部活終わりの体育館

 練習が終わったら軽いストレッチをして、片付けをしてから着替える。これが毎日の部活終わりのルーティンだ。今日もいつものようにその流れをこなす。

 早めに着替え終わった俺は、まだ着替え終わっていない人もいる中で「お疲れ様でした」と声をかけ体育館を去ろうとする。片づけを終えた段階で部全体の終礼は終わっているので、そこから先は自由解散となっている。


「お疲れー。っておいおい、チサキ待ってなくていいのか?」


「いやいや、チサキとは帰る方向違うから待たねーよ」


「でもお前ら二人セットだろ?いつも待ってるじゃん」


「たまにな。あとその『セット』って言うのやめてくれ。寒気がする」


「またまたー。照れるなよ」


「うるさい。電車が来るからもう行くな。お疲れ」


 話し続けると電車に間に合わないし、チサキが戻ってきたら更に長引く。

 スマホで時間を確認し、いかにも時間が迫っているように見せながら体育館を後にした。


「お疲れ様」


「え?綾城?」


 体育館の出入り口で俺に声をかけてきたのは綾城だった。不意の出来事だったので少々驚いてしまった。その反動で体も一瞬びくつく。


「あれ?女バスって俺らより早く終わらなかったっけ?」


 綾城と俺は帰る方向が同じなので、一緒に帰っている。綾城の所属する女子バスケ部と俺の所属するバドミントン部は体育館の割り当ての都合上、どうしても帰る時間がズレることがある。今日に関しても女バスの方が早く切り上げていたはずだ。


「何言ってるの?待つに決まってるでしょ」


 待つのも待たせるのも気を遣わせるということで、俺と綾城は明確に帰る約束をしたことはない。今までも暗黙の了解で帰っていた。それなのに待っていたということは何か理由があるのかもしれない。俺に話したいことがあるとか、外練で同じような時間になったとか。


「早く行こ。電車来ちゃうよ」


 帰り道にそれとなく探ってみたものの、外練をしていたわけでもなく、会話の内容もいつもと同じような内容だった。強いて言うなら先程俺が「綾城」と呼んだことに対して注意され、これから「シオリ」と呼ぶことを約束させられたくらいだ。

 曖昧ではあるが、シオリが待ってた以上、逆の時は俺もこれからは待つべきなのかもしれない。

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