第9話 異変

(ちょいまて………ゲームならクエスト進行中、戦闘不能で全滅してもセーブポイントに死に戻りするはず。最悪、ゾンビアタックしながら進行すればクエストはクリアできるはずだ。だけど何故、このクエストがクリアされていない?)

レオから何故か冷や汗が出てくる。それは直感で悪い予感がしたからだ。


「町長!その四人は今何処に!?」

町長は目を瞑り横に首を振った。

「へ?なんで?システムの不具合か何かかな?」

その言葉にクライムは「システム?なんの事かね?」


その時だった………


周りの風景がゲームのバグッた状態のように画像がおかしくなった。

「なんなんだ!?これはゲームだろ!?おい!ゲームマスター!?」

突然の事で状況把握が出来なく少しパニックになっている。

すると、クライムの様子が突然おかしくなり、まるでゾンビの様に白目になり、体をガタガタ振るわせながら歩き方も酔っ払いのように千鳥足で創の所へ歩みよる。


「お前は………少し………よ…けい……な………事を………」

クライムは何者かに操られているかの様だった。先ほどまで話していた時の声と違い、また何を喋っているか聞き取りづらい………

「う、うわぁぁぁ!なんだよこれ!!」

怖くなったレオは慌てるがあまり、テーブルに足をぶつけコーヒーカップが地面に落ち、割れたのも気付かないくらい急いで走り町長室を飛び出し、1階へ繋がる階段も無視し2階の手すりから飛び降り、1階のロビーへ転げ落ちる。


ドタンッ!


突然の大きな音でビックリしたサリアが音の鳴った方へ振り向くと、そこにはレオが倒れていた。

それを見て慌ててレオに駆け寄る。

「レオ様、大丈夫ですか?なぜあんな無茶を?」

「サリア!話は後だ!!とりあえずこの家から出るぞ!!」

レオはサリアの手を引き一緒に走り町長の家を飛び出した。

すると、そこは先ほど華やかな装飾でお祭り雰囲気の町が一変し、町人達も怯え、その場で腰を抜かしている者が多数居た。

そして空は暗黒の雲に覆われ、稲光まで鳴っている。


「なんなんだよ、これはぁぁぁぁ!!」

レオは訳がわからず思わず大声で叫んだ。

「なんだあれは!何か人っぽいのが空に浮いているぞ!?」

町人の1人が空に指を差し叫ぶ。

その言葉でレオ達も含めその場に居た者全員が注目した。確かに空に人っぽい物が浮かんでいる。

すると中央広場にあった大型モニターに1人の黒尽くめの男が映った。


「あーてすてす。ちゃんと映っているかなぁ?」

黒尽くめの男はふざけた感じで手を振り、自分がモニターにちゃんと映っているか確認している。

「うん!大丈夫そうだね!世界の皆さん!こんにちは!!急に驚かしてごめんねぇ~。僕はミグラスって言いまぁ~す!本当はこのまま静かに見守っていようと思っていたのだけどさぁ~。なんか変に勘がいい人が居て、俺の企みに水を差そうとしていたから、出てきちゃった。テヘペロ!」

男がそんな事をしても無性に腹が立ってくるだけであって、その態度にレオは怒りを覚え今にも爆発しそうなくらい高ぶり体もフルフルと震えている。

「みんなは知っていたのかわからないけどさぁ~!これって実はゲームの様であって実はゲームじゃないんだよね!!あははははっ!!どう!?みんなビックリしたぁ!?」

耳に手を当て冒険者からの声を聞くように耳を澄ませる態度を取る。


「お前達はVRゲーム機付けてこの世界へ訪れ好き勝手している。だけど俺達モンスターと言われる存在はただただ虐殺されていく。そんなの変じゃないか!俺達だって自由に生きたい。倒される理由なんてないじゃないか!なぁ、そうだろう?それで俺は考えた………お前達はどうやってこの世界に来るのかを………何で、君達はこちらの世界に自由に来れて俺達はそっちに行けないかを………そして、自分なりに研究した!冒険者を生け捕りにし、いろいろ実験をした………」

