放課後の体育館

 放課後の体育館は部活動によって活気が溢れている。俺が所属するバドミントン部も、今日は体育館の四分の一ほど割り当てられていて、熱気が充満する中で練習に励んでいた。


「ちょっと!どういうこと!」


 練習の合間の休憩中、勢いよく俺に近づいてきたのは同じくバドミントン部に所属している穂野村ほのむらチサキだった。

 俺たちバドミントン部は人数や練習スペースの都合上、男女合同で練習している。厳密には男子女子と別れているが、実質同じ部として扱われている。なので男子の俺も女子のチサキも同じように練習している。

 チサキは同学年で、その中でも特に一緒に過ごす時間が多い。といっても顔を合わせると何かと張り合うことが多く、大体はいがみ合って言い争いに発展するような仲だ。周りの人はその光景を「また夫婦喧嘩が始まった」なんて言っているが、断じてそういう関係ではない。俺としてもチサキに対しては気を遣うことがなく、仲が良いのは間違いないが、どちらかというと信頼できる友達といったところだ。


「いきなりどうした?」


「あんたが綾城さんと、つ、付き合ってるって噂が流れてきたのよ!ま、まあ?あんたごときが綾城さんと付き合ってるわけがないとは思うけど、一応説明してもらおうと思って」


 まだ時間はそれほど経っていないが、どうやら今朝の騒動は、すでに至る所に広まっているようだ。チサキの他にも何人か聞いてきたし、直接は聞いてこなくても浴びる視線で伝わってくる。学校中に広まるのも時間の問題だ。


「ああ、それね。そのまんまだよ。色々あって、シオリと付き合うことになった」


「はあ?!ちょ、ちょっと待ちなさいよ!意味わかんないんだけど……いつの間にかシオリって呼んでるし……何があったのよ?」


「んー…俺にもよく……まあ詳しいことはいっか。とにかくそういうことだから」


 整理するまでは、他の人に下手なことを言わないほうがいい。


「そんなんじゃ納得できないわよ!」


「チサキが納得しようがしまいが関係ないだろ。てかなんでそんなに喰いついてんだよ?」


「そ、それは……」


 さっきまで威勢の良かったチサキだが、急にしおらしくなった。

 女子とは他人の恋愛沙汰にも興味がある生き物であり、特に仲の良い俺の色恋とあって詳しい話を聞きたいのはわかる。俺も相談しようか迷ったが、いくらチサキでも俺自身が理解していないことを話す自信がなかった。


「だって……あんた前の彼女のこと引きずってたじゃん。浮気されて別れて……『恋愛は当分しない』って言ってたじゃん……『彼女もつくらない』って……だから私は……」


 野次馬とか、茶化すとか、そんな不純な気持ちではないということが伝わってくるほどチサキの眼差しは真剣で、少し悲しげにも感じた。


「そういやチサキは知ってたっけ……心配してくれてんだな」


 忘れていた。チサキには以前、前の彼女との出来事を話していたのだ。

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