第19話 死闘
ランディの進んだ後を進むネネリ達は当たりに散らばるモンスターの亡骸に目を向ける。
「あいつ、派手にやりすぎだ………」
亡骸の中には数人ほどプレイヤーも混ざっていた。
ネネリはレオ達の方に目を向け、戦闘の様子を鋭い眼差しで伺い戦略を観察する。
「ファリン!炎属性魔法はどの程度使える?」
「ん?炎ならほぼカンストしてるよ~!」
「それなら、問題ないな!どうやら奴は炎に弱いみたいだ。」
「あぁ!なるほどねぇ!そういうことなら任せて!」
ランディの所に移動しながら、ネネリは作戦を練り始める。
(私的には人の戦術をそのまま使用するなどしたくは無いが、初のモンスターで不安要素もある。そして何よりもうこれ以上、仲間を失いたくない。だからあいつらの戦い方のマネをするのはいたしかたない………)
本来であればプライドが許さないが、今はそんな事を言っている場合じゃない事は彼女も重々承知だ。
「おい!作戦はいいのか!?獲物が見えてきたぞ!?」
マキシーの言葉で、ハッと目が覚めるようにネネリが正気に戻る。
「すまない!つい、考え事を………」
「らしくねぇな………大丈夫か?」
「大丈夫だ!問題ない!!」
(ここで弱音を見せてどうする!私はリーダーだ。みんなに示さなきゃダメなんだ!)
ネネリはらしくない自分の行動が悔しく口を噛み締める。
マキシーは気付かれないようさりげなく振り返り、そんな彼女の様子を伺う。
ネネリは仕切りなおし「まず、ランディと合流後、マキシーと私が前衛ポジションにでる。ファリンときなこはセットで後衛ポジションへ!ファリンは炎属性魔法で攻撃、きなこはMP管理を疎かにせず、支援、回復魔法を頼む。MPポーションが足りない場合は言ってくれ!スナイパーのマフィンはファリンと連携し、遠距離で攻撃、又はイレギュラーで来た敵の排除を頼む。アサシンのパンジーは遊撃で臨機応変に動いてくれ!作戦は以上だ!異論は認めん!」
全員、ネネリを信頼している為、異論などはない。
そして、団結力を見せ付けるかの様に自然と発言のタイミングが合い全員が「了解!!」と自分に気合を入れるかのように大声で叫ぶ。
メタルクローと交戦中のランディはネネリ達に気付くと素早く下がり合流する。
きなこはランディが合流した事を確認すると同時に、支援魔法を先にマキシーとネネリに掛ける。
ランディはというと『モード・バーサーカー』が発動中なので攻撃力、防御力、攻撃速度、HPが3倍上がる代わりに支援・回復魔法、回復アイテム等の効果は一切受け付けない。
解除方法は最大HPの3分の1までHPが減少するか、制限時間の60分に到達すれば強制解除される。
解除された後は12時間、『モード・バーサーカー』は使用できない。
また12時間経過までは攻撃力、防御力、攻撃速度が5割減少するペナルティがある。
なので、この戦闘はランディのスキルが解除される前に終わらせたいと、そう誰もが思っている。
「戦闘開始だ!!」
ネネリの掛け声で再度、ランディはメタルクローに飛び掛る。
「くっ………あいつの動きがイレギュラー過ぎるから、魔法が撃てない!」
ランディの戦い方が雑すぎる為、ファリンはなかなか魔法が撃てなくてイラついている。
「ファリン、そう慌てるな!」
「ランディ!私と2人で頭部の方を狙うぞ!」
ネネリはファリンを思い、ランディをこちら側に誘導し彼女に対しウィンクをし合図する。
それを見て笑顔で返答し、メタルクローの腹部を『フレイムランス』で攻撃し始める。
ネネリはストレージを開き、炎属性の武器<UR魔炎フラムナート>を選択し、換装する。
<UR魔炎フラムナート>は両手装備で、紫色の魔界の炎を纏っている大剣だ。
「おい、ネネリ!ランディがだいぶやったみたいで多分、俺の『ヘイトブースト』使ってもタゲ取れねぇけど、どうする?3人でやるか?」
「そうだな、ヤバそうな時は入れ替えてくれ!」
「了解。」
『ダメージアブソーブ!!』
『ヘイトブースト!!』
マキシーの予想通り、『ヘイトブースト』を使用しても、既にランディのヘイト値が上の為、敵は見向きもせずランディに攻撃を仕掛けてくる。
ガキィィィン!!
