君の傍でジッとしていた方が強くなれちゃいそうですね」
そっちの方が冗談っぽく聞こえるが、このスキルと装備の充実具合から見ると決して間違っていないだろう。【契約】スキルは、契約者同士が近ければ近いほど時間当たりの経験値量は高い。恐らく昼寝した時は1mも離れていない距離だったから、それで経験値が溜まりきったことを考えれば戦闘などせず、できるだけ近い距離で長い時間を過ごせばいい。
「つまり俺たちの昼寝で、世界が救えるかも知れない……けど、まぁそれは最終手段ってことで」
とは言え、四六時中一緒にいるわけにはいかないだろう。一ノ瀬さんとはビジネスパートナーであり、家族でも恋人でもないのだから。それに、
「ステータスだけで魔王に勝てるとも思えないから色々な戦闘で本当の意味で強くなっていかないと」
「逆に言えばタツミはステータスよわよわだから、戦闘技術で頑張った方がいい」
うるせー、分かっとるわい。
「……ですね。あ、いや辰巳君がよわよわなので、戦闘技術云々の話ではなく、戦闘を経て強くなるって方の同意です! というわけでボスに行きましょう! 【絶・穿ち】はMPがまったく足りないので使えませんでしたが、【凪・流星】は使えるみたいなので、試し打ちしてみたいですし!」
ひとまず様式美として俺は慌てる一ノ瀬さんをジト目でじとーっと睨んでおく。
「【凪・流星】打ちたいなっ」
一ノ瀬さんは明後日の方を見ながら、ノってくれた。確かに初めてのアクティブスキル。ワクワクもするだろう。俺だってきっとアクティブスキルが手に入ったらめっちゃワクワクする。
「よし、じゃあ俺とアンナはサポートで、一ノ瀬さんのアクティブスキルを使い易い状況にしよう。確か、【凪・流星】は──」
「えぇ、蹴り技みたいですね。説明欄には『流星の如き回し蹴り』とありましたね」
「お、おう……。どんな回し蹴りか楽しみだな。いや、まぁ回し蹴りにそれ以上も以下もなさそうだけど」
「タツミ、夢がない。きっと、キラキラ綺麗な回し蹴り」
「ほー、意外に乙女チックなことも考えてるんだな」
「るさい」
「へいへい。んじゃ、まぁキラキラキックをぶちかましにれっつごー」
こうして俺はアンナに膝裏を蹴られながらボス部屋の扉を開けた。
扉の中は洞窟が続いており、ホブゴブリンの時と同じように灯りが徐々に点いていく。そして奥には──。
「ベアアアアァァァアァッッ!!」
体長四メートルは超えるであろう巨大な熊型のモンスターが待ち構えていた。
「はい。ヒカリ回り込んで。タツミは前から詰めて」
戦闘はアンナのそんな一言から始まった。スモークグレネードを放り投げ、ボス熊の足元から灰色の煙幕が一気に立ち膨らむ。
「ベアァァッ!?」
錯乱し、両手をブンブン振り回すボス熊。煙幕は徐々に薄くなるが、既に一ノ瀬さんはボス熊の後ろに回り込んでいる。
「ほら、熊さんこっちだ。踊ろうぜ」
「ダサっ」
俺はわざと真正面に立ち、気を引こうと挑発する。アンナになんか悪口を言われた気がするが聞こえなかった。俺には聞こえなかったんだ。
「ベアベアベアァァァアアアッッ」
「ッフン。そんな大振りじゃ、本当にダンス気分になっちまうなぁ!」
巨大な腕を振るってくるボス熊。それを俺は余裕な態度で躱していく。
「ホントに?」
後方でボボボボボと浮かんでいるアンナからツッコまれる。
「実は、ギリ、ギリ、だっ」
「ん、知ってた」
実はギリギリだった。というか冷や汗がスゴイ。まず間違いなく爪の先が僅かに引っかかっただけでリスポーンだ。しかし、なんとか役目は果たしたと言えよう。
一ノ瀬さんはボス熊に気取られることなく背中に触れられる位置まで肉薄していた。そして──。
「【凪・流星】」
アクティブスキルを発動させた。一ノ瀬さんの右足は白く輝き、幾重もの空気の壁をぶち破り、衝撃波をまき散らしながら、その脇腹へブーツのつま先をめり込ませる。
「──ベッ」
ボス熊は恐らく何が起こったか分からなかっただろう。このまばたき一つの時間でボス熊は星になったのだ。音のない世界で煌めく流星は洞窟の壁へと叩きつけられ、巨大なクレーターを作り、そして粒子となった後、ようやく轟音が響き渡る。
「……熊、流れ星になったな」
「……ん。願い事三回言えなかった」
「ふぅ、二人のおかげで無事スキルが使えました。ありがとうございます」
あのステータスであれば何もおかしくはないが、この日一ノ瀬さんはボスワンパンを成し遂げたのであった。
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