SIDE ローティ~愚かな王子は、見切られ斬られる~
スライたちが戦っている時分。
街ではギルド職員が小型の恐竜――リトルレックスに乗って街中を駆け回っていた。
魔石を使った拡声器を使用して叫ぶ。
『北の森にて、モンスターハザードが発生!
北の森にて、モンスターハザードが発生!
ギルド員の指示に従い、避難を開始してください!
ご協力いただける冒険者は、ギルド本部に申し出ください!』
『繰り返します!
北の森にて、モンスターハザードが発生!
北の森にて、モンスターハザードが発生!
ギルド員の指示に従い、避難を開始してください!
ご協力いただける冒険者は、ギルド本部に申し出ください!』
叫ぶギルド員の左右には、やはりリトルレックスに乗ったギルド職員がいた。
左右のふたりは、右手に炎を携えている。
『列を乱さす並んでください!
隊列を乱した方は、即座に燃殺いたします!
列を乱さす並んでください!
隊列を乱した方は、即座に燃殺いたします!』
物騒極まる言葉使い。
しかしそのような意識で臨まなければならないのが、モンスターハザードである。
住民たちも理解している。
ざわめきはしても混乱はせず、ギルド員の誘導に従っている。
王子ローティ、騎士クルル、魔法使いローザの三人が、そんな騒ぎを窓から見ていた。
「リスティは逃げたようだな」
ローティが言うと、ローザは答えた。
「あの子は元々、平民ですもの。逃げてしまうのは咎められませんわ」
「それにしても、大変なことになってしまったな……」
「やはりわたくしたちが失敗した上、ギルドへの報告も怠ったのが原因ですわね」
端的なローザのつぶやきに、ローティはうわ言のようにつぶやいた。
「ちがう、ちがう、ちがう。
ボクのせいじゃない。ボクのせいじゃない。ボクのせいじゃ……」
「わたくしたちのせいではないなら、誰のせいだと?」
問いかけるローザに、ローティは言った。
「スライだよ! アイツがきっと、何かしたんだ!」
「……?」
ローザはもちろん騎士クルルですら、怪訝そうな顔をした。
「だっておかしいじゃないか!
実質Sランクのボクたちが、アイツを追放した途端にDランクの任務で失敗!
仲間に引き入れたサポーターも役立たず!
こんなのどう考えたって、追放されたスライのやつが、逆恨みで変なことしたに決まってるだろ?!」
「しかしそれだけで、犯人あつかいするのは……」
「それだけじゃない!!」
ローティは、机をバンッと叩いた。
「お前らも見ただろ?! ボクたちが、サイクロプスの覚醒個体に襲われた時!」
「確か猫耳の少女が、スライムを……」
「荷物持ちとしてスライに劣る分、戦闘は得意なのですわね……と思ったものでしたわ」
「アレが証拠だ!
スライムを冒険に活用しているのは、アイツぐらいだ!!
そんなアイツを追放した直後に雇ったサポーターが、たまたまスライムを使役していた?!
そんな偶然、あるはずないだろ?!!」
ローティは、振り絞るかのように叫んだ。
「仕組んでたんだよ! アイツが!! 全部!!!」
「事実であるなら、卑劣であるとは思いますが……」
クルルは、困ったような顔でぼやいた。
一方のローザは、冷めた目で言った。
「失敗があの平民のせいだとしても、ギルドに報告しておかったのは、ローティ様のご意志ではなくって?」
「三女風情が調子に乗るな!!!」
ローティは、魔法使いに平手打ちをしようとした。
魔法使いは、その腕を掴む。
「?!」
「わたくし魔法が本職ですが、不用意に近づいてきたうっかりさんを迎撃できる程度の護身は身に着けておりますの」
それだけ言うと、一本背負いでぶん投げる。
ローティは、地面に叩き付けられた。
そして魔法使いは、ローティの顔面の横を踏んだ。
床がひしゃげて、穴があいてる。
「以前にあなたからの叱責を受けたのは、あなたが王子だからですわ。
ですがこのような失態を犯した以上、もう『王子』ではいられません」
ローザは杖を片手に、部屋を出ようとした。
クルルが問う。
「どこへ行く気だ……?」
「協力できる冒険者として、ギルド本部に出向くのですわ。
わたくしミスもドジもいたしますが、魔法力はあるほうですので」
殊勝な発言をするローザ。
予想外の一面に、クルルは意外そうな顔をした。
「
「…………そうだな」
クルルは重くうなずいた。
ローティが叫ぶ。
「クルル! そいつを殺せ!!
公爵家三女の分際でボクをぶん投げた上、暴言まで吐いた売女だ!!!」
騎士は心から悲しそうに、ローティを見つめた。
「彼女はこれから、民の命を守るための戦いに出向くのですよ……?」
「民の命と王族の名誉、どちらが大切だと思ってるんだ!!」
その一言は、致命的な失言となった。
クルルの目から、涙がこぼれる。
「巡礼紀の一員に選ばれて、あなたの剣となれた時。
わたしは誇りに満ちていました。
何があろうと騎士として、あなたに尽くそうと思いました」
クルルは剣を引き抜いた。
「どうして剣を、ボクのほうに……?!」
ローティは尻餅をついた。
必死に後ずさるものの、壁に背中がぶつかってしまう。
「どどどど、どういうつもりだ?!」
「騎士は主君を守るものです。
しかし主君が暴君に成り果てた時には、それを『斬る』のも騎士なのです」
クルルは近寄る。
「あなたを斬った後の私は、災厄と戦って死にます。
けれども、それでも、業が深くて
生き永らえることになったら――」
剣をゆっくり、静かにあげる。
「自害し、あなたのお供をします。
地獄の底でも、私はあなたの騎士でいます」
「やだやだやだやだやだやだやだやだ、死にたくない、死にたくない、死にたくない。
そんな滅茶苦茶な理由で殺されるなんて……」
「あなたの自業自得です!!」
ローティは、剣を振り下ろす。
鮮血が飛び散った。
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