第6話 健の思惑
「なんだよ?悪いか?」
「なんで!どうして!?錬金術士アルケミストより強い職業なんて沢山あるじゃない!なんでよりにもよって錬金術士アルケミストにしちゃったのよぉ……」
創は自分の選んだ職業がワルジェネの中で最弱職、ネタ職業と世間で言われている理由はスキルにある。
他の職業なら何かしら戦闘に役立つスキルが習得できるが、錬金術士アルケミストは生産系スキルしか習得できないとされている為、敬遠される職業だ。
しかも、ポーションを作ったところでプリーストが使うヒールの回復量に勝るはずも無く、現状は駆け出しの冒険者のご用達くらいにしかならない。
唯一救いなのはホムンクルスを召喚し、戦闘で戦わせるくらいだ。
だが、自分がやりたくて選んだ職をバカにされるのは正直ムッとくる。
「別にいいだろ?俺はやってみたい職業を選んだ訳だし、他人に干渉される筋合いは無いと思うけど?」
葵は創の話す口調で機嫌が悪くなったのに気がついた。
「あ、いやいや!別にバカにしているとか、そんなんじゃないから!!ただ、なんで錬金術士アルケミストにしたのかなぁ~?って聞いただけでさ………ははははっ」
笑って誤魔化し、創の顔を見ながら機嫌を伺う。
「俺はただ『ホムンクルス』のスキルを使ってみたかっただけだよ。」
「なるほどね~!私も一度見てみたいなぁホムンクルス!!」
「無理だな。」
「えぇぇぇ!!なんでよぉ?いいじゃない1回くらい!!」
「いや、そもそもスタート地点が違うだろ?ちなみに葵は職業何にしたんだ?」
「私はパラディンよ!!女の盾職ってなんかかっこいいじゃない?」
「って事はプロヴィデンス王国か……まぁ、葵ならパラディンって感じよりグラディエーターがお似合いだけどな!」
「でしょぉ~?って!!失礼な!!なんで私があんな野蛮な職業なのよ!?んで、創はスタート地点どこなの?」
「言ったってわからないって!」
「いいから!教えて!!」
創の失言に彼女はムッとし少しトゲのある口調で話す。
強引な葵に創は面倒くさくなり、困った表情で頭を掻きながら呟いた。
「フォスカ島の田舎町マキアって所だよ。」
創はポカーンとしてる葵をみて「ほら、どこだかわからないだろ?」と言いながら呆れる。
「だって!普通は大きな大陸にある街や王国からスタートじゃない!?それがフォスカ島?田舎町マキア?ドコソレ?って感じになるじゃん!!」
2人がわいわいと話していて気付くと大学に着いていた。
「まぁまぁ、ゲームの話しは後だ。ほら着いたぞ!じゃぁな!」
葵はまだ話したそうにしていたがキャンパスの中で創と話していると面倒な事になるのを知っていた為、会話を止め自分の研究室に向う。
創が研究室へ行き白衣を着ようと自分のロッカーを開けると雪崩れるように手紙が出てきた。
「はぁ………なんでこうも毎日、毎日………書いてくれるのはありがたいけど、俺の気持ちも考えてくれ………」
毎度の事でうんざりしな創は人に聞こえない程度の小声でボソッと呟いた。
しかも、どうやって忍び込んでるんだよ!ここのセキュリティ大丈夫か?
創は白衣を着ようと手に掛けた時、ある事に気がついた。
それは自分の白衣がやけにしわだらけでうっすらと口紅の後が付いている。
創は思わず白衣を地面に投げつけた。
「マジでうぜぇ!!冗談じゃないから!これだから俺は嫌なんだよ!!」
創が引きこもる様になったのもこの様な事が頻繁に起きるようになった事も影響している。
そんな創でも毎日、ロッカーに入っている手紙を全て鞄に入れ、時間の合間に目を通し、中には告白の手紙があるが、それもきちんと待ち合わせ場所まで行ってきちんと断ってくる程だ。
それが良いのか悪いのかはさておき、創の中では本当はあまりかまって欲しくない。
それより放置してくれる方が気が楽だ。
だが、イケメンで優しく運動神経もいいので男女共に創の周りに寄ってくる。
その事もあり、ゲームくらいは1人でのんびりやりたいと思い、スタートが僻地で人気の少ない錬金術士アルケミストにした事も一理ある。
一気にやる気をなくした創は少し落ち着こうと思い、研究室を出て自販機でコーヒーを買い、休憩用の椅子に座り一人でしんみり飲んでいた。
「よう!朝から暗いなぁ!?」と、声を掛けて来たのは同じゼミの水里健だ。
金髪ショートでチャラ男に見えるけど、芯はしっかりしていて剣道サークルのエースでもある。
「それはそうと!さっき葵ちゃんから聞いたぞ!!?お前、ワルジェネ買ったんだって!?」
「しーっ!!声がデカイ!!」
創は慌てて立ち上がり健の口を手で抑える。
しかし、時は既に遅く、周りに居た生徒が「マジか!」といわんばかりの表情でこちらを見ている。
「はぁ………おまえなぁ~!」と創は健を睨みつける。
「ごめん!ごめん!そんなつもりで言ったわけじゃないんだ………ただ、葵と俺は同じパーティ組んでいるから、創もどうかな?と思ってさ………ははははっ」
と申し訳なさそうに言うが周りに聞こえる音量で言ったため、聞いていた生徒達には創がまだパーティやギルドに入ってない事がバレてしまった。
尚更、健は申し訳なくなり「本当にごめん!」と創に謝る。
「まぁ、聞こえてしまったものはしょうがない。だが、この話題の話をするときは場所変えてくれ………」と創は机に雪崩れるように顔を伏せた。
それからの休み時間がカオスな状態になったのは言うまでもない。
どんどん話しが広がり、キャンパス内を歩いていると周りから小声で聞こえてくる。
「獅堂君、ワルジェネやってるらしいよ!」
「パーティ組んで無いみたいだし、私もワルジェネやってるから誘ってみようかな!?」
しかも大半、女子からパーティやギルドの誘い話ばっかりだった。
(これだから嫌なんだよ………もう1人にしてくれ!!)
