第12話 戦神の滝~帰路~
サリアをアラウネに乗せ、俺とアテナは走る事にした。
レベルが高くなるにつれ、スタミナもついてくる仕様なのか走るだけなら疲れや息切れが出ない。
しばらく走っているとアラウネの索敵に反応があったようだ。
「マスター、周辺に5匹ほど反応がありました。敵もこちらに気付いているようです。お気をつけください。」
「わかった!ありがとう!」
(5匹か………思ったより多いな。たぶんすぐに出てこない所を見れば警戒心の強い獣系かな?しかも群れで成す生き物からすると狼あたりが妥当か。今はまだ森の中だけど、もう少し先に行けば草原になる。そこまで持ちこたえれば戦いやすくなる。)
レオは走りながらアテナに話しかけた。
「アテナ!敵を威圧するスキルは持ってないか?」
「あります!」
「じゃぁ、今使ってくれないか?森の中じゃ死角が多すぎて5匹相手じゃ分が悪い。もうちょっと先まで走れば草原にでるはずだから、そこで戦おう!それまでの間、敵を威圧して攻撃させないでくれ!」
「なるほど!了解!!」
『プレッシャー!!』
アテナは威圧系スキルを使用すると、辺りの空気がピシッっと凍りついたように広がる。
するとアラウネが「マスター、先ほどの敵5匹が3匹へ減少しています。」と瞬時に伝えてくれた事により威圧系スキルの効果があったと確認できた。
しかも3匹なら俺とアテナでどうにかなる数だ。
走りながら森の中を進んでいるとレオは奥から風が吹き込んでくる事に気がついた。
「よし!森から抜けるぞ!!アテナ準備はいいか!?アラウネ!森を抜けたら俺達に構わず、サリアを連れてそのまま町へ向ってくれ!」
「はい!!」
アテナの大盾は背中に付けたままで、左腰に下げてある剣を先に右手で鞘から抜き出し左手は背中の大盾に手をかけながら進む。
「了解しました。マスター」
アラウネはまるでタコが移動しているかのように木の根をウネウネと動かしながら高速で移動している。知らない人が見ると絶対モンスターと誤解するに違いない。
だって、俺が見ていてもやっぱりちょっとキモイ………
まぁ、俺の所有物だから自分が言える立場じゃないけどな………
だけど、根の部分はキモイけど、それから上は綺麗なお姉さんって感じで良いんだよなぁ。図体はデカイけど………
しかも、今はサリアを乗せている都合で片腕がウッドチェアーに変化していてアレだけど………
結局の所、可愛いのかキモイのかと言うと若干キモイ………
次第に木々が少なくなり草原に出た。
「各自行動開始!」
レオの掛け声でアラウネはドドドドドッと音を立てながらそのまま町へと高速で進む。
なんか、その音で他のモンスターが襲って来そうな感じがするけど、まぁ多分大丈夫だろう………
森の茂みの中からガサガサガサッ!!と3匹の狼が飛び出してきた。
レオとアテナは足を止め背中合わせに構え戦闘態勢に入る。狼3匹は2人を囲い、ガルルルルと唸り声を上げながらこちらを睨み構えている。
レオは見たことも無い狼だった為、アテナに聞く。
「この狼、角が生えているぞ!?見たことあるか?」
「はい、以前この世界に居た時、何度か遭遇した事あります。コイツはデッドホーンウルフです。奴の角には毒があります。しかも猛毒が………マスターくれぐれも気をつけてください!!」
それを聞いたレオは
(マジか!!角に猛毒って!刺されたら終わりじゃん!どうせコイツらもボス属性でしょ?あー、なんなら俺もアラウネに乗って逃げれば良かったかなぁ………)
と心の中で後悔していると
「マスター!来ます!!」
アテナの言葉にハッ!と我に返ると目の前に飛び掛ってきたデッドホーンウルフの姿があった。
「あぁぁぁぁぁ!!」
(あ、俺オワタ………)
レオは避けられないのがわかり目を瞑りながら本能的に防御体制を取った。
その時、ガキンッ!!と金属音が鳴った。
恐る恐る目を開けると目の前にはアテナが大盾を構え、デッドホーンウルフの突撃を弾き返した。
「マスター!大丈夫ですか!?油断は禁物ですよ?」
「す、すまない!」
その言葉を聞いて、アテナは優しい顔になる。
「さぁ、マスター!私達も反撃しますよ!!」
「あぁ、やってやろうじゃないか!」
2人は体制を整え再度構える。
(そういや俺は普段の戦闘ではアラウネに頼りっぱなしで、自分でどうにかするって事してこなかったな………言わばこれが俺の記念すべき初陣か。しかも、デッドホーンウルフが初陣の相手だが!相手に取って不足なし!!)
