第7話

「電化製品の魂? はっ、笑わせるな。そんなもん、あろうがなかろうが俺には一切、関係ない! 許してくれだぁ? だったら直してくれよ。母さんや父さんがない金叩いて買ってくれたオルゴールをよぉ!」


 俺は電貧乏神を退かして居間に向かった。収納棚を久々に開けて、オルゴールを探す。二段になったダンボールが三列あって、その真ん中の下のダンボールを取り出して開ける。銀色の塗装が剥げかかっているオルゴールを手に取り、電貧乏神のところまで戻った。


「神様だって言うんなら、このくらいのこと簡単だろ?」


 無理です! 電貧乏神の隣で女が大声を出した。宮野 咲とか名乗っていたか。もう帰ったものだと思っていたけど、まだいたのか。


「電貧乏神様は破壊神の一種で、その性質は破壊。ましてや壊したモノを直すなんて、出来るはずがありませんっ」

「お前に言ってるんじゃないんだよ、俺は電貧乏神とやらに言ってるんだ」


 俺が怒りをぶつけても、宮野 咲は怯まない。それどころか、震える足で一歩前に出た。その両の手のひらは固く握られている。


「い、いえ、言わせてもらいます。無理なものは無理です。怒るのも分かりますが、電貧乏神様に悪意はなかったはずです。電貧乏神様をどうか責めないであげてください……」

「もうよい」


 電貧乏神が静かに諦観した。悲痛な顔をしている。俺も被害者じゃなければ、その悲嘆にくれた姿に同情していたかもしれない。


「そのオルゴールはわしが預かろう。今日一日だけ、待っていて貰えぬか?」

「言ったな? 約束だぞ。失くしたりしたら、恨むから、大切に扱えよ」


 同情なんてしてやるか! 睨みを利かせながらオルゴールを手渡すと、電貧乏神は何も言わずに出て行った。

 はっ! 今まで取り憑かれていたのが居なくなると思うと、清々するわ。


「お前ももう帰ってくれ」

「い、言われなくてもそうします。失礼しましたっ」


 宮野 咲は一礼してから出て行った。

 これで一先ず、元通りになったはずだ。厄介者が消え、家の電化製品が壊れる心配もない。一安心じゃないか。


 俺は何も間違ってない。壊されたから修理を要求しただけだ。当然だろ? なのになんで、こんなに胸糞悪い気分にならなきゃいけないんだ……。

 月に一缶と決めている缶ビールを半分ほど胃に流し込む。冷蔵庫に入れていたのに、生温い。冷蔵庫は冷蔵庫でも、冷気の出ない冷蔵庫じゃ当たり前か。しっかし、酔える気がしねぇ。

 茹だるような暑さも和らいできた、もうすぐ夜の七時を回る。テレビもなければパソコンもない、することがない。気分は良くならないしで、最悪だ。


「散歩でもするか」


 これ以上家に閉じこもっていると、頭が変になりそうだ。

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