第6話 阿波踊りは地球を救う【序】

 道後温泉の攻防は、何の事は無い家畜の群れが押し寄せてきただけだった。宇宙人が連れて来た大量の家畜ロロンは、特に獰猛という訳ではなく誰にも襲い掛からなかった。


「大変申し訳ありません。ご迷惑をおかけしました。反省してます」


 まるでロボコン(原作:石ノ森章太郎)のようなダサいロボの腹の水槽で、ゆらゆらと揺れながらユウが謝罪した。しかし、ララの怒りは収まらない。足元の石ころをガチっと蹴飛ばす。


「まあまあ、ララ隊長。彼も謝っている事だし、彼の連れてきたロロンは大変美味であるし、ここは穏便に……」


 と言って、何やら山盛りのスイーツを差し出してきたのは温泉組合の組合長であった。それは「いよかんゼリー」と「えひめみかんプリン」と「坊ちゃん団子」が段ボール箱に詰めこまれたものだった。

 

「し……仕方がないな……。今後は防衛軍の手を煩わせるなよ」


 ムスッとして返事をするララだったが、その瞳はスイーツの詰め込まれた段ボールに釘付けだった。


 三式戦車チヌは自衛隊の手で給油が完了していた。


「アズダハー。帰還できそうか」

「テレポートするためには24時間のチャージが必要です。通常走行なら可能。一時間後のフェーリーに乗船できます」

「分かった。その他の状況はどうか」

「隣国のうどん王国が……いえ、彼らがそう名乗っているのですが、瀬戸大橋を封鎖しました。また、海上から越境した実行部隊は、しまなみ海道と鳴門大橋も封鎖しています」

「何を考えてるんだ。物流を止めてしまったら経済が崩壊してしまうぞ」

「うどん王国の中枢部に何が起こっているのかは不明です」

「宇宙人が侵入しているのか」

「確定情報はありませんが、そのように推測します」


 三式戦車のAIアズダハーの模範的な回答だった。

 絶対防衛兵器アルマ・ガルムの椿は、バーベキューを堪能した後に眠ってしまった。保護者の正蔵はというと、伊予のオヤジと酒盛りとカラオケで盛り上がっていた。


「全くこいつらは……アズダハー。チャージを開始しろ。明朝、通常走行で一旦帰還する」

「了解」


 茜色に染まった夕日が山間に沈んでいく。夜の帳が降り始めた頃、自衛官からの悲痛な報告が入る。


「徳島県板野郡松茂町にある徳島飛行場、通称〝徳島阿波おどり空港〟が宇宙人の部隊に占領されました。空港に隣接している海上自衛隊徳島航空基地と陸上自衛隊北徳島分屯地は既に沈黙。阿南市の陸上自衛隊徳島駐屯地の主力部隊は施設及び通信関連であり戦力は圧倒的に不足しております。ララ隊長。萩市立地球防衛軍の支援を要請します」

「異星人の家畜ではないのか?」

「違います。飛行場を襲ったのは、琵琶湖方面で熾烈な砲撃戦をかいくぐった、宇宙人の戦闘用ドローンとの報告が入っております」

「分かった。何とかしよう」


 ララは逡巡する。

 萩市立地球防衛軍の基本装備である超重戦車オイ、およびティルトローター機のATR-003彩雲は使用できない。そして三式戦車は現在チャージ中だ。ララは奥の手、つまり決戦兵器を繰り出すしかないと考えた。


「仕方がない。鋼鉄人形を投入する。アズダハー。黒猫とビアンカを呼べ!」

「了解…………あの……ララ隊長」

「どうした、アズダハー」

コウ少尉黒猫は現在、期限切れ間近の、半額プリンの買い出しに専従されており即時出撃は不可能との事。また、ビアンカ中尉ラメルのアバズレは午後休暇を取得されていて、周南市でのお見合いパーティーに出席されています」


 ララは頭を抱えてしゃがみ込んだ。


「どいつもこいつも使えん! 馬鹿者ばっかりだ!!」

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