後日談3

「んで、お目当てのもんは見えたのか?」

「残念ですが、気配だけしか感じ取れませんね」


 宮野 咲は電話機器の方を見つめた。


「どうやら、わざわざ会いに来るほどの神ではなかったようです」

「小物には用はないってか」


 そんなところです、と俺の方に向き直ってお茶を啜る。


「ふぅ。少しだけ、懐かしい感じがしたのですが……」

「電貧乏神だと思ったか」

「――あなたを責めるつもりはないですが、やはり知り合いが消えてしまうのは寂しいです。電貧乏神様は本当にお優しい方でした。私は幼い頃、古い雑居ビルのエレベーターに閉じ込められたことがあったんです。そのときに、電貧乏神様はエレベーターの電気回路を壊して扉を開けてくださり、一介の人間にすぎない私を助けてくれました。原因は火事とのことで、あのまま閉じ込められていたらと思うと……」

「あいつ、良い奴なんだな」


 まあ悪い神ではないと思ってはいたけど。


「正しくは『良い奴“だった”』です。住処を求めて彷徨っていたらしいので、私は電化製品の山を作ってプレゼントしました。時々会いに行っていたのに、三年前にふと居なくなってしまって……ずっと捜していたんです。テレビに出れば電貧乏神様が気付いて会いに来てくれると思ったんですけど、私の勝手な思い込みだったようです」


 そりゃ人間のアイドルに神が興味を抱く方がおかしな話だ。

 さらっと言っているけど、アイドルって数年目指しただけでテレビでライブが配信されるようになるもんなのか? 俺はその手のことは詳しく知らないけど。


「お前、努力家だろ」

「なっ、なんですか急に?」


 宮野 咲は手にしたお茶を零しそうになって、顔を赤らめながら慌てた。咳払いを一つして冷静さを取り戻した、かと思えば、今度はジト目で凝視してくる。反応が分かり易すぎる。ホントにこいつこれでアイドルなのか?


「人の容姿をジロジロ見て、なんなんですかもう女性に失礼ですよ」

「いや悪い、なんでもない。それで、電貧乏神を殺した俺のこと、今でも恨んでるのか?」

「私、恨んでいるように見えますか?」


 おどけた感じで逆質問してきた。今のところ、そういった素振りはないが、内心でどう思っているかは、人間分からんものだ。

 俺が肩をすくめると、宮野 咲は気の抜けたアンニュイな顔で応(こた)えた。


「あの夜、電貧乏神様はこれから起こるであろうことを話してくださいました。私があなたを恨む構図を作りたくなかったんだと思います。実際、電貧乏神様の気持ちを知らないままだったら、あなたのことを恨んでいたと思います。とは言え当時はかなり取り乱して、酷いことを言ってしまいました、謝ります」


 正座のまま俺に居直って、律儀にも深々と頭を下げた。

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