我が家に電貧乏神ってのが勝手に取り憑いているのだが……

スミレ

第1話

 長身を活かして、我が家のエアコン本体のボタンを直接押してみた。俺の癖のあるショートヘアーが風圧で……揺れない。


 いつか来るとは思っていたが、とうとうエアコンまでもが壊れてしまった。

 テレビ、電子レンジ、冷蔵庫、洗濯機、思い出の機械式玩具、おまけに目覚まし時計まで、俺を一人残して壊れていく。


「何かに呪われていたりして」


 まさか、二十五歳にもなって馬鹿らしい。

 どれもこれも、年季の入った物ばかりだったんだ。壊れて当然じゃないか。次に壊れるとしたら、何が壊れるのだろうか。ポットか? 携帯か? 俺の脳みそだったりしてな。


 仕事の都合でワンLDKのボロい格安アパートに単身で引っ越してきて、かれこれ三年が経つ。

 どうしたことだか、三ヶ月に一個のペースで、電化製品が順調に壊れていく。怪奇現象とまではいかなくとも、首を傾げたくなる奇妙な連鎖だった。


「あつい、にしても暑すぎる」


 夏の茹だるような暑さに、エアコンの風を妄想しながら畳の上をのた打ち回っていると、歯切れの悪い『ジ……ジジー、ジッジージジジ』という機械音が部屋に響いた。

 俺はこの音を『大家さんの呼び声』と名づけている。実際、大家くらいしか我が家にやってこない。

 額の汗をTシャツの袖口で軽く拭って玄関に行き、塗装が剥がれつつある木製のドアを開けた。


「大家さん、家賃の請求にはまだ早いんじゃ……って」


 よく見たら大家さんじゃねぇ!?


「すみません間違いました。何の御用でしょうか」

「この家のことで、何かのお力になれたらと思いまして」


 胸の高さから甘く透き通った声がして、俺は一瞬暑さを忘れた。

 とても胡散臭い女がいる。何かのセールスか? 客商売にしてはバカに明るい色の短髪をしていて、目深に被った黒いキャップ帽のせいで顔は見えない。人に見せられない顔なのか? んなことはどうだっていいか。


「結構だ、帰ってくれ!」


 先手必勝、俺は二の句を継げさせずドアを閉めた。……ん、ちゃんと閉まらない? ――足だっ!? この女、ドアの隙間に足を差し込んできやがった!

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