SIDE ローティその1~王子転落のプロローグ~

 冒険者の街、キムレスの北出口。

 三人の猫耳少女があいさつをした。


「よろしくなのにゃ!」

「「なのにゃ!!」」


 リュックを背負ったリーダーの少女の左右に、彼女より一回り小さな双子がいる。

 王子ローティが、騎士クルルへと尋ねる。


「これは……?」

「この街で一番のサポーターが、彼女たちと聞いたので……」

「どうして三人もいる?」


「増殖期ダンジョンのてーさつと荷物持ちは、普通は5人で1組なのにゃ」

「左右、ぜんぽー、こーほーで四人。荷物持ちでひとりなのにゃ」

「3人で済んでいる分、むしろ褒めてほしいのにゃ」


「前の荷物持ちは、増殖期だろうと偵察と荷物持ちをひとりでやっていたぞ?」


「荷物を持ちながら偵察とか、その人が凄すぎるだけなのにゃ!」


 語る猫耳の少女に、武道家リスティが言った。


「だけど三人ってことは、報酬は……」


「「「利益の半分で大丈夫なのにゃ!」」」


「「「半分ぅ?!」」」


 猫耳少女は、手をわたわたと動かした。


「戦闘員とサポーターが組む場合、軋轢を避けるためにも半分ずつが望ましい。

 ギルドの手引きにも、書いてありますにゃ!」


「でも戦わないのよね?」


「偵察と補給は、戦いと同じくらいに大事なものですにゃ……」

「そこをケチるなら手荷物分で片付くような、身の丈にあった依頼を受けるべきですにゃ……」


「身の丈?!

 わたくしたちは、王子パーティでございますのよ?!」


「「だったらお金を払ってほしいですにゃあぁーーーーーーーーーーーー!!!」」


 猫耳たちは、(><)な声を張り上げた。

 ローティが、やれやれとため息をつく。


「所詮は、小さな街に納まる程度ってことか」


 猫耳たちは思った。

(聞いてた以上に最悪ですにゃあ……!)


  ◆


 これはスライが、追放された直後の話。


 彼女たちの本拠地――ねこねこハウス――に、スライは訪れていた。

 15人の猫耳少女で構成された、ある種の人間にとっては夢のようなサポートチームだ。

 猫獣人特有の足音消去や危険察知能力は、凡人の追従を許さない。


「ここがこの街で一番のサポートチームか」

「そうですにゃ!」


 スライは言った。


「オレの足元にも及ばんな」


 それは彼ら、彼女らの稼業における、依頼前のあいさつだった。

 パーティを組むには、互いの力を知らなければならない。

 力を知るには、見せ合うのが手っ取り早い。

 挑発めいた発言をされれば、自然な形で見せ合える。

 そういう文化なのである。


「いきなりケンカを売られたのにゃー!」

「それだけ言うには、力を見せてもらうのにゃー!」

「できなかったら、有り金ぜんぶでマタタビを買ってもらうのにゃー!」


 挑発を受けた側が憤った様子を見せるのも、そういう文化なのである。

 スライムたちは、ぷるぷる震えた。


(またたび?!)

(たべたことない!)

(ごしゅじん、まけて!)


 スライは、苦笑して言った。


「あとでやるから」


(やったー!)

(うれしい!)

(ごしゅじん、だいすき!)


 スライはスライムを撫でると、ネコミミに言った。


「まずオレは、魔法袋を持っている」


 ひょい、ひょい、ひょい。

 スライは腰の魔法袋から、大量のアイテムを出した。


「魔法袋?!」

「古代遺跡の聖遺物ですにゃ!」

「金持ち貴族に売るだけで、100年遊んで暮らせるですにゃ!!」


 猫耳少女の半数が、あわあわと震える。

 だがリーダーは、ビシッと言った。


「騙されるでないですにゃ!

 これはアイテムがすごいだけですにゃ!!」


「アイテムがすごいのは否定しないが……」


 オレは魔法袋を、少女に渡した。


「ふにゃあぁーーーーーー!!!」


 猫耳少女は、袋の重さに引っ張られた。


「重さは加算されるから、鍛えないと持てないぞ?」


 オレは猫耳少女から、右手一本で魔法袋を取り上げた。

 袋の中に手を入れて、それを取り出す。

 巨大な岩石。


「いつもは盗難防止用に、岩を入れていたりする」


 猫耳少女に見せてから、魔法袋の中に戻した。


「バケモノですにゃあ……!」


「これが補給要員としての力だ」

「てーさつもやるのですにゃ……?!」


 スライは、猫耳少女に背を向けた。

 指で少女の真ん中を指す。


「好きな数だけ指を立ててくれ」


(にゃーの好きな数は、にゃんにゃんのにゃーなのにゃ……!)