するとレオはストレージから魔法の巻物スクロールを取り出す。
それぞれ縛ってある紐の色が違う。
たぶん紐の色は属性を示すものだろう。
すばやく巻物スクロールを腰のベルトに挟みこみ、まずは赤い紐の巻物スクロールを使用した。
『フレイムランス!!』
DEXやINTが高い為、レオは魔法を短縮詠唱で発動させた。
すると、レオの頭上に魔方陣が浮かびあがり、そこから炎の槍が無数に現れ創の指挿す標的目掛けて一斉に飛び出した。
無数の炎の槍が1体のデッドホーンウルフに突き刺さり炎上し、真っ黒く炭化した姿になって倒れ消滅した。
「や、やったのか!?俺が1体倒したのか?しかも魔法1発で!?はははは」
レオが使ったこの『フレイムランス』実は魔法職でも後半に習得する高度な魔法である。
たまたま、町の魔法屋に巻物スクロールが売っていたので、お金もある事だし片っ端から買い占めていた。ちなみに、放った魔法は高レベル魔法だという事に対しては本人は全く知らない。
レオは初めて自分の手で敵を倒した感覚が妙に嬉しかった。
しかし、まだ2匹残っている為、いつまでも浮かれては居られない。
ふと見ると残り2匹は彼女が相手していた。
「くっ………こんな奴、2匹相手にするだけで苦戦するとは私も少々鈍っているな………ならば!!」
『ダメージアブソーブ!!』
2匹相手に苦戦しているアテナはスキルを使用し、盾を前に出しひたすら敵の攻撃を防いでいる。
自分で1匹倒した事で勢いづいたレオは
「アテナ大丈夫か!?俺も加勢するぞ!!」
ベルトに挟めてある巻物スクロールを取り出そうとすると
「マスター!私は大丈夫です!!せっかくですので、私の戦闘を披露致します。そこで見ていてください!!」
(ん?それって俺は役立たずだから、そこで黙ってみていろ!って遠まわしで言われているのか、それとも素直に聞き入れたとして、私の強さをご覧あれ!って感じなのか………どっちにしろ、手を出すなって事ね………)
レオは周囲の警戒を怠らずにアテナの戦闘を見守っているがアテナは盾で攻撃を防ぎ防戦一方だ。
「本当に大丈夫なんだろうか?」
見ていても苦戦しているとわかってしまい加勢しようか迷っていた時、ある事に気がついた。
「あれ?アテナの盾って赤色だったっけ?最初は白銀だったような………」
そう、いつの間にかアテナの盾は赤く輝いていた。
さらに、彼女は盾で攻撃を何度も防いでいると今度は金色に輝き、眩しいくらい光が解き放たれた。
その光にデッドホーンウルフは目がくらみ、アテナを見失う。
ガシャンッ!!と何かロックが外れたような音がした。
レオは眩しさのあまり眼に手を当てながら見てみると、盾の外側に模様が描かれている部分が開き、盾の上部に剣の柄の様なものが飛び出していた。
アテナは素早く剣を盾から抜き出し、2匹のデッドホーンウルフに剣を振り下ろす。
『ジャッジメントクライム!!』
激しい光と共に2匹とも切り裂き跡形も無く消滅した。
このスキルは『ダメージアブソーブ』で敵の攻撃を吸収し、ある一定レベルまで達すると剣が開放され使用可能になる連携スキルである。
『ジャッジメントクライム』は吸収したダメージを10倍にして標的全体に与えるスキルである。使用可能までには時間を有する為、使い勝手が悪いがその分、使用したときの攻撃は強力である。(敵の攻撃が強ければ強いだけ、使用可能の時間も短縮される)
先ほどまで光を放っていた盾は白銀色にもどり、アテナが剣を盾に納めるとガシャンッ!!と閉じ、通常形態に戻った。
