第4話

「さりげなく人の家を貶したな、あんた。電貧乏神様だかなんだか知らないが、上等だ。かかってこいよ」


 論より証拠です、と彼女はポケットから一枚の折り畳まれた紙を取り出した。その紙を広げて、俺の前に突き出してきた。


「これを声に出して読んでみてください。電貧乏神様を感じられるようになるはずです」

「は? なんだよこれ」


 意味不明な漢字の羅列が記されている。これを読めってか? いいだろう、何が起きるか楽しみじゃないか。だけどもし読んでなにも起こらなかったら、こいつの処遇、どうしてやろうか。


「げんじつめいりょうしつふうらいきらいでんしんこうすいめい! これでいいんだな。で、どこに居るんだ、電貧乏神様ってのはよぉ」

「逃げも隠れもせん、わしならここじゃ」


 背後から妙に艶っけのある女性の声!? なんか居たああぁ! ここ俺の部屋だぞ、俺の部屋……だよな?

 頭にブラウン管テレビを突き刺した澄んだ黒目の女変質者。洋服の代わりに旧式のオーブンを纏っていて――というか腹部のあたりを貫通していて、オーブンのドアの中に大きな二つの胸が窮屈そうに収まっている。


「ふふっ、そのドアは決して開けてはならぬぞ?」

「あ、開けねーよ!」


 そしてこいつ少しは恥じらって言えよ。

 下も上も布要素は皆無で、黒電話だの電動マッサージ器だのの色んな家電を引っ付けている。折角のモデルのようなスラッとした長身も腰まである綺麗な黒髪も、変態コスのせいですべてが残念な感じだ。

 好い年した大人の女が、人の部屋でなにやってんだ!? っていうか、そんな格好でいつの間に入り込んだんだ?


「電貧乏神様! 私です、宮野 咲です。どうかお願いします、元居た場所に戻っては頂けないでしょうか」

「嫌じゃ」


 変態女はぷいっとそっぽを向いた。

 おいおいおい、家主である俺は蚊帳の外か!? 勝手に交渉が始まって、一瞬で断られてるし。こいつら身勝手すぎだっ。


「俺にも分かるように説明しろ! 話ならその後、二人で外出て好きなだけ話せ!」


 思わず大声が出た。でもこれでさすがに俺の意思は伝わっただろう。そんな期待に反して、二人は出て行く気配をみせなかった。それどころか変態女は畳にあぐらを掻いて、背中を後ろ手にゴソゴソとさすりだした。


「わしはここを大変気に入っておる。今では此処こそがわしの祠じゃ。移動などせん。こんなに美味しい電化製品を食べれるところ、そうありゃせん。もぐもぐもぐ……美味いのう」

「おいコラちょっと待てよ変態女! それ……俺が子供の頃に学校の授業で作ったラジカセじゃねぇか! く、食ってるのか?」

「うむ。なかなかに美味じゃ」


 満点の笑顔で言ってのける、こいつはマゾか!? 本当に美味しそうに食べてるし。口の中で破片が突き刺さってるだろ。いや、よく見るとラジカセは透けている。まるで幽霊みたく、ラジカセの存在があやふやだ。


「……な、何者なんだ?」

「そう恐れることはない。わしは神でも、人間にはすこぶる優しい神じゃ。人様の電化製品の魂を勝手に食べてその寿命を減らす以外、人畜無害と言っても過言ではない」


 人の電化製品の寿命を勝手に食って減らしたら、十二分に有害な存在だろ。…………なんだろう、気が遠くなってきた。

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