第13話

 電話をスルーすること一分、相変わらず鳴り続けている。二十秒くらい放置すれば、勝手に切れる仕組みのはずなのに、こういう時に限って微妙に故障しているとか。


「大家に喋らせたら面倒だし、一方的に捲くし立てて、素早く切ろう。大家さん、そういうことだから、今日は本当にすんませんでした!」


 俺は頭を下げてから、息を吸って受話器を手に取った。


「度々すみませんでした。もう叫ぶようなことはないですから、安心してくださいっ。夜も遅いので、これで失礼します。今日は本当にすみませんでした!」


 ガチャリ。試合終了、完封勝利!

 プルルルルルル……。


 ――どうやら三ラウンド制らしい。

 と、取りたくねえぇ! けど、後々のことを考えると欝になる。前門の大家さん、後門の大家さん。逃げ場なし。

 俺は渋々受話器を取った。


「……も、もしもし」

『先ほどのはなんじゃ?』

「えっと、すみませんでした」

『まあ、いいがのう』


 なんだろう、声質といい口調といい、大家さんにしては違和感がある。妙に艶っけのある若々しい声で、ネチっこさは完全に清められていてどこか爽やかさを感じる。


「大家さん、今何をしてるんですか? 声がいつもと違うようですが……」

『わしは生まれたときからずっとこの声じゃ。変になってなどおらぬ』

「そうでしたっけ……って」


 よく聞いたら大家さんじゃねぇ!?


「す、すみませんが、どちらさまでしょうか」

『今更なにを言うのじゃ。わしじゃよ、わし』


 オーキド博士……いやそれはないか。


「――わしわし詐欺の方ですか?」

『たわけっ! 電貧乏神様じゃ!』


 えっ、ええぇぇぇーーー! 自分を様付しやがった!? 心の声で叫んでしまった。って待て待て落ち着け俺、驚くべきところはそこじゃないはずだ。

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