第5話 道後温泉攻防戦【後編】

 ゆっくり、ゆっくりと進入してくる異形の生物兵器。濃い緑色の戦闘服に身を包んだララが、その前に立ちはだかる。ララはヘルメットを脱いで放り投げた。


「はあ!」


 神速の踏み込みから繰り出されたララの正拳は、生物兵器の胸元を穿った。そして、更に一歩踏み込み回し蹴りを繰り出す。ララに蹴られた個体は数体の生物兵器を巻き込みながら飛ばされた。

 素早い動きと重い打撃の前に、生物兵器は一体、また一体と倒されていく。しかし、数が多い。


「ララ隊長。お手伝いいたちましょうか?」

「大丈夫です。椿様は周囲の警戒をお願いします」

「わかりまちた。おや? 生物兵器の中に、ロボットが一体紛れ込んでいます。ララ様の正面、距離は150メートルです」

「あれか」


 椿が報告して来たとおり、一体のロボットがいた。ララは軽く助走した後にジャンプし、その150メートルを一気に飛び越えた。

 そのロボットは身長が1メートル半でララよりも少し背が高い程度だったが、お世辞にもカッコいいとは形容できないスタイルをしていた。まるでダルマのような丸い金属製のボディから、軟体動物のようなぐにゃぐにゃした腕が二本生えていたし、脚は無く四つの車輪で移動するようになっていた。そして胴体の中央部は水槽となっており、その中にはバレーボール程度のタコ? のような生物がゆらゆらと泳いでいた。


「見つかっちゃいました」


 ロボットがしゃべった。中にいたタコが手足? をばたつかせ、逃げようともがいているのだが、ロボットは動かない。


「私は萩市立地球防衛軍隊長のララ・バーンスタインだ。貴様が侵略者だな」


 ロボットの中のタコは真っ赤になって泡を吹いていた。そしてその手足……と言っても、タコそっくりの脚が六本あるだけだが……をビリビリと痙攣させていた。


「あの……ボクはタコですけど、侵略者じゃないです」

「では、何をしに来たんだ」

「家畜の肉質改善の為、地球の温泉が良く効くと教えていただいたのです。ゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人さんに」

「あの疫病神め……で、お前の名は?」

「ボクはプレセぺ星団に属するラフウィ星から来ました。名前はユウといいます」

「ラウフィ星人のユウだな。この化け物が貴様の家畜なのか?」

「はいそうです。これ、私たち海の生物にとっては天敵なんですけど、陸の生物は襲わないんです。ああ、これの名はロロンです」

「天敵を家畜にしているのか?」

「ええ。何と言っても味が良いのです。肉質は、肩と腕がズワイガニ。胸がニワトリ、腹から脚が猪といった感じで、各星で大人気なのです。私はこのロロンを地球に持ち込んで、一発当ててやろうかと……」


 ムスッとしたララが、腹部にユウが泳いでいるロボを蹴飛ばした。ロボは簡単にひっくり返った。


「ああああ。助けてください。これ、転んだら起き上がるの大変だんです」

「知るか。馬鹿者!」


 ララはぷんすかと怒り狂っている。


 その後、ユウが謝罪の意味を込めて提供したロロンの肉で、道後温泉周辺ではバーベキューや鍋パーティーが数十カ所で開催され、飲めや歌えの大騒ぎとなった。その極上の肉質は人々に絶賛されたという。


 ……さて、愛媛の隣のうどん王国では、四国が日本から独立したとの情報が発せられていたのだが、ここ道後温泉においてはそんな情報を知る者は誰もいなかった。のんびりとしたマイペースな県民性が如実に表れた一件であった。

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