 猫耳少女は、両手でピースサインした。

 スライは目を閉じ、つぶやいた。


「両手でピースしているな?」


「「うにゃっ……?!」」


 左右の少女は驚いた。当てられた子は叫ぶ。


「こんなの偶然に決まってるにゃ! もう一回なのにゃ!」


「いいだろう」


 猫耳少女は、しばし手とにらめっこする。

 そして8本、指を立てた。


「立てたにゃ!」


「八本」


(うにゃあぁーーーーーーーーーーーーー?!?!?!)


 猫耳少女は愕然とした。

 パニックの勢いで、両手を後ろへと下げる。


「これならいったい何本ですにゃ?!」


 彼女は指を、一本も立てていない。

 しかしスライは、即答した。


「立ててないよな?」

「いったいどうしてわかるのですにゃ……?!」


 三人は、寄り添いあって震える。


「魔力探知で前後左右、その気になれば半径二キロを軽く探れる」


「ばけものにゃ……」

「かいぶつにゃ……」

「へんたいにゃ……」


「まぁオレは、趣味でスライムの研究をしてるからな」


 森の中。

 2キロ離れた普通の樹木。

 カブトムシなどと一緒に、樹液を舐めているスライム。


(おいしい!!)


「そんな喜びの感情を、感じ取れるだけの修練は積んできた。

 他の魔物を察知するとか、まったく大したことじゃない」

 

 スライム研究者ってスゴイ。

 猫耳少女は、そう思った。


  ◆


(またたびおいしい!)

(こころふわふわ!)

(ふわふわの王!)


 スライムたちが、またたびを楽しむ。


「それで今日は、何の用で来たのですにゃ……?」

「天上人すぎるスライ様のお役に立てることなど、下賤なるにゃーたちには微塵も存在しないと思うのですにゃ……」


「実は最近、王子のパーティを追放されてしまってな」


 猫耳少女たちは驚く。


「スライ様を追放?!」

「どれだけ頭がバカなんですにゃ?! 人を見る目がないですにゃ?!」


「オレにだって、欠点はあるんだ」


「信じられないですにゃ……」

「態度などは尊大ですがにゃ……」

「それも圧倒的な実力がある以上、神様や王様が偉そうにするのと変わらないですにゃ……」


 オレは声をさえぎり言った。


「オレの欠点はふたつある。

 第一に、能力が高すぎることだ」


「それはいけないことですにゃ……?」


「オレがパーティにいると、どんなに雑な探索をしても成功してしまう。

 失敗はもちろんのこと、苦戦の経験さえもできない」


「それは確かに、ありえるですにゃ……」

「偉大なるスライ様は、圧倒的な例外で特別な人間……」

「そんなスライ様と一緒にいては、すべてがイージーになって世の中を舐めてしまうですにゃ……」


「王子がオレを追放したのは、それに気づいたからだと思う。

 自分たちが成長するため、オレのことを追放したんだ」


「確かにスライ様と一緒に旅して凄さがわからないとか、あり得ないレベルのアホですにゃ……」

「そんなアホだと思うよりは、『自立のためにあえて追放』と言われたほうが、現実的ですにゃ……」


 猫耳少女たちは、納得した。

 平均以上の頭があれば、当然の結論でもあった。

 よほどのバカか悪いやつに薬物洗脳でも受けていない限り、スライを追い出すことはしない。

 もっとも王子たち一行は、猫耳少女たちが想定できないレベルの【自主規制】だったのだが。


 スライは金貨を、テーブルの上に置いた。


「「「っ?!?!」」」


 驚く子たちに、淡々と告げる。


「オレが抜けた今、王子は街一番と名高いキミたちをスカウトすることだろう。

 しかしオレと比べてしまって、理不尽な罵倒をする可能性も高い。

 この金は、慰謝料として受け取ってほしい」


「だからって、にゃーたちが10年は遊んで暮らせる大金を……!」

「オレがあまりに優秀すぎるせいで、不快な思いをさせてしまうんだからな。

 このぐらいはしておかないと、じーちゃ……先代の王にも申し訳が立たない」


「すばらしい師弟愛を感じるですにゃ……!」

「目先だけ見て、王子様をバカとか言った自分たちが恥ずかしいですにゃ……!」


 ねこねこハウスの少女らは、感動の涙を流した。

 そしてひとりが、小首をかしげた。


「もうひとつの欠点は、なんですにゃ?」


 スライは言った。


「ゴキブリが怖い。」


 思い出して頭を抱える。


「アレはダメだ。なんというか、もう……ダメだ。

 姿とか動きとか神出鬼没なところとか、もう……ダメだ。

 魔力感知でもアレだけは補足しないよう、あえて除外しているぐらいだ」


 スライの全身が、小刻みに震える。

 その時だった。

 猫耳少女のひとりが、窓のほうに目をやった。

 スライもそれを見てしまった。


 這いずっている。

 何かカサカサとした、小さなものが。

 いや、そんな。

 あのフォルムは何だ。


 窓に! 窓に!


 スライは魔力砲をぶっ放し、窓ごとそれを焼き払った。


――――――――――――――――

この作品に星を入れると、Gを防除できるようです。

Gが大嫌いな人は、星の投下をオススメします。

三つ入れると、防除の効果も最大になります。

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