第11話 戦神の滝
「えっと、たしか………大昔、天界から戦の女神がこの地に降臨されたみたいです。当時、この島は山に囲まれており、小さな泉から水を汲んで生活をしていました。ですが、ある時、女神は大きな光の玉に包まれながら、この島の一番大きな山を削りつつ降臨いたしました。その時、天気は荒れ狂い、雷雨、暴風が凄かったと聞いています。その為、削られた山に雨水が溜まり、やがて大きな湖になり、この島唯一の滝が出来たとされています。それから、この島の人達は戦神の滝と呼ぶようになったそうです。」
「なるほど。それでその戦の女神とやらはどうなったんだ?」
「その後は世界を旅して悪しき者を打ち破りこの地に平和を齎したという伝説になっております。」
「じゃぁ、女神はこの地が平和になったから天界に戻ったのか?」
「それはちょっとわかりませんが、天界に戻ったという話もこの地に住んだとも聞いていません。」
(女神は降臨してきて、この世界に平和を齎した後はどうなったかわからないか………たぶん、その手がかりもありそうだな。)
レオはいろいろと考えていると、いつの間にか目の前には大きな川が流れていた。
「この川の上流を目指して歩けば目的地に着きます!」
もう少しで目的地に着きそうだからか、サリアのテンションが上がったように思えた。
丁度、川に沿って道がありアラウネに乗りながら進む。
左側には先ほど見えた川が流れていて、彼女が言うようにその川の上流へ向けて進んだ。
次第に周りは木で覆われ始め、気がつけばいつのまにか森の中に入っていた。
森の中を少し進むと森が拓け、目の前には大きな山から力強く流れ落ちる滝が現れた。
水流が結構強い為、流れ落ちた際には微粒の水しぶきが辺りに舞い、ひんやりとした空気が漂い、霧がかかったように周り景色が多少、白っぽく見える。
「着きました!ここが戦神の滝です!一応、この島の観光スポットにもなっています。どうですか!この迫力!そしてマイナスイオン!!」
「これが………戦神の滝………すげぇ!!」
レオは想像以上の迫力に言葉を失い、見入ってしまう。
「さぁ、時間が無いので早く行きましょう!こちらが入り口です!」
「あ、あぁ!ごめん!」
彼女は妙に張り切り、呆然と見入ってしまっていたレオの腕を引っ張り、祠の入り口へと案内する。戦神の滝が流れ落ちている裏側には通路があり、奥へと続く洞窟があった。
「ここが祠の入り口です。実はこの祠含め、この周辺は日が昇っている間だけ戦神の加護があり、モンスターは出てこないのです。まだ日没まで1~2時間はあるので早く行きましょう!」
それを聞いたレオは少しムッときた。
「サリア!そういう事は最初に言ってくれ!!こっちはいつモンスターが出てくるか、ずっと警戒をして行動していたんだぞ!?」
「ご、ごめんなさい!!うっかりお伝えするのを忘れていました!」
と何度もペコペコと頭を下げる。
「まぁ、次から気をつけてくれたらいいけどさ………さぁ、時間が無いから先に進もう!」
彼女の天然ボケ?に少々呆れるレオであった。
レオは日没の時間が気になり少し歩く足並みも早くなる。それに遅れないようサリアも付いて行く。
洞窟内は一本道になっているため、ダンジョンとは違い迷う心配も無い。
道なりに歩いていくと最深部なのか広々とした所に出た。
すると、そこは壁一面が大きな壁画になっており、奥には何やら祭壇らしき物があるのも確認できた。
「レオ様、ここがお見せしたかった場所です。この壁画は右側から順にご覧になってください。」
サリアに言われ、レオは右側の壁画から順に見て行った。
壁画には、この地に降りる光の玉が描かれていた。多分これは戦の女神が舞い降りた時の絵だろう。
その次には悪魔と女神が戦う絵が描かれ、女神がこの地に平和をもたらした様子が描かれていた。
ここまでは先ほどサリアから聞いた通り事が描かれていた。しかし、一番気になったのはその後の絵だった。
再び黒い玉が舞い降りた時、異世界から来た冒険者らしき者が祭壇に立ち、祈りを奉げている。
そして天から女神が舞い降りてくる様子。
その冒険者は女神と複数の仲間と共に悪魔と戦っている様子が描かれていた。
そこでレオはふと疑問を感じる。
(この世界には俺意外に数人の錬金術士アルケミストが居てもおかしくない。だが、なぜこのクエストが進行されていない?複数人いるのであれば誰かしらクエストに着手してもおかしくない。しかも、この絵からすると錬金術士アルケミストは1人だけだぞ!?他の錬金術士アルケミストはどうした!?)