「ふう~、なんとか倒せましたね!」と彼女はレオに笑顔を振舞った。
その笑顔がまるで女神の様にとても美しく、思わず見惚れてしまいレオは赤面する。
まぁ、女神なんですがね………
「そうそう!そのマスターって呼び方止めにしないか?ホムンクルスならまだわかるが、さすがに人からだと、その呼び方はどうも受け入れられなくて………」
少々困った表情で頭を掻きながら彼女に話す。
「そうですか………では、なんとおっしゃったらよろしいですか?」
「レオ!レオでいいよ!」
「レオ様ですか!」
「いやいや、様は付けなくていい。レオで頼む。」
「呼び捨てですか!?恐れ多くて………とても呼びづらいです。」
「だ~め!これは命令だからな!」
マスターに命令と言われると逆らえず、今まで神界で仕えていた時も必ず様を付けていた為、とても言いづらそうではあるが勇気を振り絞って呼んでみる。
「レ、レオ!………でよろしいですか?」
初めて呼び捨てをした為、赤面し恥ずかしそうにする彼女の姿を見ると妙に可愛いと感じ、思わずレオまで赤面してしまう。
「あ、あぁ!それでオッケー!じゃ、じゃぁ町まであと少しだから急ごう!!」
自分から呼び捨てで言えと言ったレオだが実際に言われると照れくさい。
そして、変に意識してしまい、変な雰囲気になる。
そんな中、お互い悟られないようにと誤魔化しながら2人は再び草原の中を走り町へ急いだ。
ようやく町が見えて来たと思ったら、何やら入り口に人だかりが出来ているのがわかった。
(もしや………アラウネの事じゃ無いだろうな………)
とレオの心の中で過ぎる。
ようやく2人が町に着くとレオが思っていた事がその通りになっていた。
「あ………やっぱりそうですよね………」
アラウネを目の前に町の人達が鍬クワやスコップ、物干し竿など武器になりそうな物を構えている。
そんな町の人達をサリアはアラウネの前に立ち両手を広げ、必死に説得していた。
「みなさん!!聞いて下さい!!これは敵じゃありません!!冒険者さんが私を町へ届けるように呼び出してくれたホムンクルスなんです!!」
サリアは大勢の町の人達に聞こえるよう勇気を出し大声で説明する。普段はこんな大声を出さず、のほほんと過ごしている彼女だが今回はレオが無事に町まで届けてくれた事から、なんとか誤解を解こうと必死になっている。
だが、昨日の事もあり、いくら町長の娘であれ町の人達はすんなり「はい、そうですか。」とは信じてはくれなかった。
一向に信じてくれる気配が無く、段々悲しくなってきて俯き肩を落とした彼女の肩をポンッと叩く者がいた。
彼女は目に一杯の涙を溜めた顔を上げると、そこにはレオが立っていた。
「レ、レオ様!?いつの間に!?ご無事でよかったです!!」
彼女の涙ぐんだ顔を見て、レオは優しく微笑む。
「こちらこそ、体を張ってまで俺のアラウネを守ってくれてありがとう!」
『ホムンリバース』
レオはアラウネを収容すると、その様子を見た町の人達はまるで鳩が豆鉄砲を食らったように無言になり驚いている。
「皆様、大変驚かせて申し訳ない。彼女が言ったように、これは俺のホムンクルスなんです。実は戦神の滝の祠に行っていまして、出てきたらこの様に日が暮れてしまったのでホムンクルスを使い彼女を先に町へ送り届けたのです。」
レオはきちんと事情も兼ねて説明をし、町の人達に納得してもらった。
「そ、それならしかたないな………」
