第17話 激闘の末

レオの言葉に焦ってレミシーはすぐに攻撃を仕掛けたが………

カアァァァン!

斬りかかったアックスが跳ね返され、硬い金属音が鳴り響く。

先ほど柔らかかった腹部の皮膚が既に金属の様に硬くなっていたのだ。

それを見たレオはすぐさまアイテムで敵のステータスを見ると状態が繭になっていた。


「やられたぁぁ!!どうやらさっきのは御前試合でこれからが本当のボスらしいぞ………」とレオは顔を引き攣つりながら言った。


すると、ギガントアントリオンの皮膚に亀裂が入り始め、漏れ出す光と共に中からシルエットが現れる。

羽化したばかりのボスを攻撃しようにも不思議な力で守られている為、近づく事すらできない。

その間にボスはゆっくりと羽を伸ばし、乾かしていく。


(くそっ!本来なら乾ききる前に倒せば一番楽なのに………)と思いつつもレオは今出来る事を考え、急いで<結束の印>をストレージから取り出し、「レミシー!!これを受け取ってくれ!!」と彼女に向って投げた。

彼女はレオが投げた物が何かすぐわかり、受け取ると即ストレージにいれる。

 レオの視界に<レミシー・ファボットがパーティに加入しました。>とログが表示されパーティに加入した事を確認すると二人の簡易ステータスを表示させた。

再びレミシーとアテナはレオが作成したポーションと自分のスキルを使い、自強化を済ます。

 レオは一体どんなのが出てくるのかと唾を飲み様子を伺うと………

ギガントアントリオンの中からトンボみたいな敵が現れ、それを見るとレオは「まんまかよ!」とついツッコミを入れてしまった。

それは現実世界リアルと同じアリジゴクの成虫ウスバカゲロウにそっくりだったからだ。

レオは出てきたボスのステータスを見ると


タイラントメイフライLv100

HP 2,500,000

MP  600,000

ATK 500,000

DEF 300,000

MDEF 10,000

SPD 150,000

となっていた。


「ですよね~!だいたい、こういう数値になってなかった時点で気付けよな!」とレオはゲームで散々、こういうシチュエーションを経験して来たのに気付けなかった自分を責める。

ボスのステータスをパーティのツールを通して二人にも開示した。


「おいおい!冗談だろ!?これじゃ物理何て通らないし当たらないぞ!?」とレミシーはボスのDEF値とSPD値を見て訴えてきた。


アテナも自分の攻撃力よりボスの防御力が高い為、ダメージが通らないと言って来た。


「いやいや、アテナさん?あなたが倒しておいた方が経験になって良いと言っていたはずでは?」とレオは逆にアテナを攻めるが、「そんな事言ったかしら?」と誤魔化す。

「おい!?どうにかコイツを倒さないと生きて帰れそうもないぞ!?何か手は無いのか!?」とレミシーが言うが、レオも先ほどから策を練っているが全然いい攻略法が思い浮かばない。

