昼休みの校舎横ベンチ

 俺たちの高校には、憩いの場としてなのか屋外の至る所にベンチやテーブルが設置されている。天気の良い日には利用する人も少なくない。俺は今まで一度も利用したことはなかったが、今日初めてその内の一つのベンチに腰を掛け、弁当を食べている。


「納得できない」


 食べ始めて早々、隣に座っているアンナが言った。

 俺がわざわざ教室ではなくこの場所で食べているのは、何を隠そうアンナに誘われたからだ。アンナとは席が前後なのでいつも一緒に食べているし、移動する必要はないのだが、だからこそ何か理由があるのだろうと思って二つ返事で受け入れた。


「納得できないって……なんのことだよ?」


 シオリとのことがあってから、アンナとの会話はぎこちなかった。だからこうやって誘ってくれた時は安心した。俺にとってアンナはクラスで一番仲が良い友達で、一緒にいると気が楽だ。軽口を叩きながら過ごす時間は楽しくて、そのおかげで教室の居心地も良い。この関係を崩したくはない。


「綾城さんのことに決まってるでしょ。色々と聞きたいことはあるけど……まずは……その……伊坂っちと綾城さんはどういう関係なの?本当に付き合ってるの?」


「そのことか。俺と綾城……俺とシオリは一応付き合ってるよ。というより付き合うことになった、っていうほうが正しいかな」


 俺は話せる限りのことをアンナに話した。事のきっかけ、誤解だったこと、俺の過去、シオリが俺に好意を持っていたこと、そして付き合いを継続することになったこと。話を聞いている時のアンナの表情からは何を考えているのか読めなかった。


「……なんでそうなるの……」


「ん?どうした?」


「なんでもない。それより伊坂っちに彼女がいたなんて知らなかったよ」


「まあ付き合ってたっていっても中学生だったから可愛いもんだったよ。お互いピュアだったからな……だからこそ傷ついたけど」


「そっか……でもまだ引きずってるんだよね?そんな状態で付き合って大丈夫なの?」


「そうなんだけどな……でもシオリはそれを承知の上で『好き』って言ってくれたんだ。『裏切らない』とも言ってくれた。別れるなってわけじゃないけど、少なくとも浮気とかはしないと思う。それに俺もいつまでも引きずってるわけにはいかないからな」


「……そもそも伊坂っちは綾城さんのことどう思ってんの?もし好きでもないのに成り行きで付き合うんだったら良くないと思うんだけど」


「シオリのことは好きだよ。っていっても恋愛感情とはまたちょっと違うけど。でもさ、人に好かれるのって純粋に嬉しくないか?」


 マナカのせいなのか、元々自信がないからなのか、図々しいが俺ごときにも好みはある。


「多分俺は、俺のこと好きな人が好きなんだと思う。逆に言えばシオリに限らずどんな人でも俺に好意を持ってくれるのは嬉しい。だから都合が良いって思われるかもしれないけど、シオリのこと意識してるのは間違いないかな」


 曖昧な関係でもきっかけになればいい。他にどう思われても、俺とシオリが納得したのならそれでいい。


「……それって伊坂っちのこと好きだったら誰でもいいってこと?」


「誰でもってわけじゃないけど……まあ特に他には望まないかな」


「綾城さんじゃなくても可能性があるってこと?」


「へ?可能性?いやいや今そんなのどうでもいいだろ」


「良くないよ!だって私も―――」


「こんなとこにいたんだ。もー探したよ?」


 アンナが何か大事なことを言いかけていたのはなんとなくわかった。だがその言葉は、タイミングが良かったのか悪かったのか、シオリによって阻まれてしまった。

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