第11話
「俺の家電たちが、また壊れた!?」
「落ち着いてください、ブレーカーが落ちたのでは?」
ブレーカー? たしかに、家にはそういった機能があると聞いたことがある。何年、いや、何十年振りの体験だろうか。すっかりその存在を忘れていた。
薄暗闇の中で分電盤にあるブレーカーを上げると、すぐに電気は復旧した。良かった……本当に。
俺はまたブレーカーが落ちないよう、愛すべき家電たちを一つずつ浅い眠りに就かせていった。
「なむさん、なむさん、なむさん、なむさん……これで良し」
急に室内が寂しくなったが、ボタン一つでいつでも賑わいを取り戻せる。なんと満たされた環境だろうか。自然と顔が綻んでしまう。
「何かの代償なくして、何かを得ることはできない。たとえ神でも、この原則は絶対です」
宮野 咲は神妙面持ちで神妙なことを言う。
「なんだよ……急に」
「電貧乏神様はあなたの電化製品を直すのを対価に、自分の命を支払ったんです。あなたの家付近で感じていた電貧乏神様の気配が、ぷつりと途絶えたのが、その証拠です。そもそも、電貧乏神様は破壊神であるのに、電化製品を直すなんて無茶だったんです」
「電貧乏神は自分の命を投げ打って、俺のためにオンボロ電化製品を直した、そう言いたいのか?」
「そうです、あなたが電貧乏神様を殺したんです!」
俺が、殺した? 事の飛躍が著しい。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺はそこまでして直してくれとは頼んでない! それに、あれでも神様なんだろ? そう簡単に死ぬものじゃないんじゃないのか」
「あなたは、神様の何を知っているんですか」
宮野 咲は感情の読めない顔で、真っ向から俺を見据えた。その清廉な立ち居振る舞いは、言葉で語るよりも多くの物を伝えてくる。
「なにって……」
なにも知らない。んなもん、知っているはずがないだろ。
「神殺しは存在します。これまでも、名のある神が死んでいったのを私は知っています。あなたは電貧乏神様を殺したんです。どうしてですか? 電貧乏神様は何も悪くないはずです! あなたがあんな無茶な約束事をさせたせいで……」
毅然としていた宮野 咲の目元から、少しずつ雫が溢れた。泣かせてしまった。俺が電貧乏神を殺したから?
「なにかの冗談だろ? そんな深刻そうな顔をしないでさ、ここは待とうぜ。きっと何食わぬ顔して帰ってくるさ」
「私、そういう綺麗ごとはしんじ――」
ません、そう宮野 咲が言い切ろうとしたところで、『ジーーーーー』という機械の一定音が部屋に響いた。その音が我が家の呼び鈴であることに気づくまで、少しかかった。
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