大きな衝撃と共に金属音が鳴り響く。
ランディはアックスで攻撃してきたメタルクローの角を抑え込むと、絶妙なタイミングで
マキシーは『チェンジ・ザ・ポジション』を使用しランディとの位置を摩り替える。
メタルクローは瞬時に相手が変わってもまだ攻撃の勢いが残っており、対象を変える事が出来ず、やむを得ずマキシーを攻撃対象とした。
「おし!タゲは取ったぞ!!思いっきりやれ!!」
そのマキシーの一言に、メンバーの総攻撃が開始される。
ネネリは大剣を肩に担ぎ、可能な限り敵の懐まで入り地面に足が食い込む程に踏み込み、歯を噛み締め思いっきり振り下ろす。
『ブレイクスラッシュ!!』
名前の如く、メタルの様な硬い皮膚もネネリの武器とスキルには敵わず、頭部と腹部の調度真ん中辺りを切り裂くと中からドパァッ!!と噴水の様に体液が噴き出す。
グガァァァァ!!
苦しむメタルクローを余所にファリンはネネリが切り裂いた場所を目掛け内部に『フレイムランス』を叩き込む。
すると体内の液が蒸発し、到る所から水蒸気が漏れ出してくる様子をから「あ………ヤバイかも………」と苦笑いで誤魔化す。
時は既に遅く、上空を見上げるとランディがアックスを振りかぶったまま勢い良く落下してくる。
その様子を見てネネリは慌ててメンバーに離れるよう促す。
「皆!散開!!」
メタルクローから全員急いで引き下がる。
20mくらい離れただろうか、メンバーはメタルクローの方を振り返るとランディが渾身の力で頭部を一刀両断すると、その衝撃が伝わり内部で圧縮された水蒸気が一気に弾け飛ぶ。
ドオォォン!!
爆発音と共にメタルクローの破片や沸騰した体液が辺りに飛び散った。
ネネリは大剣を、マキシーは盾を傘代わりにして高温の体液が付着しないようにしている。
また、後衛の連中達はきなこの『プロテクションバリア』内に非難していた。
ただランディ1人だけが普通に浴びてダメージを食らっていた。
「フゥ、フゥー、うぐっ…….…」
体もスキルの影響でかなりの負荷がかかり苦しそうだ。
「お前!HPが………」
ネネリは今のダメージでランディのHPが半分くらいまで削られてしまったことに不安を隠せない。
しかも、今は回復魔法、回復アイテム等の効果は一切受け付けない為、どうする事もできない。
「なんだぁ~、意外と楽勝だったじゃない!この調子で残りも倒しちゃおう!」
そんな事も気にせず、案外スムーズに倒せたことで上機嫌になったファリンが『プロテクションバリア』の外へ出ようとした瞬間!
アサシンのパンジーがファリンのスカーフを素早く握り、バリア内へ引き戻した。
「ぐぇ………」
不意をつかれたファリンはいきなり首を絞められた感じになり、息が出来なく危うく吐くところだった。
「何をするんだよぉ!!」と怒りをパンジーに投げつけようと振り返ると目の前にはもう1匹のメタルクローが飛び掛ってきていた。
カアァァァン!!
『プロテクションバリア』に突進し、角で挟み込む。
ピシッピシッとバリアの障壁が徐々にヒビ割れてくる。
「あ、あぁぁぁ………」
きなこは目の前に居る巨大な敵に対して恐怖を感じ、目には涙を浮かばせ、体を震わせながらも懸命にMPを注ぎ込みバリアを修復しながら耐えているが、メタルクローの力は生半可ではない。
マキシーやランディ、アテナさえ全力で受け止めなければ吹っ飛ばされる程だ。
後衛陣はバリアの外へ出た瞬間、たぶん体の一部が空に舞うであろうと誰もが確信し、そこから動くことが出来ない。
また、『チェンジ・ザ・ポジション』はバリア内の対象とは入れ替えができない為、万事休すだ。
ネネリとマキシーは自分達の足できなこ達の所へ急ぐ。
ランディは先ほどのダメージでボロボロになりつつも仲間の所へ向おうとする。
スキルの強制解除までそう長くは無いが、もし解除されてしまうと益々戦況が悪化するであろう。
好調な出だしを見せていたローランドホープだが、ここへきて一気に戦況が変わりつつある。
ピシッピシピシッ!
