第21話

 そして、なぜか俺は、俺が書いた小説への愛を東雲さんから聞かされていた。


「分かった、分かったから、その辺でやめてくれ・・・・・・」

「なぜですか?」


 なぜって、恥ずかしいからな決まってるだろ!?

 まさか、東雲さんがこんなにも俺が書いた小説を好きだとは・・・・・・。

 かれこれ、30分くらい聞かされていた。

 もう、勘弁してくれ・・・・・・。


「もっと、話したんですけど?」

「もうやめてくれ、俺のライフはとっくに0だ」

「仕方ないですね。じゃあ、最後にひとつだけ。新作はいつですか?」


 東雲さんは目をキラキラと輝かせて体をぐいっと近づけてきた。

 それも、やめてくれ・・・・・・惚れるから・・・・・・。

 もう、東雲さんのことをまともに見れない。たぶん、俺の顔は今、真っ赤になっているだろう。


「い、今、書いてるから」

「本当ですか!?」

「・・・・・・うん」

「楽しみです!!」


 本当に俺の小説を好きなんだな。

 東雲さんは手を叩いて、パァーッと顔に花を咲かせた。

 凄いプレッシャー・・・・・・。

 一に期待してるぞ、と言われるよりもプレッシャーを感じてる。


「頑張ってくださいね!」

「・・・・・・あぁ」

「あの、もう1つだけ、いいですか?」

「・・・・・・なに?」

「久遠さんの、サインが欲しいです!」

「さ、サイン!?そんなの、ないんだけど・・・・・・」

「えー、そんなんですか?」

「うん。書いたこともない」

「え!?じゃあ、初めてを私にください!お願いします!」


 ちょ!?そんな言い方しないでもらえますか!?

 俺は周りを見渡した。

 ほっ。誰もいない・・・・・・。

 東雲さんは拝むように、頭を下げている。

 サインか・・・・・・。書いたことないんだが、ここまで頼まれたら、初めてだけど書いてみるか。


「わ、分かったよ」

「本当ですか!?や、やったー!!!」


 めっちゃ喜ぶじゃん!?

 小説家として、こんなに喜んでくれることほど、嬉しいことはないんだろうな。

 恥ずかしさはあるものの、俺も自分の小説のファンがいて嬉しい。


「じゃあ、私はこの本買ってくるので、その間にサイン考えといてください!」

「・・・・・・うん」


 考えといてと言われたものの、即席で思いつくようなものでもないよな。

 頭を悩ませていると、本を買い終わった東雲さんが戻ってきた。


「どうですか?考えれましたか?」

「いや、思いついてない」

「まぁ、そうですよね〜。そう簡単に思いつくわけないですよね」

「ごめん。せっかく楽しみにましてくれてたのに」

「大丈夫ですよ。その代わり!初めては私にくださいね?」


 だから、その言い方はやめろーーー!

 その後は、恋愛小説のコーナーに行き、漫画のコーナーによって本屋さんを後にした。

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