第3話 報酬と敵対と服従。

 宝物庫。

 29歳で無職のスライは、ルールーに問いかけた。


「本当にいいのか? この中のものを全部持って行っても」

「うん。」


 ルールーは、こくりと小さくうなずいた。


「あなたは………。 

 わたしと、お父さんを、救ってくれました………です。」


 宝物庫の中に、オレたちはいた。

 全部持って行ってもいいというのは、最初の話通りではある。

 ただそれは、ミスティリアの依頼だ。

 ルールーがどう思うかは、別の話でもある。


「一生を賭けて、あなたに恩を返したい………です。」


 そう言うルールーの声にも目にも、ためらいの色はない。


「使って………ください。」


 ルールーは、宝物庫の隅にあった袋を持ってくる。


「魔法袋か」


 魔法袋。

 体積以上の物体が入る、特別な袋。

 エルフの中でも限られた一族にのみ伝わっていた、特殊な製法で作られている。

 しかし人魔大戦によって、作成法を知っていた一族は滅んだ。

 今や王族が自国の権威を示すために使ったり、博物館で飾られたりするアイテムと化している。

 それ単体が、売れば一生遊んで暮らせる宝物〈ほうもつ〉なのだ。


「この袋は、とても便利で貴重なもの………です。」


 オレが知らないと思っているらしい。

 ルールーは、手近にあった魔法の鞘を、袋の中に入れて見せていた。


「とっても役に立つと思う………です。」


 役に立つことがしたいのだろう。

 一生懸命、プレゼンしてくる。

 気持ちには答えたい。

 答えたい――――が。


「オレはもう持ってるんだ」


 アイテムポーチに手を入れた。


「食料用、武器用、その他用で、三つある」


(がーん!)


 ルールーは、ショックを受けてるようだった。


(しゅんっ………。)


 露骨に落ち込む。

 

「だけど気持ちがうれしいよ」


 オレはルールーの頭を撫でた。


(………。)


 ルールーは、頬を赤らめオレを見つめた。

 頭の左右で跳ねている髪が、ぴこぴこと動いた。

 かわいい。


(とてててて。)


 ルールーは歩きだす。

 剣を抱えて持ってきた。


「この剣は、鞘に癒しの効果がある………です。

 とってもお役に立つと思う………です。」

「ありがとう」


 頭を撫でる。


(………。)


 うれしそうに頬を染め、頭の左右で跳ねているぴょこ跳ねが、ぴこぴこと動く。


(とてててて。)


 歩きだし、アイテムを持ってくる。


「このオルゴールは、疲れがとっても取れます………です。

 お役に立つと………。」


「ありがとう」


 頭を撫でる。


(………。)


 頬を染める。


(とてててて。)

 

「このお薬は、まりょくをとっても回復させます………です。

 お役に………。」


「ありがとう」


 頭を撫でる。


(………ぴこぴこ。)


 毎回うれしそうにしているのが、とてもかわいい。


(きらきら!)

(おいしい!)


 スライムたちは、宝石を食べていた。

 幸せそうで何よりである。


 ルールーの頭を撫でて、アイテムを入れていくことしばらく。

 宝物庫が、ほぼカラになった。

 オレはルールーがあえてスルーしていた、ひとつのランプを指し示す。


「アレはなんだ?」

「よくないもの………です。」

「どんなものが入ってるんだ?」

「すきる魔神のランプ………です。」


 ルールーは、解説を入れてくれた。

 スキル魔神のランプ。

 ランプをこすると魔神が現れ、呼び出した相手にスキルをくれる。

 しかしスキル譲渡の際には、何らかの捧げ物をする必要がある。

 それが気に入られなかったら、命を奪われることもある。


「とってもきけんで、危ない………です。」

「なるほど……」


 オレはルールーのアドバイスに、深くうなずくと言った。


「じゃあ外で出すか」


( んうっ?!?!)


  ◆


 城の裏庭にでた。

 100メートル単位の幅広い空間だ。空間の奥には、切り立った崖が見える。


「ここなら大丈夫そうだな」

(っっっっっ、)


 ルールーはあせあせとしていたが、人類最強のオレを上回るほどの力は感じない。

 オレはランプを、軽くこすった。

 ランプの口から煙が出てきて、魔神が出てくる。


「ぬうぅぅんっ……!」


 魔神は、んーっと伸びをした。

 エキゾチックな雰囲気を放つ、妖艶な美女だ。

 髪もウェーブがかかっている。


「わらわを呼び出したのは…………おヌシか」


 魔神はオレを見た。


「どんな供物を捧げてくれるのじゃ?」

「捧げないとダメなのか?」

「わらわを上回る相手なら、そんな必要はない。しかしおヌシは、人間じゃろ?