「ダメ!こ、これ以上は耐え切れないぃぃ!!」
泣きじゃくるきなこをファリンは横で「最後まで諦めないで!私のMPも渡すから!!」と慰めながらファリンはきなこの腕を掴みMPの転送を行なう。
メタルクローは尚も力を入れバリアを破壊しようと挟み続ける。
マフィンとパンジーは対処の手が見つからず、その場に退避している。
すると、奥からマキシーとネネリが向って来ている事に気がつき、パンジーは2人の姿を見つめると何を思ったのか、首まで下げていた布地のスカーフを鼻まで被せた。
それが何を意味するのか3人はわかる。
「パンジーやめて!2人が今向っているからそれまでここで待っていよう?」
「そうよ!このタイミングで外に出るなんて………あともう少しだから!」
「んんん………私頑張るから………だから、行かないで!!」
3人はパンジーを止めようと説得するが、彼女は無言で目を細め笑顔で応え外へ出ようとする。
その様子を見ながら向かっていたマキシーはパンジーの指先が光っていることに気がつく。
それは、まるで此方に合図している様にチカチカと光らせていた。
この時、彼は冴えていたのか彼女の行動が何を意味しているのか瞬時に理解できた。
そう、『チェンジ・ザ・ポジション』をしろと合図をしていたのだ。
いつもなら1対1で位置を入れ替えいたが、それじゃ今の戦況を打破する事は出来ない。
なら、密着してたらどうか?とマシキーは思いつく。
浅知恵ではあるが、今はそんなのどうでもいい。
わずかでも可能性があるのであれば今はそれに賭けるしかないーーー
「ネネリ!!」
マキシーはお互い走っている中、腕いっぱいに伸ばしネネリの手を繋ごうとしていた。
ネネリはまだ何が何だがわかってはいないが、マキシーの手を握ると彼は勢い良く抱き寄せた。
「きゃぁぁ!!」
いきなり過ぎて、つい女の子の声を上げてしまったネネリは少し恥ずかしくなり赤面する。
しかし、マキシーはそんな事など気にも留めていなく「一か八かだ!いくぞ!?」とネネリに言うと盾を前に構え『チェンジ・ザ・ポジション』を使った。
すると、パンジーはその動きにタイミングを合わせバリアの外へと上に跳び出ると、その瞬間に入れ替わる。
現れたのはマキシー1人だけだ……
盾を前方に構えメタルクローに突撃する。
しかし、地面にもう1つの影が写り込んだ。
すると、上空から魔炎フラムナートを振りかぶったネネリが降りてくる。
成功だ。
「おらぁぁぁ!!」
ネネリは渾身の力を込めてメタルクローをぶった斬る。
そして、マキシーも直ぐに『ヘイトブースト』を使いタゲを取り、きなこ達に「お前達、下がれ!」と体制を整えさせる。
バリアを解除したとたん、きなこがフラ付き倒れそうになるのをマフィンが抱きかかえ、ファリンと共に急いで下がる。
が………ファリンはきなこにMPを供給していたことにより残りのMPが半分以下になっている。
一応、精神力は鍛えてはあるが、ここからは急性精神枯渇症(MP切れ)の注意も必要となってくる。症状が現れた状態で敵に狙われてしまうと対処できる程に動ける保障も無い為、下手すると無防備で攻撃を受けてしまうことになる。
MPポーションもきなこに分け与えてしまった。
きなこも同じくMPは半分以下だ。
むやみに魔法を使ってしまうと、肝心な時に回復魔法を掛ける事が出来なくなる。
マフィンは2人の状態を知っている為、ここは私がカバーをしなきゃいけないと意気込んでいると、先ほど入れ替わったパンジーも合流した。
「パンジー!無事でよかったぁ!」
パンジーの無事な姿を見てファリンは安堵する。
他の2人も笑顔で迎え入れる。
だが、そんなにゆっくりもしてはいられない。
「追撃を頼む!!」
ネネリが大剣を振り回しながら後衛陣に言うと、マフィンが高速で弓を射る。
パンジーは後衛陣の護衛に回る。
ザッザッザザッ………
斧と左足を引きずりボロボロの姿で歩いて向ってくるのはランディだ。
もうだいぶ意識が通常状態へと戻ってきている。
それでも尚、敵を倒そうとネネリ達の方へ向う。
「ダメよ!」
パンジーがランディの腕を掴み、止める。
「うっせぇ………とめ……んじゃねぇよ………」
「そんなボロボロで行ったって2人の邪魔になるわ!ここで大人しく休んでなさい!」
そ れでもランディはパンジーの手を力ずくで払いのけ、2人の所へ向おうとするが、パンジーもここは意地でも引かない。
それはパーティメンバーのHP表示を見ると一目でわかる。
ランディのHPは既に半分を切っていて、後1発でも食らえばスキルは強制解除されるか大ダメージを受けると死ぬ可能性もあるくらいまで減っていたからだ。
