第8話

 東雲さんがベッドテーブルの上に俺の分のノートと東雲さんの分のノート置いた。

 病室の扉は開かなかった。


☆☆☆


「ありがとう」

「他には何かしてほしいことある?」

「じゃあ、そこのリンゴ食べたいかな。せっかく東雲さんが剥いてくれてたわけだし」

「分かった」


 少しだけ打ち解けたのか東雲さんの口調が砕けてきた。

 東雲さんはサイドテーブルにあった綺麗に皮の剥かれたリンゴの乗ったお皿をベッドテーブルの上に置いてくれた。

 

「はい。爪楊枝」

「ありがとう。用意周到だね」

「フルーツの詰め合わせ持ってきたから・・・・・・」


 東雲さんの後ろにあるサイドテーブルを見てみると、そこには確かにフルーツの詰め合わせが置いてあった。しかも高級そうなやつ。


「わざわざよかったのに」

「ううん。これでも足りないから・・・・・・」

「そ、そういうことなら有り難く貰っとくよ」


 その後は、高級リンゴを齧りながら、東雲さんの丁寧に板書されたノートを写していった。

 俺が今日あった全部の教科のノートを移し終える頃には、夕日の頭が少ししか顔を出してなかった。


「東雲さん、ありがとう。写し終わったよ」

「見やすかったですか?」

「とても。なんなら、先生が黒板に書くやつより見やすかったし分かりやすかったよ」

「そうですか。ありがとうございます」

「ところで、熱心に何を読んでたの?」


 俺がノートを写させてもらっている間、東雲さんは書店でもらえるブックカバーのついた本を読んでいた。大きさからして、文庫本だろう。


「そ、それは秘密です!」


 顔を真っ赤にして恥ずかしそうにそう言った東雲さんは本を隠すように腕の中に抱いた。

 そんな態度をされるとますます気になるんだが!?

 だが、追及するのはやめておいた。せっかく、仲良くなれそうなのに、追及して嫌われたらもったいないと思った。


「わ、私帰ります!」


 バッと立ち上がって、逃げるように病室から出て行こうとした東雲さんに「今日は来てくれてありがとう」と声をかけた。

 すると、小さな声で「また、明日来ます」と返事が返ってきた。

  

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