後日談4
あの夜――電貧乏神が俺の家の前で蹲っていたときには、もう命と引き換えに俺の電化製品を直そうと考えていたんだな。全然、知らなかった。
「気にすんな。そんなことより、もし電貧乏神とまた会えるとしたら、会いたいか?」
「……根拠のない希望や、その場凌ぎの綺麗ごとは嫌いです。電貧乏神様と会うことはもうありません」
じゃあなんで、タクシーを使わないと来れない距離をまたやってきたのか。電貧乏神に会えるかもと期待したからじゃないのか? もしそう聞いたら、また顔を赤らめて、ジト目で見詰められてしまうのだろうか。
「私そろそろ仕事があるので、失礼します」
「もう行くのか? まだ来たばかりじゃないかよ」
「こう見えて結構忙しいんですよ、私」
安っすい営業スマイルをした宮野 咲が立ち上がるのと同時に、俺ん家の電話が鳴った。
大家からか、質の悪いセールスマンからか、それは出てみるまでは分からない。分からないけれど、このタイミングで鳴らせられる人物を、俺は一人しか知らない。いや、それを人と呼んでいいものなのか。
俺は受話器を取って、電話には出ず、そのまま宮野 咲に受話器を差し出した。
「電話に出なくてもいいんですか?」
「たぶん、この電話に出ていいのは俺じゃない。出てやってくれ」
「えっと……」
宮野 咲はあからさまに戸惑っている。それでも俺は変わらず受話器を差し出す。ここで二人をつなぎ止めない理由がない。
「気味が悪いですよ。……相手の心当たりはあるんですよね?」
「出れば分かる。こうしている間にも、通話料やら電気代やらのメーターが回っているんだ」
時は金なり、自分でもよく分からないことを言って、半ば強引に受話器を手渡した。
宮野 咲は猜疑心の眼差しで俺を見てくる。釈然としないのか、出るのにかなりの抵抗があるようだ。
「さ、なんなら一言交わすだけでもいいからよ」
「うーん、出ればいいんですよね」
「ああ、出てやってくれ」
宮野 咲は根負けしたように受話器をそっと耳に近づけた。
この世に魔法の言葉があるのなら、それは間違いなくこの言葉だと思う。
「もしもし――」
宮野 咲がそう呟いた瞬間、渋っていた顔がパッと華やいだ。まるで子供がプレゼントを貰ってはしゃぐかのように、受話器を片手に目を輝かせた。
※
ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます!
第一話は一先ず完となります。毎日19時更新はここで打ち止めとなります。
いつになるかわかりませんが、二話三話……と続けていけたらと思ってます!
我が家に電貧乏神ってのが勝手に取り憑いているのだが…… スミレ @TKS32
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