「そうね、冒険者さんなら色々な職業があるって聞きますし、そのスキルだってありますからね!」
ここの町の人達はわりと冒険者に対し理解があった為、大事にならず事態は収束した。
すると1人の男がレオの後ろに立っている女性の姿に気付く。
「なぁ、冒険者さん………今、戦神の滝の祠って言ったよな?じゃぁ、あんたの後ろに立っている方はもしかして………!?」
アテナは自分の事を言われているのに気付き、レオの隣に立つ。
「私か?私の名はアテナ・グランジェ。かつて、この地で魔王の討伐に成功した者だ。」
その言葉を聞いて町の人達は驚きのあまり開いた口が塞がらない。
「おっほっほ………ほれ、ちょっとどけぃ!!」
硬直した町の人達を掻き分け、奥の方から1人の老婆が歩いてきた。
「フォリス婆!!そんな無理しなくても!」
「たわけぇ!おぬし等が腰を抜かして動かぬからワシがわざわざ掻き分けてきたのじゃろうて!」
腰を曲げ、杖を使いながらゆっくりとレオの前まで歩いてきた。
そして、その男の顔を見ようとゆっくり見上げる。
するとそこには以前、自分の店に訪れた男が立っていた。
「おぬし!この前の冒険者さんか!もしや、そなたは異世界から来た者か?」
「ま、まぁこの世界から考えると異世界と言えば異世界から来たかのかもしれない………」
(俺からするとこっちの世界が異世界なんだけどな………)
素直に問いかけに答えるとフォリス婆は喜びのあまり口が弾む。
「おぉ!やはりか!!それならこの前の時にもったいぶらず言って欲しかったのぉ。」
「それはすまない事をした。前は俺も何もわかっていなくてさ。ところで、婆さん名前は何て言うんだい?」
「おぉ!まだ名乗っていないとは申し訳ない。年を取ると物忘れが多くてのぉ。私はフォリス・ブライトニーじゃ。この町の奴等はフォリス婆と呼んでおる。おぬしの名は?」
「レオ。レオ・バレンタインだ。」
「レオよ!この島には代々伝わる神話があってな………異世界より力授かりし錬金術士がこの地に舞い降りる時、この世界に眠る遥か昔の封印を解き放ち、その者達と共に世界を脅かす悪の手から世界を救うであろう………」とこの島に伝わる神話を勝手に話してくれた。
(あ、その話もう知ってるし………戦神の滝にあった壁画の事じゃん………)
レオは真剣に話すフォリス婆を見てると「それもう知ってるし」とは言いづらく、黙って聞いていた。
「ん?それに、もしやと思うがレオお主の隣におる女性は?」
「え?あぁ、祠で封印を解き降臨させたちゃった戦神アテナですけど………?」
「お、おぉぉ!そうか、そうか!!やはりそうじゃったか………」
その言葉を聞いたフォリス婆は目を輝かせ、レオに近づき手を握りながら涙を流した。
それと同時にレオは(これだから年寄りは苦手なんだよなぁ………何かと自分の聞きたい・言いたい事言って、気になる事ばかり目に付くから結局、自分が何が言いたいのかわからなくなるし………)
と内心少し面倒に思っていた。
するとフォリス婆は町の人達の方を振り向き突如、怒鳴り散らした。
「おまえらぁぁ!!何をボサッとしておる!!宴じゃ!宴!!古来より伝わるこの町の神話が真になったのじゃぞ!?救世主様と戦神様を目の前にしてお前らは何をしておるか!!」
「はい!ただいまぁ!!」
フォリス婆の一喝にその場に居た町の人達は急いで散らばり、中央広場で宴の準備を始めた。
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