創は心の中で嘆いてはいるが、勧誘してきた生徒達には丁重にお断りを入れている。
「それにしても女子も意外とゲームやるんだな………」
創は意外と女子がゲームをやる事に驚いている。
そんな中、創は殺気を帯びた視線に気付き、その方向へ振り向くとそこには誰も居なかったが、微かに3人の男子が立ち去る後姿が見えた。
―――放課後
休み時間に健から「放課後、屋上に来てくれ!」とお願いされていたので、創はとぼとぼと屋上に向う。
「絶対、ワルジェネの話しだろう。俺は早く帰ってログインしたいんだけどな………はぁ………」
創はため息をつきながら歩いていると屋上に着いた。
「お!来たな!」健が大声で声をかけて来た。
健の方を見ると数人集まっていた。
その中の1人は葵で後2人は見たことあるけど、名前までは知らない。
すると、健はこの場を急に仕切り始めた。
「まずは来てくれてありがとう!さっそくだが知らない奴もいると思うから俺から紹介させてもらうぜ。まず、葵ちゃんの親友である竹村琴音たけむらことねちゃんだ。」
「は、はじめまして!竹村琴音たけむらことねです!!プ、プリーストしてます!!よ、よろしくお願いします!!」
琴音は創の前だからか、緊張と恥ずかしさで顔を真っ赤にし、涙目になりながら頑張って話した。
彼女は小柄なメガネっ娘だ。ただ言える事は胸が大きい……
「あ、どうも………獅堂創です。よろしくお願いします。」
創は普段どおり素っ気無い挨拶で済ませた。
それだけ?と言う表情の健だったが、慌てて気を取り直し進めた。
「次は俺の幼馴染、高瀬夏樹たかせなつきだ!!」
「はじめまして、高瀬です。ウィザードやっています。よろしくお願いします。」
彼はどう見ても文科系男子って感じだし、いくら幼馴染でも活発な健と気が合うのか不明。
健はどっちかというと運動系の奴らと行動しているイメージが強い方だがな………
まぁ、幼馴染ってのは特殊な関係なんだろう。
俺も葵と幼馴染で端から見ると付き合ってるように見えるらしいが、実際はそんな関係ではない。
「あ、どうも。よろしくお願いします。」
創は先ほど挨拶した為、簡単に済ませる。
「おぉし!!んじゃ、自己紹介は済んだって事で本題に入るぞ!」
健が妙にテンションが高くノリノリで仕切る時は、ろくでもない事を提案してくる事が多い。
創は予想が付いたので先に断わろうと思った。
「俺はギルドには入らないからなぁ~!」
その言葉で健は固まった。
「おいおい!これから話そうと思っていたのになんで先に言うんだよ!?しかも、これはまだ誰にも話していなかったのに!!」
健は皆をビックリさせるつもりだったみたいだが、創以外のメンバーも大体予想は付いていたような雰囲気を出していた。
それを見た健は尚更悔しそうにするが気持ちの切り替えも早い。
何も無かったように創以外のメンバーを誘う。
「あの~、創には先に言われたけど、実はこのメンバーでギルドを結成したくて、良ければ入ってくれませんか?」
手の平を返すように先ほどの威勢の良さはどこへ行ったのか、今度は下手に出るようにお願いしてくる。
「まぁしょうがないわね!私が居ないと盾いないじゃない?」
葵が腕を組み仁王立ちでドヤ顔をし、自分が居ないと何も始まらないといわんばかりな雰囲気をかもし出す。
こいつはこいつでとんだ勘違い野郎だ。
竹村と高瀬は葵に続き「はい、よろしくお願いします。」「まぁ、健が言うなら………」と承諾した。
それを聞いた健は思わずガッツポーズをした。
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