第7話 現代の絶世の美女のお見舞い

 ほのかな甘い香りが鼻腔をくすぐり俺は目を覚ました。

 これは、果物の匂いか?そう思って、俺は部屋の中を見渡す。

 いつやってきたのか、そこには学級委員長の姿があった。

 艶やかな黒髪を揺らしながら、右手に持った果物ナイフでリンゴの皮を剥いていた。

 絵になるな、なんてことを考えながら、どうして彼女がここに?と同時に考えていた。

 彼女が気がつくまで、しばらくその後ろ姿を眺めていた。

 やがて、リンゴの皮剥きを終えて、リンゴを綺麗にお皿の上に乗せ終えると、彼女がこっちを振り返った。


「あっ・・・・・・」


 同時にそう言って、同時に目を逸らした。

 そして、同時に話しかけた。


「来てくれたんだね」

「起きてたんですね」


 そして、数秒の間、見つめ合う。

 なんだこれ・・・・・・。

 先に目を逸らしたのは俺だった。

 『現代の絶世の美女』と数秒でも目が合うと虜になるという噂はよく聞くが、俺じゃなかったら、今この瞬間に間違いなく虜になっていただろうな。

 三次元にあんまり興味のない俺ですら、若干頬が火照ってる感じがしていた。


「あ、足は大丈夫・・・・・・ではなさそうですね」

「まぁね、見ての通りっていった感じかな」

「本当にごめんなさい」

「いや、いいって。治るまでは不便だけど、いつかは治るし。ちょっと、早い夏休みだと思えば。それより、東雲さんに怪我がなくてよかったよ」

「それは、はい。久遠さんのおかげで私は大丈夫でした・・・・・・」


 東雲さんは下を向き、申し訳なさそうな顔をしていた。

 まぁ、責任感じるなっていうのは無理な話か。自分の不注意で俺の足を骨折させたと思ってるだろうからな。

 さて、どうしたものかな。こういう時は何か頼み事でもしたほうが気が楽になったりするものなのか?分からん。なにしろ、骨折なんて人生ではじめての経験だからな。


「あの・・・・・・」

「ん?」

「わ、私に出来ることだったら、なんでも言ってください。出来る限りのことはします」

「じゃあ、下の世話をしてって言たらやってくれるの?」


 俺は笑いながら、ほとんどセクハラみたいな発言をした。

 もちろん、冗談で言っている。 

 だって、この部屋の空気重いんだもん!


「久遠さんが・・・・・・してほしいって言うのなら」

「いやいや、冗談だからね! 本気にしないでね!」


 これは、相当責任感じてるな・・・・・・。


「冗談・・・・・・ですか・・・・・・」


 ん?なんだか、残念そうに聞こえるんですけど、気のせいだよな?

 とりあえず、話を変えよう。


「じゃあさ、ノート。授業ノート写させてよ。これでも俺、優等生だからさ。授業が分からなくなるのは困る」

「久遠さんが優等生なのは知ってます。分かりました。今日の分のやつも写しますか?」

「そうだね。そうさせてくれると有り難いかな」


 東雲さんは頷くと、ベッドの横に置いてあるサイドテーブルの上に乗った鞄から数冊のノートを取り出した。

 

「俺のやつも出してくれない?」

「鞄の中、見てもいいんですか?」

「うん。いいよ」


 鞄の中に見られて困るものなんて入ってないからな。

 東雲さんが俺の鞄の中からノートを取り出してる間、俺はふとこんなことを思った。

 こんな時ラブコメとかだったら、彼女か主人公を好きなヒロインが病室に入ってきて、鉢合わせになってバチバチと目線の火花を飛ばすんだろうな。

 東雲さんがベッドテーブルの上に俺の分のノートと東雲さんの分のノート置いた。

 病室の扉は開かなかった。

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