第3話 道後温泉攻防戦【前編】

 三式戦車チヌは轟音を響かせながら山中をひた走る。しかし何故か、他の車両は道を譲っていく。まるで、救急車などの緊急車両が走り抜けていくときのように。

 時には白バイが、また、パトカーが先導した。砲塔のハッチから上半身を覗かせているララが敬礼をすると、警察官もまた、頬を赤らめながら敬礼を返す。そう、この三式戦車チヌは地球防衛軍(萩市立)の装備である事が広く認知されていた。またララ隊長は、そのあどけない容姿とガンダム以上の戦闘力が崇拝の対象となっており、もはや日本一のアイドルと言っても差し支えない人気者になっていた。

 一方、チヌの操縦席では……正蔵はうとうとと昼寝をしていた。そして砲手席では、見た目三歳児の絶対防衛兵器アルマ・ガルムの椿が、こちらも気持ちよさそうに眠っていた。

 チヌは美祢インターから中国道へと乗り入れ、九州を目指す。関門橋まで後三十分といった距離である。


 そこで車内に緊急アラーム警報が鳴る。そしてチヌのAI、アズダハーが報告を始めた。


「只今、緊急支援要請を受け取りました。愛媛県の道後温泉からです。地球防衛軍に救援を求めています」

「道後温泉だと?」

「はい。道後温泉からです。宇宙人の先兵と思しき異形の生物に包囲されているそうです」

「数は?」

「数百体です。身長は2~3メートル。頭部は猪、腕と足はカニのような外骨格を持ち胴体は羽毛に覆われているそうです」

「何だそれは? 想像がつかん」

「銀河系生物図鑑のデータに登録はありません」

「生物兵器か」

「そのように推測します」

「進路変更せよ。行先は道後温泉だ」

「ララ隊長。この位置からだと柳井港からフェリーに乗船するのが最短ルートとなります。しかし、推定所要時間が約三時間となります」

「しまなみ海道はどうか?」

「更に遠回りとなります。約四時間」

「時間がかかりすぎる。仕方がない。瞬間移動テレポートを使用する」

「隊長。本機で瞬間移動テレポートを使用した場合、燃料を使い切ってしまいます。到着後の稼働時間は殆どありません」

「構わん。後は私が何とかする。飛べ、アズダハー」

「了解」


 ガラガラと低音域で響いていたエンジン音が、キュイーンとひときわ甲高い回転音へと変化した。マフラーからもうもうと黒煙を噴き出したチヌは、虹色の光に包まれ高速道路上からその姿を消した。そして、道後温泉のど真ん中〝道後温泉本館〟にその雄姿を現していた。

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