第6話

 昔の記憶がフラッシュバックした。

 この家の奇妙な出来事の数々は、全て電貧乏神のせいだったってのか!?


「どうした急にふら付いて、眩暈か? 人間とは真にか弱い生き物じゃのう。お主も座れ、畳はいいぞ」


 胡座を掻いている変態女は、隣の空いたスペースをぽんぽんと叩いた。呑気にしやがって、見ているだけで怒りの情が沸々とわいてくる。


「俺のオルゴールを壊したのは、お前なんだなっ」

「オルゴール? ……ああ、よく覚えておる。中でもあのオルゴールは絶品じゃった。たまらず基盤の髄までしゃぶり尽くしたほどじゃ」


 浮かれた顔はその時の味を思い出しているのか……やっぱりこいつに壊されたんだ。機械の寿命なんかじゃなく、こいつにっ!


「家電製品は親から譲り受けた大事なモノだったけど、壊されたと知ってもまだ我慢できるっ。だけどな、あのオルゴールだけは特別だったんだ!」

「お主、怒っておるのか」


 キョトンとした顔に、俺は感情のままに詰め寄った。


「当然だろ!?」


 体をじっとさせていられなかった。気づくと電貧乏神の胸倉を左手で掴み上げ、余った右手は拳を作っていた。

 あと一言、癇に障ることを言ってみろ、俺が頭で理解するよりも早くこの拳は飛び出すぞ。


「……お主にとって、とても大切なオルゴールじゃったのだな。わしは収納棚の奥で眠っていたそれを、もう要らぬ物だと思って食べてしまった。申し訳なかった。人間に恨まれるのはとても悲しいことじゃ、殴って気が済むのなら、殴るがよい」


 殴ってやりたい! なのに、肝心の右手が反応しない。

 こいつが今更反省しようが、オルゴールを壊された事実は変わらないんだ。恨んでいいはずだ、俺はもっともっと怒るべきだ。こいつだって殴っていいと言ってるじゃないかっ!


「殴らぬのか?」

「そんなに殴って欲しいか!?」

「殴られるのは嫌じゃ、痛いからの。じゃが、人間にそのような怖い目で睨まれるのは、もっと辛い」

「だったら最初から人のモノ勝手に壊したりしなきゃいいだろうがっ!」


 許してくれぬか、と電貧乏神は弱々しく眉を歪めた。


「仕方ないのじゃ、わしはそういう存在なのじゃから。人の記憶の詰まった電化製品を糧にし、寿命を迎えた電化製品の残魂を浄化することを生業にしておる。慰めになるか分からぬが、お主のオルゴールの魂は、今もわしの中で生きておる」


 さすった腹にはなにかのリモコンが突き刺さっている。そのリモコンも、こいつが何時か食ったものなのか。

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