部活終わり

 もう一人、事情を話さなければならない人がいる。

 俺は部活が終わってから穂野村チサキを呼び出した。

 俺と綾城が付き合った日、正確には噂が流れた日から、チサキは俺に必要以上に話しかけてこなくなった。部内では「仲が悪くなったのか?」と心配されたが、そういう訳ではない。ただ待っているのだろう。「その内話す」という俺の言葉を信じて、催促することなく、俺から声をかけてくるのを。会話は少なくなっても頻繁に目が合っていたのがその証拠だ。


「ようやく話す気になったのね。でもその前になんで綾城さんもいるのかな?」


「当たり前だよ。コウタ君の彼女だもん」


 部活終わり、俺を待っていたシオリは、当然のようにチサキとの待ち合わせ場所までついてきた。


『この後ちょっと約束があるからシオリは先帰っていいんだぞ?』


『え?なんで?私も行くよ』


 屈託ない表情のシオリに言われたら俺もすんなりと受け入れてしまった。もちろん約束の詳細はシオリにも話していて、その辺の区別はついている……はずだ。


「ていうかもうちょっと離れたほうがいいんじゃない?それだとコウタが話しにくいと思うんだけど」


「やだ」


 チサキを前にしたシオリの態度は、先日アンナと話していた時と似ている。杞憂だとは思うが、今回は最初からひりついた空気を纏って、まるで自分のものと言わんばかりにギュッと腕を絡ませてくる。勝手な解釈かもしれないが、それが少し嬉しかったりした。とはいえこのままでは会話がスムーズに進まないので、俺が間に入ってできるだけ摩擦が起きないようにする。


「確かにくっついてると話が入ってこないかもしれないな。シオリ、ちょっと緩めようか」


 シオリは不服そうな顔をしたが、「終わった後ならいくらでもしていいから」と囁くとすんなり聞き入れてくれた。


「で、肝心の話っていうのは?」


「この前の話の続きだよ。その後のことも含めて聞いてほしい」


 アンナとの一件があってから、シオリと付き合うことになったのは流れではなく自分で選んだという意識が強くなった。だからチサキに事の経緯を説明する時、今回はそれに自分の気持ちも少し加えながら話した。


「―――という訳で、改めて俺とシオリは付き合ってるんだ。前に話した時は自分でも整理できてなくて……遅くなって悪かったな」


 今度は俺の説明を最初から聞いていたシオリ。納得いくものだったのか機嫌は良さそうだ。


「へ、へぇー…そ、そうなんだー…。ま、まあ?あんたのことなんてどうでもいいんだけどね?」


「まあそう言うなよ。事情を知ってるお前には話しておきたかったんだよ。てわけで俺からの話は以上だ。悪かったな、急に呼び出して。今日はもう遅いし帰ろう。お疲れ―――」


「待ちなさいよ!何勝手に終わらそうとしてんのよ!」


 今日は何事もなく終わったな、と思った矢先、鋭い目つきをしたチサキに引き留められる。

 あれ?さっきどうでもいいって言わなかったっけ?

 どうやらまだ帰れそうにないようだ。

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