 上級魔神たるわらわを、上回れるはずがない」


 オレは何も言わなかった。

 すると魔神は、解説を始めた。


「人間を魔導で強化したのが魔人。

 魔人を総べるのが魔王。

 魔王が信仰するのが魔神。

 その中でも上級に位置するのが、わらわたち上級魔神。

 上級魔神は、世界でも32柱しかおらん。

 わらわたちの上に立つのは、魔神王だけじゃ。

 わらわたちの上をゆくなら、魔神王と互角以上の実力は必要になるわけじゃが……」


 スキル魔神は、あざけるような笑いを浮かべた。


「人間風情が、そんな力を持つはずない」


「力を見せれば構わないのか」


 オレは袋に手を入れた。

 武器用の魔法袋から、巨大なハンマーを取り出す。


「そのハンマーは伝説と謳われた巨人族・『雷王トルー』が使用していた神槌……」


「ミョルニール、だったかな?」


 威力はあるが小回りが効かず、扱いに難しい武器。

 それでも力を見せるなら、かなりわかりやすいだろう。

 ミョルニールを振り下ろす。


 ズドゴオォォォォォンッ!!!


 大地がゆれる。

 地面に無数の亀裂が走る。同時に雷撃が走り、軌道線上にあった岩や枯れ木をすべて燃やした。

 ミョルニールをしまう。


「少しは認めてくれるかな?」

「はい。」


 魔神は、大人しくなった。

 その場にぺこりと土下座する。


「今後わらわは貴公という偉大なる存在を、偉大なるあるじ様と呼ばせていただく所存ですじゃ。

 わらわのことは、下賤なるスキールか、下僕ちゃん軍団一号とでもお呼びくださる」


 卑屈さがすごい。


「すごい………。」


 ルールーが、頬を赤らめオレの腕にくっついた。

 これは後で知る話だが――。

 魔族というのは本能的に、強い相手を好むらしい。

 それにしてもスキールのこれは、少々大袈裟ではあるが。


 スキールが、土下座のままで顔だけあげた。


「それにしてもあるじ様は、どのようにしてそのような力を?」

「遺跡探索が大好きな探検家の父さんと、歴代最強の王と言われたじーちゃんに育てられた成果だな」


 魔法袋や神器も、父さんが遺跡で見つけた品だ。


「それだけでは済まないような、力だとも思うのですがじゃ……」

「可能性は否定しないが、オレが思い当たるのは父さんとじーちゃんの教育だけだよ」

「なるほどでする」


 スキールはうなずく。


「そしてわらわは、何をすればよろしいのじゃ?」

「スキルをくれ」

「承知なのじゃ!」


 スキールは地に膝をつきながら、上半身だけを起こした。

 スキールの体が光り輝く。

 激しい魔力が、魔神の胸の前で渦を巻く。

 それは光りの球を作った。


「下賤なるわらわの力が、偉大なるあるじ様のお役に立てるかどうかはわからぬですがじゃ……」


 そんな言葉を漏らしつつ、オレに魔力の球を手渡す。

 オレはそれを受け取った。

 球がオレに入り込む。

 頭の中に、力が表示されていく。

 

 全能力値上昇(10倍)

 重力操作(上級)

 確率操作(上級)

 時間操作(上級)

 スキル強奪(上級)

 テレポート(上級)

 アイテム鑑定(上級)

 ステータス鑑定(上級)

 サイコキネシス(上級)

 物理無効(上級)

 魔法無効(上級)

 攻撃反射(上級)

 強い相手に媚びる魂(神級)

 ボタンを縄に変える能力(上級)


 ぜいたく過ぎるスキルの中に、変なものがふたつある。


 ・強い相手に媚びる魂(神級)

 ・ボタンを縄に変える能力(上級)


 使い道が謎である。

 特に上。

 ほかの力が上級なのに、強い相手に媚びる魂は『神級』とある。

 いったいどれだけ、媚びる力が強いんだろうか。

 

「まぁしかし、想像以上にぜいたくだな」

「神級以外のあらゆる力は、上級魔神なら当たり前に持っている力ですじゃ」


 スキールが最初威張っていたのも、うなずける力だ。


「しかしあくまで、『上級』ですじゃ。偉大なるあるじ様と同格以上の相手には、効果がないと思ってくだされ」

「わかった」


 オレはうなずく。


「それでは下賤なるわらわは、ランプに戻らせていただくですじゃ。

 御用があれば、お好きに呼んでくださいなのじゃ。

 魔王退治からおトイレの掃除まで、わらわはなんでもいたすのじゃ」

 

 スキールは卑屈に揉み手をすると、ランプの中に入っていった。


――――――――――

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三つあるとうれしいです!!

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