帰り道

「ねぇ、私のこと嫌いになってないよね?」


 学校を出たところで、シオリが不安そうに顔を覗き込んでくる。


「なってないけど……どうした?」


「だってさっき嫌な思いさせちゃったから……嫌われちゃったらどうしようって」


「嫌な思いなんてしてないから大丈夫だよ。それだけシオリのことをみんなが大切に想ってるってことだろ?」


「よかったぁ。やっぱりコウタ君は優しいね。そういえば最後トウカ先輩に何か言われてなかった?」


「あー…あれは……シオリをよろしくって」


 間違ってはいない。


「フフ……よろしくってなんか照れるね」


 二人で帰るなんて今まで何回もあったが、急にむずがゆくなる。変に意識しすぎているのか、歩幅の合わせ方すらぎこちない。

 たまに目が合うと、シオリは微笑んでくれる。今から俺がしようとしている話を考えると、ドキッではなくチクッと胸に刺さる。

 タイミングを見計らっていたら帰り道の半分ほど過ぎてしまった。電車を降り、再び歩き始める頃、ゴホンっと咳を置いてようやく話始める。


「今朝のことなんだけどさ……俺、一つ謝らないといけないことがあるんだ」


「ん?なんのこと?」


「あの時『告白が伝わったのかどうかわからなかった』って言ったと思うんだけど、本当は告白なんてしてないんだ。そんなつもりもなくて、そもそもそんな会話した覚えもなくて……もしかしたら俺が誤解させるようなこと言っちゃったのかもしれないけど……それすらもわかんなくて……だからシオリと付き合ってるなんて思ってなかったんだ」


 何かを察したのか、シオリの顔から笑顔が消えた。これ以上蒸し返さないほうがいいのは明白だったが、この機を逃すと後々心残りになってしまう。


「だからごめん。教室でみんなの前で告白したことなんだけど……一旦忘れてほしい。その前に二人でちゃんと話したいんだ。一昨日のこと、これからのこと」


 今朝のことを含めて、シオリに呆れられても文句は言えないかった。そこまで俺に好意があるとも思っていなかった。嫌われることも覚悟した。でもシオリは何も言わずうつむいて、しばらくしてから今度は空を見上げて言った。


「今日も月が綺麗ね」

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