第8話 町長宅訪問

「いらっしゃい!何かお探しかい?」

店主であろう老婆が声を掛けてきた。

「あ、はい。俺は戦闘用のスキルが無いので、何か簡単に魔法が使えるようなものが無いかと探していました。」

すると老婆は目を細めながら「ほほ、あんた冒険者さんかい?珍しいねぇこんな偏狭な地へ来るなんて。もしや神話の冒険者さんだったりして………なんてな!あっはっはっは!」

と意味深な言葉を含めながら話してきたが、創は何て返したらいいかわからず「は、はぁ………」としか言いようが無い。

老婆は創の表情を見て「すまん!すまん!変なこと聞いてしまった様じゃな。お主、これはどうじゃろう?これは私が作ったとっておきの魔法スクロールじゃ!!」

そう言って老婆はカウンターの下の棚からいくつかの巻物を取り出しカウンターに乗せた。

しかし、創は何の魔法が使えるか、どの程度なのかわからないので詳しく聞くことにした。


「あの、これって一体どんな魔法が使えるのですか?」

「これか?まず、縛ってある紐の色が属性じゃな!そしてこのスクロールは全部、上級魔法の呪文が書かれておる。どれも1つ10万ルピーじゃよ?」

「じゃぁ、これ全部くれ!」と言って代金が入った袋をストレージから取り出し、カウンターにドンッと置く。

それを見た老婆は目を見開き「毎度あり!!あんたは見た目も良いし、太っ腹じゃなぁ!良い男じゃわ!」と大層喜んでいた。

創は買ったスクロールをストレージに入れると店をでて、また出店を見て回る。

この出店は戦技大会が終わる8日後まで出ているみたいだから、しばらくはお祭り雰囲気を味わえる。


だが、それとは別に気になる事があった。

それは健達と話題になったフォスカ島のモンスターの事だ。

全てボス属性になっている状況で初心者がこれからゲームを始めるにしたら無理ゲーに近い。

まぁ、俺は課金ガチャでレア装備を手に入れてるからまだ大丈夫だが………

しかし、何かの意図があってそうしているのならイベント要素が強いと考えた。

そして、この町で一番情報を持っているとすれば、まず町長だと思い、町の中央広場で町人から聞き込み、ここから北東の位置にある大きなログハウスが町長宅だと知り、さっそく訪ねることにした。


コンコンッ!

創がノックする。

少しすると家の奥から女性の声と共に走ってくる足音が聞こえた。


「はーい!!今開けますね!」


ガチャ………

扉が開くと綺麗な女性が出てきた。


「はい、失礼ですがどなた様でしょうか?」

女性は扉を開けるとそこに立っていた創と顔合わせきょとんとしている。

「あ、失礼!申し遅れました。私は冒険者のレオ・バレンタインと申します。突然の訪問で大変申し訳ないですが、今、町長とお会い出来ますか?」

「少々お待ち下さい!」と言った途端、女性はまた奥の方に走って行った。

それから待つ事、5分くらい経っただろうか、女性が戻ってきた。

「お待たせしてすみません。許可が出たので、どうぞこちらへお入りください。町長は奥の部屋に居ます。」

創は女性に案内に従い着いていく。

家に入るとすぐに広いロビーがあり奥の方には左右に階段が付いており、どちらからでも2階へいける様になっていた。

女性と創は右側の階段から2階へ上がり、奥へ続く廊下を歩く。

廊下の途中、左右に扉がある。創はキョロキョロと辺りを見回しながら歩いていると突き当たりに1つ扉があった。


「ここが町長室になります。どうぞお入り下さい。」


女性が扉を開けてくれ、創は先に部屋へ入る。

そこには一見どこにでもいるような普通のお爺さんが社長椅子みたいな黒い本皮の椅子に座っていた。

創は初対面で、しかも突然訪問したにも関わらず面会を許してくれた町長にすぐさま自己紹介とお礼を述べた。


「初めまして、私は冒険者のレオ・バレンタインと申します。突然の訪問にも関わらず、機会を頂き誠にありがとうございます。」

町長は自席から立ち上がり創の方へ歩み寄り創と握手をした。

「これは、これは。ご丁寧にありがとうございます。私はこの町の町長をしておりますクライム・ネルスと申します。道中大変でしたでしょう。ささ、そこのソファに腰を掛けて下さい。」

