第3話
なぜそれを知っている? さては、大家さんから情報を仕入れたか。あのデブ大家、口うるさいだけじゃなく、他人の秘密をすぐ漏らしたがる……。
「あんたには関係ないだろ。それ以上減らず口を叩くと、悪徳商法とみなして追い出すぞ」
「そんな……でも、たしかに居るんです」
ほらそこに、と彼女は天井の照明に視線を向けた。アホらしいと思いながらも、俺もつられて天井の照明を仰いだ。
電源の入っていないはずの天井の照明が、小刻みに明滅を繰り返し始める。しばらくすると光は収まった。
ありえない、本来であれば起こりえない現象だ。
「さてはお前、人の天井になにか細工したな!」
「やめてください、そんなことするはずがないです。私ではありません。電貧乏神様の仕業です。本当なんです、信じてください!」
「んな言い訳があるか! 俺を騙そうったって、そうは問屋が卸さない」
すこし優しくするとこれだ。可愛さを武器にすれば世の男がすべてコロッと騙されると思ったら、大間違いだぞ。
彼女の二の腕を掴んで玄関まで引っ張り出す。その途中で、彼女から数世代前と思しき携帯電話が落っこちた。
落っこちただけなら拾って突っぱね返すのだが、あろうことか、携帯電話は黒煙を立ち昇らせながら小さな爆音を奏で始めた。
「私の携帯電話が……」
「こ、壊れたのか?」
彼女は俺が掴んでいた手をするりと抜けて、物悲しげな背中で携帯電話を手に取り、しゃがんで頻りに弄りだした。同じボタンを何度も長押している。極めつけに重たいため息を零して、その場で肩をガクシと落とした。
どうやら再起不能なまでに壊れたらしい。この場合って、俺が悪いのか? 落としただけで壊れるなんて、そもそも寿命だったんだろ。そうだ、俺は悪くない!
「やられました」
「同情するけど金は出さない。さっさと帰ってくれ」
「これでもまだ信じてくれないんですね」
下から睨んでくる彼女の目を、俺は腕組をして受け止めて返す。
「信じるって、何をだよ」
「電貧乏神様です! この家は電貧乏神様の住処になっています。電貧乏神様は古くてまだ稼動できる電化製品を好みます。そういった意味でここは、絶好の生息スポットなんです」
たしかに古い電化製品を多く置いているが、なんで初対面の女に古い言われなきゃなんねぇーんだ。これら一つ一つ、俺にとっては大事なもんなのに。
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