第2話

「どういうつもりだっ。見てのとおり、この家にモノを買うお金なんてない。セールスなら他を当たってくれ!」


 反動をつけてドアを強引に閉める。相手の足を思い切り挟んでやった。きゃ! と小さな悲鳴が聞こえ、ドアは閉められた。


 ……ちょっと乱暴な追い払い方だったろうか。相手も仕事で来ているのに、力尽くは不味かったか。


 念のためにチェーンを付けて、ドアを少し開いて様子を覗いた。彼女は立った状態で、右の素足を持ち上げて息を吹きかけている。瞬間的に目と目が合う。二十歳手前の小顔が愛らしい女の子で、アイドルグループに一人は混じってそうな親しみやすい雰囲気がある。


「一応聞いておきますけど、足、大丈夫ですか?」

「とっても痛かったです」


 やばい、今にも泣きそうな潤んだ瞳をしている。後々で治療費とか請求されても厄介だし、どうしたもんか。


「セールスとかでは決してないんので、家に上がらせてもらえませんか?」

「……はあ、分かったよ。俺も悪かったし、足を冷やすくらいでいいなら、手当する。その代わり、セールスだと思うような言動をしたら、すぐに出て行ってもらうからな」


 気乗りしないが、コクコクと頷かれてしまってはもう仕方がない。ドアのチェーンを外して、彼女を部屋に入れてやった。

 とりあえず畳に座らせて、ビニール袋に水道水を入れただけの即席コールドパックもどきを作って渡した。


「これ、無いよりマシだろうから使ってくれ。貧乏人の部屋はそんなに珍しいか?」

「あーいえ、見渡してしまってすみません。ただ、この家から気配がするんです」

「気配だ?」


 所々剥がれた白い壁紙、カビでまだら模様を作るグリーンカーテン、クモの巣の張った天井の照明、なるほどな、なにか妙なものが出るには打って付けの光景だってのか。

 余計なお世話だ。


「最近、電化製品が立て続けに壊れるようなことはありませんか?」

「なっ!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る