放課後の体育館 5
「はい?」
「だーかーら、付き合ったばっかで申し訳ないんだけど、シオリと別れてって言ってんの」
その言葉に後ろの部員全員の意思が乗っているような圧を感じた。
「私はね、シオリのことを本当の妹のように可愛がってるの。だから彼氏が出来たって聞いた時、嬉しい反面認めたくない気持ちもあってね。実際にその彼氏に会ってみて判断しようと思ったんだけど、いざ会ってみたら君とはねぇ……ちょっと頼りないって言うか、正直君をシオリの彼氏として認めるわけにはいかないなぁ」
柳先輩が言っていることはごもっともだ。大半の人が同じように思っているだろうし、俺自身もシオリに相応しいなんて思っていない。ただ、今朝の教室でのことを思い出すと、「わかりました」とこの場で素直に別れる訳にもいかない。少なくともシオリの前で頷けるはずもない。かと言って突っぱねる意思もなく、この状況で俺が言えることなんてなかった。
「いい加減にしてください。コウタ君困ってるじゃないですか」
俺と柳先輩を引き剝がしながら、シオリが割って入る。
「シオリ……違うんだ。シオリの為を思って言ってるんだよ?」
「だったら応援してください。もしこれで嫌われちゃったらどうするんですか。意地悪するトウカ先輩は嫌いです」
「そ、そんな……シオリに嫌われたら……」
「冗談ですよ。でもこれ以上言ったら怒りますからね。私は絶対に別れませんから」
柳先輩とシオリの関係性は思っていたものと違っていた。会話を聞いた印象だと、柳先輩はシオリのことを溺愛しているらしい。
「ごめんね。トウカ先輩も悪気があって言ったわけじゃないの。私のことになるとちょっと過保護というか……とにかく、気にしなくていいから」
「俺は別になんとも」
「ほら、トウカ先輩も」
「うぅ……シオリが言うなら……ごめん」
シオリが介入してから、さっきまでの迫力が嘘のように柳先輩はおとなしく従順だった。その姿はとてもじゃないが先輩、ましてや部長とは思えなかった。あの二人の関係は少々特殊なようだ。
認めてもらったとまではいかないが、シオリのおかげで丸く収まった。気を利かせてくれたのか、シオリは俺の手を引いて帰りを促す。後輩たちの嫉妬の視線を感じながらシオリに続いてこの場を去ろうとすると、すれ違いざまに柳先輩が肩に手をかけてきた。
「そういや君の名前は?」
「伊坂コウタです」
「伊坂コウタね。オッケー伊坂」
耳元に口を近づけ、落ち着いたトーンで柳先輩は言った。
「シオリを悲しませたら……ただじゃおかないから」
トーンとは裏腹に、肩に置いた手には物凄い力が込められていた。
「はい……」
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