「なぁ、サリア?俺含めて錬金術士アルケミストがここに来たのは何人だ?」
「えっと、確か3人です。残りの2人は日没から行くのは危険だと忠告したのにも関わらず、この祠へ向い帰らぬ人となりました。」
「じゃぁ、俺以外の2人はここに来てどうなった?」
彼女はしばらくだんまりして居たが、少しずつ話し始める。
「…………その2人は……祭壇に行き祈りを奉げたのですが、突然倒れ蒸発するように消えてしまったとお父様から聞いております………はっ!?もしかして………レオ様も祭壇に祈りを奉げるつもりですか!?わ、私はレオ様まで消えるところは見たくないですよ!?」
彼女は涙ぐんだ顔で彼に訴える。それを見たレオは答えづらくなってしまった。
しかし、このままでは何一つ変わらない。
唯一、可能性があるとすれば自分のレベルと課金ガチャで手に入れたURの遺物、そしてスキル一覧にある『ナイトオーダー』というスキルだ。
『ナイトオーダー』とはある一定の条件が揃わない限り使用・発動することが出来ない特殊な召喚スキルだ。その為、スキルレベルもLv1と固定になっている。
スキル説明ではこれしか書かれていなく、他の事は一切不明である。
ただ、この状況からレオは『ナイトオーダー』をもしかしたら使えるのではないかとそんな予感がした。
「そういえば、あれからレベルが上がってもスキルポイント使っていなかったな………いくつかスキルを習得しておこう。」
レオはステータス画面を開こうとするが視界上にタグが無い。
「あれ!?ステータスが開けない!?マジかよ!!」と1人であたふたしている。
それを見てたサリアはなんであたふたしているのか不思議で首を傾げる。
「あの………ステータスでしたらその手首に付いてるリングの宝石に微量の魔力を注いでみてください。」
レオは言われたとおりにしてみると、宝石が輝きステータス画面が目の前に映し出された。
「え!?いつの間にこんな仕様に!?」
「いつって、ずっと前からですけど………?」
「って事はもうゲームがゲームじゃ無くなってるって事なのか?」
以前は視界にタグがあって、そこからステータスを見れたが、今はこの腕輪だ。
レオはゲームの時との違いが出てきてる事に気が付き、ここはもう知っているゲームではない。
何かしらの影響を受けて現実世界リアルと同じ実在する世界へ変化していると思い知る。
その原因はたぶん魔王ミグラスであろう………
今後、どのように変化して行くかわからないが、その事を踏まえ慎重にスキルを習得する。
『オートポーションLv10』『ナイトオーダーLv1』『製薬作成Lv10』
の3つをとりあえず習得し、余ったポイントはそのままにしておく。
準備が整ったレオは彼女の肩をポンッと軽く叩く。
「たぶんだけど、俺は大丈夫だと思うよ!なんかそんな気がする………だから、そこでちょっと見ていて!」
そう言ってレオは祭壇の方に向う。
祭壇の階段に足を掛けた途端、祭壇に灯火が灯り、レオは1段1段ゆっくりと登っていく。
登りつめると、そこには魔方陣が描かれ、うっすらと光っていた。
その魔方陣を見渡すと前方、左右に一つずつマークが付いていて、前方には盾、右には剣、左には雫のマークだった。
レオはさっそくストレージから
<UR伝説の遺物(盾)×1><UR伝説の遺物(剣)×1><UR神々の雫×1>を取り出し、マークが描かれている所に置き所定の位置に戻った。
「さて、ここからどうしたものか………とりあえず置いてみたものの、これからどうすればわからない!」
レオはその場でどうしようかと悩んでいると、不思議と頭に言葉が浮かんで来た。
(………ん?なんなんだこの言葉は………もしかして、この言葉が………)
忘れてしまう前に浮かんできた言葉を唱えてみた。
「万物創世たる神の元へ………我、レオ・バレンタインが供物を奉げる。一つはあらゆる攻撃から身を守る強固な盾なり、二つ目はあらゆる敵を攻撃する鋭い剣なり、そして三つ目は神から授かりし奇跡の雫なり………」