クライムは笑顔で創を迎え入れ、2人は応接用のソファに対面で座った。

そして、自分の後ろに立って待機している女性に対し、振り向き指示する。


「サリアや。冒険者さんにコーヒーを出してあげなさい。」

「はい、ただいま」

案内してくれた女性は一礼し、町長室を退室した。

「レオ殿、すみませんね。サリアは私の娘なのですが、まだこういう場に慣れていない為、親としては恥ずかしい限りです。私が体調を崩した時から娘はこうして面倒を見てくれているのですが、そのこともあり結婚に行き遅れ複雑な気持ちでもあります。はははっ………失礼!野暮な事を話してしまい申し訳ない。で、私には何用ですかな?」

少し余計な事を話してしまったと、困り顔しながらも今回の要件を尋ねてきた。


コン、コンッ!

「失礼します。」

このタイミングでサリアは飲み物を持ってきた。

「どうぞ、フォスカ島産のコーヒーです。」

「ささ、せっかくですので冷めないうちにどうぞ!このコーヒーは世界でも人気を誇る程の物ですので、お召し上がりください。」

自慢げにクライムは薦めてきた。

「それではいただきます。」

そこまで言うならと創は一口飲んでみると、独特の香りが口と鼻いっぱいに広がり、濃厚な味わいだが、後味はスッと抜けるようにさっぱりしている。

苦味も適度でコーヒーが苦手な人でも飲めそうな感じがする。

確かにこれなら幅広い層から親しまれ人気が出るのがわかる。


(あれ?VRゲームでも風味って感じるのだろうか?なんかこれリアルでコーヒーを飲んでいる感覚だけど………考えすぎかな?最新ゲームだからこれも仕様なのかな?)

創はコーヒーを飲んで何か違和感を覚えながらも、話しの本題を思い出す。

(もし、これがイベント等のシナリオであれば次に話が進むはず………仮に話が進まないとすればシステム上の仕様として受け取るしかないな………)

そう心の中で思い、話を切り出した。


「では、本題の方に入らせていただきます。私はこの島から冒険をスタートしたのですが、何故この島のモンスター達は全部ボス属性なのですか?何か理由でもあるのでしょうか?」

創が聞くと先ほどの優しい表情とは一変し、クライムは険しい表情になり創の目の奥を透かす様に見つめてきた。

「サリア、一度この部屋から出なさい。私が良いと言うまで決してこの部屋に入らないように………あと、他人も入れないように!」

「わかりました。では、失礼致します。」

サリアはクライムに言われた通り町長室から退室し、1階のロビーで待つことにした。


「さて、これで余計な者は居なくなったわけだが、何故その事がわかった?大抵、初心者冒険者なら死ぬであろう………私はてっきり、ソレイユ大陸からの冒険者だと思っておったが、レオ殿は何故生きておる?」

「私も始めは強い敵が多いなと思っていましたが、友人に話したところ「それは変だ!」と言われ、確信した所です。また、私が死ななかったのは固有のアイテム所持とホムンクルスを使用しモンスターと討伐していたからです。」

「そうか………レオ殿はこの地に伝わる錬金術士アルケミストを選んだのだな?」

「はい、その通りです。私は数ある職の中から錬金術士アルケミストを選択し、この地に召喚されました。しかし、この職を選んだのは少なくとも私一人ではないはずです!数人はこの島に居ると思うのですが?」

「そうじゃな。なんせ私を訪ねて来たのはレオ殿で五人目だからな!」

「ご、五人目!?」


(他のプレイヤーもここのモンスターと戦っていれば異変には気付くはず………だが、俺の他に四人が来ているのにも関わらずこのクエストが進行しているとなると………)


「ちょっとお聞きしたいのですが、私の他に四人が訪ねてきた時もこの話題でしたか?」

創の質問に町長は無言で頷いた。

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