休み時間の教室
授業の合間の休み時間、綾城の周りには人が集まってくる。
綾城シオリは人気者だ。品行方正、成績優秀、所属している女子バスケ部ではエースと呼ばれるほど運動神経も良く、なにより人柄が良い。生徒はもちろん教師からの信頼も厚い。それだけではなく、綾城シオリはとにかく美人だ。艶やかな黒髪ショートは端正な顔立ちを引き立たせ、すらっと伸びた手足はまるでモデルの様だ。ショートヘアになったのは最近の話で、以前まではロングヘアだった。ばっさり短くなって学校へ来た時は学校中が騒然としていたが、結局美人は長くても短くても似合うということで、今ではすっかり馴染んでいる。容姿においても男女両方から支持を集め、まさに非の打ち所がない存在となっている。
「なーに見てんの伊坂っち?」
俺の背中をつんつんとこついて話しかけてきたのは後ろの席の
「いや別に。ただ相変わらず人が集まってんなーって」
「あー綾城さん?ま、そりゃそうでしょ。そういや伊坂っちも綾城さんと仲良いんでしょ?その割には教室で話してるとこ見ないね?」
「そうだなー…言われてみれば教室ではあんまり喋らないな。まあ、さすがにあれ見てると俺があそこに混ざるのも変だろ」
そう言った俺の視線の先には綾城とそれを囲むクラスメイト達がいた。
「確かにあそこに伊坂っちがいたら笑っちゃうかも」
「自分で言っといてなんだが余計なお世話だ。でも帰る方向が同じだからタイミングが合えば一緒に帰るくらいには仲が良いよ。そん時は結構話すし」
学校一人気者の綾城と、対照的とまではいかないが平凡な俺は意外にも仲が良い。
俺と綾城は同じ中学出身だ。中学の時から割と話す方ではあったが、高校に入ったのを機により仲が深まった。同じ中学出身ということで帰る方向も必然的に近く、部活終わりに度々一緒になることがあった。最初は挨拶程度だったが、回数を重ねるごとに自然と会話は増えていった。
二年になり同じクラスになったが、教室での会話は少ないので俺と綾城が仲が良いと知っている人は少ないだろう。俺としてもそのほうが過ごしやすいと思っているので、必要以上に話しかけることはしなかった。
「てかてかそんなことより、さっきの授業のノート見せてくんない?」
「お前また寝てたのかよ」
「私は悪くない。眠気を誘う窓際の席が悪いのだよ」
「言い訳するな。ったく……ほらよ。言っとくけどノート見せるのこれで最後だからな」
最後と言いつつこのセリフは何回目なんだ。
「ありがとー!さっすが伊坂っち!愛してるー!」
「アンナの『愛してる』ほど安いもんはないな」
アンナと席が前後になってから、このように頼られたりちょっかいを出されたりと何かと絡まれるようになった。面倒くさいと思うこともあるけど、俺はこんな日々が気に入っていた。
綾城やその周りの人たちみたいに輝かしくはないけど、そこそこ友達もでき、それなりに運動や勉強をこなす、そんな平凡な学校生活に満足していた。
「コウタ君、ちょっといいかな」
これからもこんな生活が続けばいいな、そんな風に思っていた矢先俺に話しかけてきたのは綾城だった。
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