「ねぇ?このボスって魔法で倒せって事じゃないの?」とアテナがステータスを見て何かに気付き2人に言った。

たしかにステータスを見る限り他の値は10万オーバーしているのに対しMDEFだけは10,000とかなり低い。

するとアテナとレミシー2人がレオのところに歩み寄り、各自レオの肩をポンッと叩く。


「え?俺!?」

「だってお前、私が作った銃があるじゃないか。あれは魔力を消費するから魔法攻撃に属するからな!」

「だからって2,500,000もあるHPを俺1人で削れってかよ!?」

「大丈夫です!私とレミシーで援護しますから!!やりましょう!!」

とアテナは言うが本当に大丈夫なんだろうかとレオは不安になる。


「もう、お喋りしている暇は無いみたいだ!!いよいよ奴が動き出すぞ!構えろ!!」


レミシーはグラビティアックスを握り構えた。

アテナも再度『ヘイトブースト』と『ダメージアブソーブ』を使い、盾を構え敵の攻撃に備える。

そして、レオは2丁銃をホルダーから出し、銃に魔力を注ぎいつでも攻撃できる様に準備する。

すると、羽が乾いたのかタイラントメイフライがその大きなトンボに似た羽を羽ばたかせ、宙に舞う。

 その姿を見ると先ほどのギガントアントリオンは10mくらいの体長に対しタイラントメイフライは倍の20mくらいはありそうな巨体だった。

タイラントメイフライは宙を舞いながらこちらの様子を伺っている。下手に手を出せば奇襲を掛けられそうな雰囲気を醸かもし出し、尚且つどのくらいのスピードで移動するのかさえ想像も付かない。ただ言える事はステータスを見たときのSPDが15万って事だけだ。この値がどのくらいの速さなのか………

 すると、さっきからずっと待っていたレミシーは痺れを切らし、スキルで自強化して先制攻撃を仕掛ける。

 レミシーはスキルで速度増加しており、目で追うのも難しいくらいのスピードでボスに向っていく。そして、間合いに入ると大きく跳び斬り掛かるが、軽々と回避されボスの尻尾で叩きつけられ、勢い良く地面に叩きつけられる。


「いててて………にゃろぉぉ!!


レミシーのHPは約半分持って行かれ、急いでストレージからレオから貰ったポーションを取り出し飲み干し回復させる。

どうやら今の攻撃でレミシーに火が付いたらしく、回復するとすぐにまた攻撃を仕掛けに行く。

だが、また返り討ちに………


「ちくしょう!なぜ当たらない!ドワーフ族自慢の早さにプラスしてスキルも駆使しているのにボスはまだ早いってのかよ!!」


攻撃が当たらなく苛立ちを抑えきれなくなる程、熱くなってしまっていた。

それを見通すかの用にボスはレミシーに向かって勢い良く突進をしてくる。

『チェンジ・ザ・ポジション!!』

咄嗟にアテナはスキルを使いレミシーの居た場所とアテナが居た場所を互いに交換したかのように2人は入れ替わり、アテナはすぐ盾を構え攻撃に備えた。


ズドォォォォン!!


