第4話 おいしいプリンと子犬になった門番


「色々ともらったし、オレからもごちそうをしよう」


 オレは城の食卓にいた。

 魔法袋から、とても大きな卵を取り出す。


 シュガーエッグ。

 砂糖の甘みを天然で宿した、極上の卵。

 その大きさは、ダチョウの卵と同じくらい。

 スパンッ!

 手刀で頭のほうを飛ばして、器に入れる。


「オレには、尊敬している人が三人いる」


 天然の調味料を入れてかき混ぜる。


「ひとり目が父さん。

 捨て子のオレを拾ってくれた、遺跡探索のエキスパート。

 オレに修行をつけてくれた人でもある」


 ルールーはつぶやいた。


「つよそう………。」


 オレは卵を、魔法で熱する。


「ふたり目がじーちゃん。

 父さんが死んだあとオレを引き取って育て、さらなる修行をつけてくれた人だ」


「つよそう………。」


「三人目が…………」


 オレはバケツサイズの大きなプリンを、皿に乗せて言った。


「プリン大好きルドルフおじさん」


「だれ………?」


「世界を旅してプリンを布教している人だ」


 オレはプリンを味見した。


(うまい……!)


 我ながらよくできた。

 滑らかな触感に、甘みのバランスも完璧だ。

 プリンってほんと、すばらしいよね。

 ぷるぷるなのに滑らかで、甘味は濃厚。

 噛まずに舌で転がすだけで、幸せが口の中いっぱいに広がる。


(じぃ………。)


 ルールーが、物欲しそうにオレを見た。


(じぃ……)


 スキル魔神のスキールも、ランプから出てルールーの隣に座っていた。


 オレはプリンを、ふたりの口元にやった。

 ふたりはプリンを、ぱくりと食べた。


(パアッ………!)

(くうぅ……!)


 お花畑が咲いた気がした。


(ぴこぴこ。)


 ルールーの、頭の左右のぴょこ跳ねも動く。


「おいしい………です。」

「あるじ様に仕えてよかったのじゃあ……!」


 オレは言った。


「命が有限であるならば、食事の回数も有限だ。

 ならば一回でも多く、おいしいものを食べたほうがいい。

 プリン大好きおじさんからは、そんなことを教わったよ」


(わかる)

(ごはんだいじ)


 スライムのみんなも、小型プリンを食べている。

 オレはプリンを口にふくんだ。

 ルールーの父さんは、幸せな思い出を作ってほしい――とルールーに言った。

 このプリンが、幸せのひとつになればいいなと、オレは思った。


「もっと………。」


 ルールーもうっとりした顔で、口を開いた。

 オレは笑顔でプリンをすくい、ルールーの口に入れてやった。

 

  ◆

 

 プリンを食べ終わった食卓。

 オレはゆるりと立ちあがる。


「そろそろ行くか」

(………。)


 ルールーがオレを見てきた。


「ついてきたいのか?」

(こくっ、)

「危ないこともあるかもしれないぞ?」


 ルールーは、ほんのわずかにたじろいだ。

 しかしすぐさま、両の拳をギュッと握った。


「きけんがあったら、お守りします………です。」


 守る側のつもりのようだ。

 気に入った。


「よろしくな」


 オレは手を差し出した。

 ルールーは、オレの手を握りしめた。


  ◆


 城の出口へと向かう。


「ぴと………。」


 ルールーは、オレにぺたりとくっついている。

 身長に見合わない巨乳が、オレの体にむにゅりと当たる。


「そこまでべったりする意味は……?」

「離れると、こわい………です。」


 声は震えていた。


(無理もない……か)


 何百年も鎖に繋がれ、暗い地下にいるしかなかったのだ。

 ひさしぶりの温もりを、離したくないのが当然とも言えた。


「よしよし」


 オレはルールーの頭を撫でた。

 

「んっ………。」


 ルールーは、オレの腕に顔をこすらす。

 ルールーが元々くっつくの大好きな子であると知るのは、しばらく先のことである。


  ◆


 オレたちは、城の扉に近づいた。


 ふと気づく。

 扉の横で、ひざまずいてる甲冑の女がいた。


 黒髪の女だ。

 元気そうなショートポニーで、勝ち気そうな瞳をしている。

 彼女は、ひざまずいたまま言った。


「どうか私に、随伴の許可をいただけないでしょうか?」

「誰?」

「名前はサイ。この城の門番です」

「門番って言うと……」


 城の最初で戦った、サイクロプスを思い出す。


「あの時のサイクロプスが、私です」

「ええーっ?!?!?!」


 今は普通の女の子で、目もふたつあるのに?!


「今のこの姿では舐められることが多いため、変化の術をかけてもらっておりました」

「なるほどなぁ」


「ミスティリア様とその奥方は、不器用な私によくしてくださいました。

 そのお二方がいなくなった今、私はお二方のご令嬢であるルールー様にお仕えしたいのです」

「オレが決めることではなさそうだな」


 オレはルールーを見た。

 スライムのみんなが答えた。

 

(ごはんへる?)

「減らないよ?」

(わーい!)


 スライムは喜んだ。

 ルールーはどうだろう?


(じぃ………。)


 ルールーは無言だ。何も言わずにオレを見ている。

 あくまでオレに決めてほしそうな感じだ。

 

 かんばしい答えがないからだろう。

 サイはグッと拳を握ると、力強く言った。


「もちろんお邪魔はいたしません!

 三歩さがって背後霊のように、あなたを見守る盾になります!!

 それでもご不満があるのでしたら、ランプに入れっぱなしでも構いません!!!

 私はこれでも魔神ですので!」

 

 スキールが、ランプから上半身を出して答えた。


「サイはわらわにこそ及ばんが、上級魔神の端くれ程度はあるじゃよ。

 つけてる鎧もオリハルコンじゃっけ、損になることはないっちゃよ」


 ルールーはつぶやく。


「だめって言ったら、どうします………です?」


「ひとりでこの城を守り、ルールー様が帰る日を待ちます」

「わたしが帰るとは、限らない………です。」

「思い出が詰まった城です。ひとり朽ちても悔いはありません」


(………。)


 ルールーは何も言わない。

 その目は、深い憂いと悲しみを帯びていた。

 自分の境遇と重ねてしまっていることが、見ているだけでわかった。


「連れていってあげてほしい………です。」


 病気の子犬を胸に抱いた少女のような、儚さと哀願があった。


(くぅん……)


 オレたちを見上げるサイもまた、捨てられそうな子犬を思わせる目をしていた。


「ちゃんと面倒みれるか?」

(こくこくこくっ、)


 ルールーは、三回もうなずいた。

 とっても連れて行きたかったことが、一見してわかる。


「よしっ」


「ありがとうございます!!!!!!!」


 サイはひざまずいたまま、超高速で頭をさげた。

 地面に頭が、大激突する。

 城がゆれ、地面が軽くヒビ割れた。



―――――――――――――

ヘタレサイクロプスさんが仲間になりました。

基本的にはスキールさんと一緒に、ランプの中にいる予定です。

かわいいと思ったら星をくださるとうれしいです。

三つあるとうれしいです!!

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