第4話 道後温泉攻防戦【中編】

 突如、道後温泉の真ん中に姿を現した三式戦車チヌ。

 萩市立地球防衛軍のこの車両は認知度が高く、一般市民にも知れ渡っていた。異形の生命体に包囲されて、恐怖にさいなまれていた道後温泉の人々は歓喜に沸いた。


「ララちゃんが来てくれた。これで助かった」

「ララちゃん頑張れ!」

「大好きララちゃん♡」


 戦車の砲塔から上半身を覗かせていたララは、その声援に応えつつ、やや引きつった笑顔で手を振る。この声援のほとんどがオヤジの野太い声だった為、ララは引き気味だった。「伊予のオヤジは皆ロリコンだったのかのか……」とララは小声でつぶやいた。


 散発的な拳銃の銃声が響く。警官の持つ38口径では、あの生物兵器の表層、甲殻類のような外骨格を貫けなかった。


「椿様。起きていますか?」

「はい。椿はおきてまちゅ」

「主砲をフォトンレーザーモードで発射準備してください」

「あの? ララ隊長。これは秘匿兵装なのでちゅが?」

「構いません。実弾兵器を使用した場合、付近の温泉施設、旅館、住居に被害が発生する可能性があります」

「了解しまちた。主砲、実弾モードからフォトンレーザーモードへ変更。発射準備完了しまちた」

「任意に射撃を開始してください」

「了解しまちた」


 まだ肉体が三歳児のままの椿は、外見通りまだまだ舌足らずである。、その椿に対して、日ごろ傲慢な態度を取っているララが敬語を使っている様はなかなか滑稽である。


 三式戦車の主砲が旋回し、道後温泉へと進入してきた異形の生物に対してフォトンレーザーを発射した。その、オレンジ色の光芒はあの外骨格を容易く貫き、そして激しく発火した。


 数回、ビームを発射した時点で三式戦車のエンジンが停止した。


「アズダハー。どうした」


 ララの問いにAIのアズダハーが返事をした。


「ガス欠です。非常用バッテリーへの切り替えが完了しました。通信機能は維持できますが、移動は出来ません。ビーム兵器、および実弾兵装は使えません。使用できるのは砲塔上部の7.7ミリ機銃のみです」

「わかった。後は私が何とかする」


 ララは砲塔上部のハッチを開き、ぴょこんと砲塔の上にジャンプした。

 彼女の眼前には数十の屍が燃えていたが、まだまだ多数の生物兵器が道後温泉に侵入しようと蠢いていた。


 ララはにやりと笑って三式戦車の前面へ飛び降りた。

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