かなりの高速で突進してきた為、盾に当たった時の衝撃音が物凄い轟音で広場に鳴り響く。

あまりの音の大きさにレオとレミシーが耳を塞ぐ。

今まで、ありとあらゆる攻撃を耐え忍んでいたアテナもこれには押され、踏ん張って堪えようとはしているが、なかなか止まらない。

レオは「アテナ!!」と咄嗟に叫び、銃でタイラントメンフライを撃つ。無我夢中で連射が終わるまで撃ち続けた。

 すると、ボスのHPはみるみる減っていくが、ダメージが通るが故にヘイト値が急激に増加し、アテナのヘイト値を超えてしまい、ボスの標的がレオに変わり飛び掛かってくる。

全く見えない程の速さで攻撃をしかけ、レオは気付くと宙を飛んでいた。


「えっ!?」

「レオ!!!」

2人が大声で叫ぶ。


<身代わりのロザリー>を消費しました。とログが表示された。

レオは気付くと天井が見え、地面へ叩きつけられる。


「いててて………」


HP1でなんとか生き延びたが生きた心地がしない。

すぐにオートポーションが発動し回復し始めるが、ボスの攻撃に備え即座に回復したかった為、ハイポーションを飲みHPを全回復させる。

次もあの攻撃が来ると思うと正直ゾッとするが、レオが攻撃しないとボスを倒すのは難しい。

ヘイト値を大量に取得してしまったレオに対して、ボスは再度攻撃を仕掛けてくる。


「え!?ちょっ!まって!!」


レオはぎりぎりで避けるが、たまに当たってしまいHPを削られる。

その都度、オートポーションで回復するが、その繰り返しで全く埒があかない。

『ヘイトブースト!!』

再度、アテナはヘイト値を上げボスを誘導しようとするが、ボスは見向きもせずレオに攻撃を仕掛ける。


「なんでだよ!?なんでアテナの方に行かないんだよ!!」


猛ダッシュで逃げまくるレオ。

先ほど、アテナがロックサイノスを起こしレオを追っかけた特訓の成果が出ているようだ。


「何か!何か手は無いのか!?」とレオは2人に叫びながら逃げ惑う。


それを見ていたレミシーはレオとボスの間に素早く割って入り、ボスの攻撃をグラビティアックスで受け止める。


「ぐっ……属性だ!属性弾を撃て!!」ボスの攻撃を受け止め、レオをボスから一定距離まで逃がした。


アテナはすぐにレミシーの援護に入る。


「アテナさっきはすまない………周りが見えなくなっていた。」


その謝罪にアテナは笑顔で応え「今はコイツをなんとか倒しましょう!!」と盾でボスを押し返す。

その頃、ボスから離れたレオはレミシーからのアドバイスに悩んでいた。


「属性弾?どうやって作るんだ?」と自分の銃を見つめると透明な魔水晶が輝いた。

もしや?と思い、メニューを開きスキル一覧を見るといつの間に覚えていたのか『魔弾作成』と言うスキルがあり、すかさず詳細を読む。


『魔弾作成』魔鉱石で作られた銃に付属するスキル。銃に込める魔力量により威力が変化する。また、イメージの強さでも威力に影響する。以上の2点の事を行なえば自動的に銃に装填される。


「なるほど………魔力を込めてイメージを強く?明確にするって事か?」とレオは目を瞑り、とりあえず右手の銃に魔力を込めながらイメージする。

すると、銃が青白く発光し「カチャ!」と音がした。

銃を見ると先ほど透明だった魔水晶の1つが赤色になっていた。


「とりあえず、炎魔法しかスクロールで使ってなかったからイメージは炎にしたけど、これでいいのか?これが属性弾なのか?」と赤色の魔水晶を見る。

「おい!?魔弾できたのか!?」と苦しそうに言うレミシーにレオは「な、なんとかできたみたいだ!」と銃を構えた。

「おし!んじゃ、ボスをそっちにやるぞ!?」とレミシーは叫び、アテナと顔を見合わせ互いに「いち、にの……さん!!」と掛け声で各自左右に跳び、ボスを解放した。


ボスは真っ直ぐにレオに向っていく。

正面から物凄い威圧と勢いで向ってくるのを目の当たりにして、体が再び震えてくるが、銃をボスに向けトリガーを引く。


「これで沈めぇぇぇ!!」


バアァン!!


銃声と共に銃口から出た赤い弾丸がボスに向って飛んで行き、ボスの顔面に当たると燃え盛る火炎の如く、ボス全体に炎が襲う。


ガアァァァァ!!


苦しそうに暴れている様子を見てHPを確認すると、どんどん減っていくが………途中でダメージは止まり全部は削りきれなかった。

怒り狂ったタイラントメンフライはそのままレオに突撃する瞬間………

『チェンジ・ザ・ポジション!!』

咄嗟にアテナはスキルを発動し、レオとギリギリの所で入れ替わり、アテナがボスの攻撃を受ける。

ボスの勢いは衰えず一気に壁にぶち当たった。


ドオォォォン!!


「アテナァァ!!」


隕石が当たったかのようなクレーターが壁にでき、その中心にアテナはぐったりして埋もれていた。

レオはアテナのHP残量を確認すると、戦闘不能では無いもののHP250万あったはずが、今の攻撃で残り50万まで減少した。

ポーションを投げようにもボスに当たって回復してしまうし、アテナはあの状態だ。

 しかも、一気にHP200万を回復させるには超高級回復剤「ラストエリクサー」くらいしかない。

当然、レオは自分の作成で作ってストレージに入ってはあるが、この状況からしてどの道無理だろう。


「何か、何か無いのか!?考えろ………」と目を瞑り、どうしたらHP200万を回復させられるのか、ボスを掻い潜りアテナに飲ませるには………と考えていると「カチャ!」と音がし、「まさか?」と思い銃を見ると魔水晶が今度は緑色になっていた。

おそらくこれは作成段階からして回復弾だと思っていいだろう。

だが、これが回復弾だと断定はできない。あくまで予想だ。


この回復弾であろう魔弾をアテナに向けて撃てば、おそらくHPが回復すると思うが万が一違った場合、レオがアテナを撃ち殺してしまいかねない。

その不安がレオの脳裏に過ぎり、銃を持っている手が震えてくる。


(どうしよう………どうする?)