すると、先ほどまで薄い光が灯っていただけの魔方陣が創の言葉で光が増し、まばゆく光を放ち出す様子を見た創は続けて頭に浮かんだ言葉を言う。
「神よ!今一度、我の元へ奇跡を導き致せ!望むは供物の者なりて強き者なり!!」
『ナイトオーダー!!』
すると、魔方陣が神々しく光り、辺りを照らし眩しくて見えないくらい強い輝きを放ち、天へ上るように消えて行った。
先ほどの光は消えてしまい辺りは何も無かったかのように静まりかえる。
「あれ?なんで??」
レオは何も起きない事に動揺する。
それを見てフォローしようか、そっとしておこうかオドオドしているサリア。
するとレオは自分が唱えていたセリフを思い出し、段々と恥ずかしくなってきた。
そして、あまりの恥ずかしさに頭を抱えながら蹲うずくまる。
(うわぁぁぁ!!はずい!痛い!!これはやべぇぇぇぇ!!あ~この場から消えたい………今すぐ消えたい!何、カッコつけて『ナイトオーダー』とか叫んじゃってさぁ………1人なら無かった事に出来るからいいよ?でも、そこに彼女が!サリアがバッチリ見ているじゃないか!!あぁぁぁぁ!!)
1人で祭壇の上で蹲うずくまり、時折地面をドンドンと叩きながら悶えている。
その様子をポカーンとした顔でサリアは見ている。
本人からしたらレオは何をしている状況なのかわからない。
しばらくすると気持ちが落ち着いたのか、レオはスッと立ちあがり何も無かったかのように平常心を保ちつつ、祭壇の階段を降り始めた。
(俺は何もしていない………俺は何もしていない………)
その時………ドォォォン!!
と大きな音と共に光の玉が天井を突き破って振ってきた。
「うわぁぁぁぁ!!」
あまりの衝撃にレオは祭壇の外へと吹き飛ばされ地面に叩き付けられる。
「いててて………」
「レオ様!大丈夫ですか!?」
レオは吹き飛ばされた衝撃で体が思うように動かず、サリアが駆けつけレオの体をゆっくり起こした。
しかもさっそく先ほど習得した『オートポーション』が発動し回復していく。
そして、2人は祭壇に目をやると光の玉が神々しく光っていた。
すると弾けるように光を放ち、天使の翼の羽が無数に舞い散る。
徐々に光が消えていき、なにか影が見え始めた。
「レ、レオ様!?これってもしかして………!!?」
「あ、あぁ!たぶん成功したんじゃないか?はぁ~痛い男じゃなくて良かった………」
「痛い男?ってなんですか?」
「い、いや!それはこっちの話しだから気にしないで!!」
レオは『オートポーション』のおかげで体が自由に動けるようになった。
サリアの手を借りず自分の足で祭壇の前まで歩き進む。
祭壇には大きな盾が突き刺さっていた。
「ふぅ~!永い眠りから私を覚ましたのは貴方様か?」
声が聞こえたと思ったら大きな盾をガコッと持ち上げ、白銀の鎧を纏った黄金の様に輝く長い髪の綺麗な女性が立ち上がった。
「あ、はい………俺がその祭壇で呼びました。」
「では、貴方様がマスターって事ですか。初めまして私はアテナ・グランジェです。過去にこの地で魔王を討伐した戦の女神と称えられていました。これからは貴方様に従えさせて頂きますのでよろしくお願いします。」
深々と礼をし、あまりの気迫と凛々しさで押され気味のレオもたじたじではあるが挨拶をした。
「お、俺はレオ・バレンタインです。よ、よろしくお願いします………」
アテナは盾と剣を納め、祭壇から降りてレオの元へ向ってきた。
「マスター、私を呼んだって事はもしや、この世界はまた悪の手に落ちようとしているのですか?」
その言葉にレオは頷き、これまであった事をアテナに話した。
「ふざけたマネを!!そんな酷い事をする手口からして、その魔王ミグラスとか言う者はたぶん私が以前倒した魔王ダグラスに似ている。もしかしたらとは思うが………ダグラスに子供が?」
正義感が強いアテナは憤りを感じ、フルフルと体が震え拳を強く握り締める。
そんな雰囲気にも空気を読まない者が一人居た。
「あ、あの~?取り込み中すみませんが早く町に戻らないと日没になってしまいますよ?」