そこまでわかっていながら、彼をそのまま行かせるのは仲間として如何なものか?と思っての行動だ。
だが、正直言ってマキシー、ネネリ、マフィンの3人ではメタルクローを倒す為の火力としては弱い。
ここにランディがファリンどちらかが加われば話しは変わってくる。
ランディ事態も火力不足だという事は承知しているため、パンジーを振り払い向おうとしている。
お互い仲間を守ろうという気持ちは同じだが、どうしてもすれ違ってしまう。
「あぁ!もう私が行くわよ!!」
ファリンは2人が言い争っているのが見てられなかった。
なんとかマフィンやパンジーからあるだけMPポーションを分けてもらい、それをきなこと半分ずつ分けた。
「きなこはここで待ってて!無理はしないでね!」
「ありがとう………ファリンも気をつけてね………」
MPを浪費し過ぎたのか疲労が凄く、動けずマフィンのポーチを枕代わりにして横になっているきなこの頭を優しく撫でる。
気が済むと立ち上がり、栄養ドリンクを飲み干すように上を向いてMPポーション1本をゴクゴクと飲み干す。
「ぷはぁ!!マズイ!もう1本!!」
「変な冗談はいいから行くなら早く行けよ………」
パンジーにツッコミを入れられると、ファリンはさっきから言い合いしていてウザッたいランディに向け睡眠魔法を放つ。
『スリープゴート』
すると、ランディの頭に睡魔を誘う羊が召喚され、その羊達が眠気を誘う。
「お、おまえ………くそ……な魔法……か………け……やが………」
ドサッ………
ランディは眠気に勝てず、その場で寝て倒れてしまった。
「じゃ!あとはよろしくぅ!!」
ファリンはパンジーに2人を託し、ネネリ達の方へ向った。
いつもなら最低10本は所持しているMPポーションも残り3本、何とか使いきる前に倒したい。とファリンの心の中は不安でいっぱいだった。
「遅くなってごめん!!」ファリンは息を切らしながらネネリ達が戦っている場所に着いた。
敵の攻撃を受けながら「ランディはどうした?」とネネリがファリンに聞く。
「ん?寝かしたぁ~。」
それを聞いてネネリは少し安心したような表情を見せた。
「おし、4人でこいつを倒すぞ!!」
各自、先ほど戦闘でどうすればいいかわかっており、細かく指示を出さなくても臨機応変に動く。
「さっきから力を込めて斬ってはいるが、あまりダメージが通っていない。コイツ先程のヤツより硬くないか!?」
ネネリは何か異変に気付く。
彼女の攻撃が通らないという事はマフィンの攻撃も当たり前のように通らない。
頼みの綱のファリンの『フレイムランス』さえ、かき消される。
「うそ………なにこの反則的な仕様は……」
ファリンも信じられないという顔で反応する。
しかも、コロシアム会場にはこのメタルクローが残り3匹居る。ネネリはメタルクローと戦闘している他2パーティを見渡し状況を確認すると、どこも似たような状態で苦戦している様子だった。
先ほどまで楽勝では無いが、ダメージが通り倒せていたのに、何故、ダメージが急に通らなくなってしまったのか……その事が頭から離れない。
「くそっ!!」
普段、冷静なネネリだがダメージがなかなか通らない為、段々イラついてくる。
このままではただ時間が過ぎるだけの消耗戦になってしまう。何か手は無いのかと考えながら戦う。だが、ネネリも人間だ。他の思考が入れば反応も鈍る。しかも、こんな命を懸けて戦っている場で余計な思考は命取りになる。
「ネネリィィ!!」
ハッ!と気付くとネネリの背後にメタルクローが居た。
普段の戦闘では絶対と言っていい程、ありえない。
敵に隙を見せるなど騎士たる者、あってはならないのだ。
「し、しまった……」
その瞬間………
「ばかやろう!!こんなときに何考えてやがる!」
マキシーはネネリを怒鳴りながらも盾でメタルクローの攻撃を防ぎ彼女の背中を守る。
「す、すまない……だが、奴は依然と違って硬く、ダメージが通らないんだ……」
「なんだ、そういうことか。」
「なんだってなんだよ!?ダメージが通らなきゃ倒せないじゃない!!」
「ダメージ……通ればいいんだな?」
敵の攻撃を受けながらネネリと話すマキシーは何か策があるような言い方をした。
「お、おまえ何を?」
「いいから……コイツを上空に飛ばせるか?」
「そのくらいなら………」
「よし、んじゃ渡すぞ?」
「わかった………よし、来い!!」
ネネリの合図と共に素早く盾の角度を変え攻撃を受け流し、彼女に任せた。
ガランッ……ザッ………
カチャカチャ………ゴトッ!