撃つか撃たないか決断が出来ないまま数秒の時が過ぎるが、ボスのタイラントメンフライはそう待ってはくれない。


「レオ!!」


俯いて銃を見つめながら迷っているレオにボスが襲いかかろうしてる事が気付くはずもない。

そんなレオをかばおうとレミシーが前に立ちはだかり、ボスの進行を足止めする。


「はやく、その魔弾を撃っちまえよ!」

「いや、しかし………これはまだ効果がわからないんだ………」

「わからないってなんだよ!?お前がイメージして作ったのなら、それだろ!」


彼女自身、そう長い時間ボスを足止めできそうも無い為、声を張りながら銃に装填された魔弾を放つ様レオに促す。

するとレオは何か手を思いついたのか銃を握っている手を動かした。


「お前!!何をしている!やめろぉぉぉ!!」


彼女の必死な声を無視するようにレオは自分のこめかみに銃口を突きつけていた。


「たぶん、てか絶対大丈夫だから!」


(俺が実験台になれば効果は実証できる。たとえ攻撃弾だったとしても身代わりのロザリーがまだあるから死にはしない。逆に回復であれば即座に作り直してアテナに撃ち込むだけだ。)


そう決心が付いたレオは躊躇無く引き金を引く瞬間、彼女は見ても居られず目を瞑る。


パアァァン!!


広場に銃声が鳴り響く。

ボスの攻撃に耐えながらも瞑った目を開け、レオの方を見ると全回復している彼が立っていた。


「おし!確認できた。レミシー!10秒だけ耐えてくれ!!」


無事だったレオが確認でき、効果不明だった魔弾も回復弾と確定でき、希望が見えてきた事で彼女のボルテージも徐々に上がって来る。


「そう何度も何度も食らってたまるかよぉ!!」


アックスの腹でボスを少しずつ押し戻しレオとの距離を開く。

そんな彼女を見ていると火事場の馬鹿力なのか鍛冶場のウサギ力なのかわからないが、パワーが上がっているように思えた。

 その光景を目にし心強く感じたレオはもたもたしていられないと、集中力を高め尚且つ、魔力も先ほどのスズメの涙程度ではなく、最大MPの約3分の1を銃に注ぎ込んだ。

すると先ほどの緑色とは違い、魔水晶が輝きを放った美しいエメラルドグリーン色になった。

装填を確認すると、装填から10秒も経たないうちにアテナに向って発砲した。

着弾したアテナは魔水晶と同じ美しいエメラルドグリーン色に輝き、HPが全回復する。ステータスでその事は確認できた。

 しかも、HP回復どころではなく、BADステータス(デバフ)解除、物理障壁の「プロテクションバリア」魔法障壁の「マジックバリア」まで付与される程の効果が見られた。


「この効果は紛れも無くラストエリクサーと同じだ………まだ魔力を注いだら一体どんな魔弾ができあがるんだ?」


レオの心の中はワクワクと恐ろしさが混じりあってなんとも言えない感情にはなっているが、アテナを助けられた事に対しては嬉しさが勝る。


「おい!まだか!?もう………限界だぞ………」


 なんだかんだ言ってレオが頼んだ10秒を遥かに超過し50秒くらい経っていた。

彼女に限界が訪れ敵に押しつぶされそうになった時、アテナが目を覚ます。

そして、目を開け飛び込んできたのがその状況だ。

彼女は回復したばかりだというのに躊躇せず『チェンジ・ザ・ポジション』でレミシーと場所を変わる。

 すると………「なんだよこれ!!なんで私がこんな仕打ち受けなきゃならないんだよ!!」と大声で叫んでいるのでレオが振り向くと………

先ほどアテナが埋もれていたクレーターの中心に今度はレミシーが埋もれていた。

その姿を見ていると、戦況的に不謹慎ではあるがレオは思わず噴き出し笑ってしまった。

 一方、レミシーと位置が変わったアテナはプロテクションバリアがあるお陰でボスからの攻撃も大幅に軽減でき、楽々と耐え『ダメージアブソーブ』を使い、カウンター攻撃を狙っている。