サリアの一言でレオはハッ!と思い出す。
「アテナ!この話の続きは後ですることにして、今は急いで町に戻るぞ!俺やアテナは良いが、彼女は一般女性だし、日没になるとモンスターが凶暴化してしまう。」
アテナは不意に落ちないが今の事は心に留め、まずはサリアの安全を優先すべきと理解し、レオの言葉に頷いた。3人は急いで祠の出入り口まで戻ると空には無数の星達が輝きだし、辺りは暗く静まりかえっていた。
「遅かったか………」
レオは空を見上げ日没した事を確認し、また辺りの様子が変わっているのを感じ取った事で体全体に緊張感が走る。
『ホムンコール!』
すぐさまアラウネを呼び出した。
「わわわわ!!」
急にアラウネを召喚したため、サリアは思わず声をだし驚く。
「驚かしてすまない。」
そう簡単に受け入れる事が出来ないのは承知だ。
「アラウネ、彼女の護衛を頼めるか?」
「畏まりました。マスターの護衛はよろしいのでしょうか?」
「俺は大丈………」と話している途中に「マスターの護衛は私にお任せを!!」とアテナが急に割り込んできた。
アテナは正義感が強く召喚されて初の任務ともあり、気合が入っている感じだったので彼女の気持ちも汲んでレオは護衛をお願いする事にした。
「では、俺の護衛をアテナにお願いする!」
「了解しました!マスター!この身に変えてでもお守り致します!!」
内心、(そんな大げさな………だってこのステータス見たら余裕でしょう………)
レオはさりげなくアテナのステータス画面を開いて見ていた。
ちなみに『ナイトオーダー』や『ホムンクルス』で召喚したキャラのステータスは召喚者が自由に見ることができる。
アテナはLv150で神属性のヒューマンで職業はパラディンとなっている。
まず、疑問なのがアテナはホムンクルスでは無く、ヒューマンだという事だ。
本来、アルケミストが召喚できるのはホムンクルスだけだ。
しかし、アテナはヒューマンと表示されている所を見れば『ナイトオーダー』と言うスキルは何かしら条件が揃った場所で無いと使えない、もしくは発動しないのかもしれない。だがこれはまだ推測にすぎない。
しかも、供物に奉げるアイテムが今回はURを使用したがそれ以外だとどうなるのかも不明、仮にURのアイテムじゃないと無効であれば、とんだ重課金のクソゲーだ。
課金アイテムでしか強キャラが登場しないとか………ハッ!とレオは思いついた。
「もしかするとこの島自体、ストーリーの後半に来るような所なのか?
それならフィールドモンスターが全てボス属性ってのもわからなくも無い。そうなれば冒険者のレベルも結構上がっているだろうし、貴重なアイテムも何かのイベントをクリアして貰えるのかもしれない。ただ、これはゲームならって話しだ………だけど、今はもう違う。ここは紛れも無い現実だ………先ほど、アテナを召喚するときの衝撃で俺が飛ばされた時、普通に痛みを感じて体を動かせなかった。ゲームだった時は痛みなど一切感じなかった。先ほどのステータスの件も然り、やはり何かしらの影響があるのは確かだな………」と1人呟く。
(それにしてもアテナのステータスはヤバイな!!攻撃力は20万近くあるし、やはりパラディンだから、防御力がずば抜けて高いのはわかる。だけど、いくら防御力が高い職業だからって50万はありすぎじゃないか!?ゲームならゲームバランスは崩れ、ヌルゲーですが?って感じだな………とは言っても俺もなんだかんだLv70まで上がっちゃってるし………たぶん護衛してもらわなくても死なないとは思うけど………万が一、戦闘になったら魔法屋で買ったアレを試せるしな。とりあえず、無事に町へ戻ろう。)
自分の気持ちが決まり左手の平に右手の拳をパシッ!と当て「おしっ!行きますか!」と気合をいれた。
町までの帰り道は戦神の滝まで来た道を単純に戻るだけだが、やはり日中とは雰囲気が違い辺りは異様な静けさと緊迫した空気に覆われていた。
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