「ちょ、ちょっと!マキシー何してるの!!?」
突然の事でファリンは血迷ってしまったのかと驚く。
ネネリは自分の後ろで起こっている騒ぎが気になり、振り返る。
すると、マキシーは自分の盾や剣をその場に置き、グローブも脱ぎ捨て両手が素手になっていた。
「おまっ……!!何をしている!?正気か?」
「あぁ、正気だ。たぶんこれならいけるだろ?」
「それじゃお前の腕が………」
「大丈夫だ。考えがある。」
「おい!!いつまでそこで寝ている!?支援魔法1回くらいは出来るだろ!?」
大声で叫ぶと「は、はい!!」ときなこが飛び起きた。
「ちょ、ちょっと!きなこはさっきので……」
きなこに対してのマキシーの態度にイラッと来るファリン。
マキシーは細く鋭い目つきでファリンを睨みつける「……うっ」その気迫に押されて何も言えなくなる。
「おい!プロテクションバリアを俺の両手に掛けろ!」
「は、はい!………手?手ですか!?」
「時間が無い早くしろぉ!!」
「は、はいぃぃ!!」
本来、『プロテクションバリア』は人の体全体、あるいは周囲に障壁を展開していたが、今回は体の部位に施さなければならない為、かなりの技術が要求される。
それは範囲で展開していたものを圧縮し、部位だけの範囲に留め施さなければならないからだ。
しかし、きなこは器用に魔力をコントロールし、凝縮された魔力玉を作り、それから『プロテクションバリア』を生成する。それは誰にでも出来るような事ではない。下手をすれば魔力暴走で暴発し、逆に被害がでる恐れがあるからだ。
さすがはローランドホープのプリーストだけある。
『プロテクションバリア!!』
マキシーは自分の両手が青白く輝く様を見つめる。
両手はまるで半透明なグローブをはめている感じだ。
「よし、ネネリ!敵を上に上げてくれ。」
コクッと頷き、「うぉぉぉ!!」叫びながら力いっぱいにメタルクローをカチ上げた。
マキシーは目を瞑り集中し、両手に魔力と闘気を宿す。
呼吸を整え、ゆっくりと瞼を開く。
マキシー自信も素手での攻撃は初めてだ。どうなるのかさえわからない。
しかも今はもうゲーム上のキャラではなく自分自身の体だ。
ゴクリッと唾を飲む。
そう彼も冷静を装ってはいるが、内心はドキドキだ。
だが、もう後には引けない。やるしかない!そう決心し、走り出す。
安全に攻撃できるのは片手1発ずつの計2発だ。それ以降は文字通り素手の攻撃になる。
しかも、こちらも盾などの防御装備も無いため、無防備になってしまう。
「はあぁぁぁ!!」
メンバーが見守る中、右足を力強く地面に踏み込み飛び上がる。
上空から落下してくるメタルクローの頭部目掛けて、右手で貫く。
ズドンッ!!
