第20話 東雲さんと本屋さんデート

 本屋に入ると、東雲さんと一緒に本を見て回ることになった。


「久遠さんの好きなジャンルは何ですか?」

「俺か?俺は、そうだな……」


 まさか、官能小説、とは言えないよな……。


「れ、恋愛だな」

「へぇー。恋愛を読まれるんですね」

「東雲さんは?」

「私は……そうですね……」


 東雲さんは、そこでいったん言葉を切った。

 そして、頬をほんのりと赤くして言った。


「・・・・・・官能小説・・・・・・です」

「え・・・・・・今、なんと?」


 俺の聞き間違えか?

 東雲さんは『官能小説』と言わなかったか?

 マジなのか・・・・・・。

 俺の思考は一瞬停止した。


「なぁ、もう1回言ってくれないか?」

「私が、よく読む小説は、官能小説です・・・・・・」

「・・・・・・」


 うん。ハッキリと言ったな。

 官能小説って・・・・・・。

 その言葉はあまりにも東雲さんに似つかわず、何も言えなかった。


「あの、何か言ってもらえませんか?」

「悪い、驚きすぎてた」

「そんなに、驚きましたか?」

「うん。なんというか、意外すぎた・・・・・・」

「かも、しれませんね」


 そう言って、東雲さんは、小悪魔な笑みを浮かべた。

 そして、東雲さんは何事もなかったかのように言う。


「どうしますか?恋愛小説見に行きますか?」

「いやいや、勝手に話を終わらせないで!?」

「え?」

「え?じゃないよ!?」


 もしも、それが本当なら気になることがあるんだが!?


「何か聞きたいことでも?」


 そう言った東雲さんの顔はさっきと同様、小悪魔な笑みだった。

 その笑顔を見た俺の頭にはよぎった・・・・・・。

 東雲さんは俺の秘密を知っている、と。


「もしかしてだけど、東雲さんは知ってる、のか?」

「何をですか?」

「その顔は俺が何を言いたか分かってるよね?」

「どうでしょう?なんなら行きますか?官能小説コーナー」

「やっぱり知ってんだろ!」


 別に隠すつもりはなかったし、知ってるならそれでいいんだけど、まさか東雲さんが・・・・・・それは、完全に予想外だった。

 もしかして、あの時俺を呼び止めたのって・・・・・・。そう思っと、何故だかしっくりときた。

 東雲さんの後に続いて、官能小説が置いてあるコーナーに向かった。


「ありますかねー?久遠さんの小説」

「確定だな・・・・・・」

「まぁまぁ、いいじゃないですか。私が久遠さんの秘密を知ってても。別に誰かに言いふらしたりなんてしませんから」

「俺も別に知られることはいいし、東雲さんが言いふらすような人じゃないってのは分かってるけど・・・・・・」


 なんというか、複雑なんだよ!?


「あ、ありましたよ!」


 そう言って、東雲さんは、俺が有名になるきっかけとなったあの1冊を本棚から抜き取って、俺に見せてきた。


 

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