スキルの補助効果もあり、このように明らかに以前よりも圧倒的に対処がしやすくなっていた。

それは笑っていたレオもアテナの動きを見て、少し違和感を覚えるほどだ。

いくらスキルの補助効果があったとしても、急激に容易くなるわけでもない。

しかも、レミシーもモチベーションの向上だけでパワーが上がるのも信じがたい。

 そんな事から、なんとなくだが改めてボスのステータスを見てみる事にした。


タイラントメイフライLv100

HP 1,250,000

MP  300,000

ATK 250,000

DEF 150,000

MDEF 5,000

SPD 75,000


「ん?………なんかさっき見た時と違わなくね?」


レオはボスのステータスをパーティのツールを使い、2人が見られるよう公表する。


「なぁ!?なんかこれ、前回と違う気がするんだが………どう思う?」

「なっ………!!お前、これ!!通常に戻っているぞ!」


アテナはボスとの交戦でまだ見る事ができないし、話す余裕もない。

しかし、クレーターの中心に今もまだ埋もれているレミシーはステータスを見て、何かを思い出したかのように話し始めた。


「通常に戻る?それってもしかして………!?」

「そうだ、お前達がここに入った時は『深淵の刻』でモンスターが一番凶暴化する刻だったんだ。それを里の『刻計』というアイテムでわかったから私がここに急いで来たんだ。んで、今のステータスを見ると通常に戻っているという事は『息吹の刻』即ち朝が来た事になる。」


その言葉にレオは今まで脳の片隅に置いていたはずだった事が他の事が起こるたび、その存在は徐々に薄れてしまっていた。しかし今はその事がいきなり鮮明に前へ飛び出してきた。


「コロシアム当日だ………」


 その言葉を自分の口で言うと全身の神経が奮い立つ様に体全体から手足の爪先まで一気に悪寒が走り、冷や汗が流れる。

今まで、ボスと戦っていた事もあるが、洞窟内で外の状況がわからなったのが一番大きな要因だろう。

『朝が来る』つまり、いつどのタイミングでコロシアム会場に飛ばされるかわからない。

 それは魔王ミグラスあいつの気分次第だ。その事を考えるとレオの心の中で余計に焦りが強くなってくる。


(アテナはいい、彼女は俺が召喚したのだがらホムンクルスでは無いにしろ、マスターが俺の限り確実に一緒に転送されるだろう。つまり、問題はレミシーだ………彼女はもともと外部からアイテムを媒介にパーティへ加入している。確かに1グループ内には居るがそこまで転送の範囲内なのかは本当のところ不明だ。)


 もし、彼女1人この場に残る様な事があれば、ボスと1対1で戦う事になる。

通常時の強さに戻ったにしろ、1対1じゃ部が悪いし、彼女1人残すのは気が気じゃない。

その事が理由で、レオは浮き足が立つ。

レオが思考を巡らせている間、アテナは1人でボスと交戦をしている。

 しかも、通常時に戻ったボスを相手だと、能力的にも少しお釣りが来るくらい余裕がある為、意外と苦労していないようにも見える。

とりあえず状況が状況な為、今回アテナから使用を禁止されていたホムンクルスのアラウネを呼び出し、アラウネにレミシーの救助をお願いした。

 すると、さっそくアラウネは足の根をウネウネと動かしレミシーの前まで移動する。

彼女はレオのホムンクルスであるアラウネを見るのは初めてだった為、目の前に来た時は自分が捕って食われると本気で思ってしまい、少々パニックになっていたのでレオは慌てて理由を話すと彼女は落ち着きを取り戻し、アラウネは言われたとおり救助作業を開始する。


「さて、レミシーの救助はアラウネに頼んだから良しとして、今度はこっちだな………あまりもたもたしていられなくなったし、アテナ1人で余裕だと思うが別件も控えている為、ここは一撃でしとめたい所だ。」