今までふざけた態度で話していた男が、急に冷たい眼差しへ変わった。


「そして、俺は知ってしまったんだよ………だから!!俺はお前達の世界へ行き今までの復讐を!!それにはあと少し、あと少しなんだ!!鍵が未だわからないんだ!」

正直、レオはミグラスが何を言ってるのかわからなかった。

だってそうだろう?ゲーム内で敵が現実世界リアルに来るなんて事、実際にありえるわけが無い。

しかし、このゲームは独立型AIシステムを搭載している。もし、このシステムでモンスターが学習したとしたら?知識を得たとしたら………それはAIの暴走とも言える。

そう考えたレオはザワっと寒気を感じた。


(じょ、冗談じゃないぞ!?こんなのが現実世界リアルに来たら、地球が崩壊してしまう………それだけは避けたい。だけど、こんな状態ならゲームマスターが黙っては居ないだろう………ん?ゲームマスター………そうだよ、なんでゲームマスターが出てこないんだ?)


「おい!ちょっと聞きたいんだが、そんな事してたらゲームマスターが修正してくるはずだぞ?」

「ゲームマスター?あぁ!あの数人で現れた大層な装備をしてた奴らか!あんなのお遊びにもならなかったよ………確かに強力な武器やスキルを使ってきたけど、戦い方なんてただの素人よ!ただ、あいつ等の脳データは良かった!そのおかげで、かなり研究が進んだよ!アハハハ!!」

レオはゲームマスターがやられた事を知り、このゲームはもう無法地帯になっている事に気が付く。


(いや、ゲームマスター達が自分で作ったシステムに負ける?いやいやいや………そんなの嘘だ!証拠だってないじゃないか!)


「そんな情報得たって、実際に現実世界リアルに来るなんて無理だ!唯一、俺達だって生身の体は現実世界リアルにあるんだぞ!?そんなデータの存在が地球上に生体として存在できるわけない!」

ミグラスは深くため息を付き、目を閉じ頭を左右に振る。


「全然ダメだ!全く信用されてないな………なら、これならわかってくれるかな?」

ミグラスは天に両手を翳し、魔力を放出するとこのゲームにログインしているプレイヤーの足元に魔法陣が浮かびあがり、そして現実世界でもプレイヤー体の下に魔法陣が浮かび上がり光を放つと体が消え、ヘッドギアのゲーム機だけがその場に残った。

するとプレイヤー達は元の体へ変わり、ゲーム内と現実世界での性別が違うもの、身長が違うものがすべて現実世界の自分に代わり多くの悲鳴と怒号が聞こえてくる。


「どうだろう?これで少しは信用してくれたかな?」

レオは性別や背丈、見た目はほぼ現実世界リアルと一緒にしていたが、右手のひらを見るとゲームのし過ぎでマウスを動かす際、テーブルに付けている部分の皮膚が硬くなっていた為、自分の体だとすぐにわかった。

すると、ミグラスはニコッと先ほどのように陽気な態度に戻った。


「まぁ、そこで1つだけチャンスをやろう。5日に開催される予定だった戦技大会だが、それをコロシアムにしてあげよう!相手は俺が作ったモンスターだ。負ければ死が待っている。なんかゾクゾクしちゃうよねぇ~!」


少しの間、世界中が沈黙した。


「特別に俺がグローブ砂漠に特設会場を作るから5日後、皆を強制送還してあげるね!そこで生き延びた者だけ自由にしてあげよう。まぁ、この世界の中だけどね!ただ、不参加や逃走した者はこうなっちゃいまぁ~す!」

ミグラスは魔力で町長の体を自分の元に持ってきた瞬間、ドスッ!と鈍い音がした。

すると血が噴き出し、腹を貫通し背中から手が出ていた。


「お父さまぁぁぁぁ!!」

サリアはその場で泣き崩れる。

レオは泣き崩れ恐怖のあまり体が震えているサリアを優しく抱え込み、ミグラスに鋭い目つきで睨みつける。

ミグラスはレオの表情を見て喜んだ。

「いいねぇ!その表情、実にいい!!ゾクゾクするよぉ~!クククククッあははははは!」

レオの口角がブチッと切れ血が出るくらい怒りが湧き出してくる。

「アイツは完全に腐ってやがる!」

「じゃぁ、俺も会場を作らないといけないし、そろそろ帰るね!では5日後に合いましょう!ばいば~い!」

手を振りながらミグラスは黒い玉に包まれ飛んで行くと空は青空に戻り、明るい日差しが差し込んでくるが、中央広場には無残にも町長の遺体が落ちていた。


町の皆はそれを見て泣き叫ぶ人も少なくは無かった。

町長の葬儀はその夜、執り行われ無事終えた。

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