鈍く低い音が鳴り響く。
レオ達もその音に気付き、横目で確認する。
1発で頭部を貫けたがメタルクローはまだ攻撃してくる。
「……くっ!!ダメだ、防ぎきれない!」メタルクローの鋭い足がマキシーに向ってくる。
反射的に左手で防御するが、その衝撃で勢い良く地面に叩きつけられる。
ドオォォン!!
衝撃のあまり地面に小さな隕石が落ちたような窪みが出来る。
その衝撃で周り地面が崩れ、マキシーは下敷きになってしまう。
「マキシィィ!!」
ネネリ達はすぐさま駆けつける。
メタルクローはそのまま地面に叩きつけられ、動かなくなった。
「マキシー!マキシー!」
ネネリは無我夢中で崩れた地面を掘り起こす。
後からファリン、パンジー、マフィンも加わる。
「どこだぁ!生きているなら、何か……何かしてくれ!!」
ネネリは涙目になりながら、グローブが擦れて裂けてようが尚も彫り続け、指と爪の間から血も流れている。
「んん……んんん!!」
地面から微かに聞こえてくる。
「マキシー!ここか!?今助けるからな!!」
他の3人も音が聞こえた場所に集まり4人で掘り起こすと、マキシーの腕が出てきた。
ネネリは腕を掴み、「うおぉぉ!!」男さながらな声を上げ、精一杯持ち上げる。
ガラガラガラ………
岩盤の様に固くなった地面の土の塊と共にぐったりとしたマキシーが出てきた。
今までなら、どんなに死闘を耐え忍んでいてもここまでぐったりした事は無かった。
その状態を見ると、いかにダメージが大きいかを物語っている。
パーティ用のHP表示では彼のHPは残り1000程度しか残っていなかった。
それを見ていた、きなこも遅れながら何とか辿り着き、マキシーに回復魔法を掛ける。
「マキシーさん、もう大丈夫ですよ!私が来ましたから!」
そう言って、『ヒール』の上位魔法『ハイネスヒール』を掛ける。
威勢よく助けに来た、きなこだったが、マキシーの付いている状態異常の骨折、出血、昏睡が思っていたよりたちが悪く、なかなかHPが回復していかない。
出血が付いている場合、常にHPが削られていく。また、昏睡は常にMPが削られていく。
骨折に関しては攻撃力、移動速度、防御力ダウンしてしまう。
だが、もはや処置をやめることは出来ない。なんとか『ハイネスヒール』でHPの減少を抑えている感じだ。
しかも、きなこはファリンと分けたMPポーションしか持っていない為、MPが切れたら終わりだ。
それでも、きなこは手持ちのMPポーションを飲みながら掛け続けている。
「すみません………私の力じゃダメみたいです………全然回復しません!しかも、手持ちのMPポーションがもう無いです。それか、何か状態異常を治すアイテムもっていませんか!?私の状態異常回復魔法は出血や昏睡は治らないんです!どうにかこれが消えれば回復できるのですが………」
それを聞いたメンバーは急いで自分達のストレージを開き、アイテムを探すが一向に見当たらない。
その時、1発の銃声が鳴り響いた。
パアァァン!
その銃弾はネネリ達の間を勢い良く通り抜け、マキシーに命中する。
それはまるで針の穴に糸を通すようなコントロールだ。
だが、それを見たネネリは撃ってきた方向を睨みつけ「貴様ぁぁ!!どさくさに紛れてやりやがったな!!」と怒鳴り、その方向へ向おうとする。
その方向とはレオの方だった。ちなみに銃弾もレオが撃ったものだ。
「ネネリさん!ちょっとこれを!!」
きなこはネネリを引きとめ、マキシーの状態を見せる。
「こ、これは……!?」
「これ………この効果って最高級回復アイテム『ラストエリクサー』ですよ!?状態異常が治り、尚且つ『プロテクションバリア』『マジックバリア』の付与、そしてHPが瞬時に全回復………」
きなこはマキシーが見事に全回復し、嬉しさのあまり涙がこぼれる。
それを見ていたファリン達もきなこから涙を貰ってしまい泣いている。
「じゃぁ、あいつが撃った銃弾で回復したのか!?そんなのありえるのか!?」
信じがたい事だが実際に今、目の前で起こっている状況を見てネネリは訳がわからず動揺している。
劣等職 錬金術士(アルケミスト)の最強パーティ 村井拓磨 @takuma2108
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