 レオはアテナの戦い方を見て、盾が赤色になっているのを確認した。

アテナの盾が赤色になっていれば、次に変わるのは金色な為『ジャッジメントクライム』を使える事になる。

ボスは通常時に戻ったにしろ、意外と攻撃は重そうに思えた為、金色になるのも時間の問題だろう。だが、それは転移される前に倒せるのか不明なところでもある。

 そして、先ほどボスのステータスを見たときに属性も見たが、奴は[地・風]の2色属性持ちだった。

本ゲームは属性が7属性あり水→火→地→風→雷と光⇔闇で成り立っている。

特にボスの中でもレアボス、メインボス等であれば大抵2色属性持ちだ。2色属性でも法則があり、必ず隣通しの属性でしか付かないと言う決まりがある。

 例えば火と地、地と風、風と雷といったメイン属性の前後属性であれば付く事がある。

しかし、次のような火と風、火と雷などと属性を1つ飛ばした2色属性は未だかつて確認はされてない。

ちなみに今回のボスの属性[地・風]の場合、まず地属性攻撃は無効だ。

そして、風に対しては弱点属性が無い状態になり、地属性に対してだけ弱点が発生する事になる。

 よって、レオが先ほどから魔弾で使っていた炎の属性弾は有効と言える。

その事を考えていると彼の悪知恵が「やってみろ!」と本人の心を揺さぶりかける。

今はボスが早急に倒せるなら何でも良いと思い、その悪知恵を生かし魔弾の作成をした。

銃の魔水晶は燃え盛る火炎の如く力強い光を放ち、尚且つ濃厚色で綺麗なルビー色をし点滅していた。


「さて、一発勝負だ。成功する、しないもそうだが、これで倒せなければ今後、このやり方はお話にならないな………」


 そう呟き、レオは銃を構える。だが、ボスってよりはアテナに向けているようにも思えた。

そして、その時をじっと待っている。一度きり、一瞬のタイミングに掛けるこの一発はレオの中でも緊張がハンパない。

 それから数分後、その時は来た………アテナの盾が金色に輝きだし、盾に封印されていた剣を抜き、振りかざした瞬間!!


パアァァン!!


狙っていたこのタイミングに躊躇無く、自分を信じ引き金を引いた。

その魔弾はアテナが振りかざした剣に見事命中!すると獄炎の様な燃え盛る火炎が、剣に纏わり付く。

そう、属性付与弾エンチャントバレットだ。


「いけぇぇぇ!!そいつでぶった斬れぇぇぇ!!」


 見事にぶっつけで成功した事を見て、感情が湧き上がり力が入る。

連携スキル『フレイム・オブ・ジャッジメント』が習得、発動されました。とログが流れ、目の前ではまさにそのスキルでボスのタイラントメンフライが真っ二つになり、ボスからおよそ10mあるであろう距離に立っているが、そこでも熱が伝わるほどの激しい燃え盛る火炎でボスの姿はみるみる黒い灰と化した。

 その瞬間、パーティログには経験値とドロップアイテムの名前が表示された。

つまり、我々の勝利だ!!

ログは確実に戦闘が終了したことを確認するために見ただけであり、あとの事は目を通さなかった。

アテナは盾に剣を納め、こちらへ戻ってくる。

レミシーはようやくクレーターから脱出できたみたいで、とぼとぼと歩きこちらへ向っている。

まず、アテナが到着し互いに笑顔でハイタッチし、2人は埋もれていたレミシーを迎え、レミシーともハイタッチし3人全員で勝利を喜んだ。


ドサッ………


 ボスを討伐した安堵でレオは体の力が抜け、よろめき座り込んでしまう。

その様子を2人は見て大笑いし、レオは苦笑いをした時だった。

 まるでテレビのリモコンでチャンネルを変えるように、洞窟内部に居たはずがパッと外に景色が変わった。

たった今、勝利の喜びを分かち合い笑顔で笑っていた3人は、一気に引き締まった表情へ逆戻りだ。

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