第8話 阿波踊りは地球を救う【急】

 ララの奮闘により、次々と〝電気クラゲ〟は倒されていく。しかし、徳島阿波おどり空港のある松茂町は概ねひし形をしており、東を紀伊水道、北と南を河川、旧吉野川と今切川に挟まれている地形となっている。ほぼ四方を水に囲まれている事から、水棲の攻撃兵器にとって有利であった。援軍は水中から続々と上陸してくるし、一旦倒された個体も、援軍から水分の補給を受け復活していく。

 そして、ララが斬り込んでから一時間が経過した頃、彼女の持つビーム剣のエネルギーが尽きた。光の刀身が消え唐突に周囲が暗くなる。


「ララ隊長! 後退してください!」


 火炎放射器を構えた小隊がララの援護に向かう。六名の隊員がララを背に火炎放射器を構えた。電気クラゲはゆっくりと彼らを包囲する。

 六本の火炎放射器が一斉に火を噴いた。その猛烈な火炎を受けたクラゲはしぼんでいく。しかし、致命傷は与えられない。


「我々が突破口を開きます。ララ隊長はそこから後退してください」


 火炎放射器を操りながら隊員が叫ぶ。しかし、ララは落ち着いていた。


「逃げる必要はない。攻撃を中止しろ。アレが来た」

「アレ……とは?」


 ララは南側、即ち徳島市方面を指さしていた。遠くからお囃子が聞こえてくる……。


 アーラ エライヤッチャエライヤッチャ ヨイヨイヨイヨイ

 踊る阿呆に見る阿呆 同じ阿保なら踊らにゃそんそん

 新橋町まで行かんか 来い来い

 アーラ エライヤッチャエライヤッチャ ヨイヨイヨイヨイ


 和装で笠を被った女子おなご衆。

 また、和装でねじり鉢巻きの男衆。

 何処の連だかわからないが、熱気満々の集団が、数百名の集団が踊りながら近づいてきている。


 アーラ エライヤッチャエライヤッチャ ヨイヨイヨイヨイ

 大谷通れば石ばかり 笹山通れば笹ばかり

 猪豆喰うて ホーイホイホイ

 アーラ エライヤッチャエライヤッチャ ヨイヨイヨイヨイ


 まだ四月。肌寒い夜だがその熱気は周囲に伝染していった。

 避難していた住民。

 警戒に当たっていた警察官や消防隊員。

 そして自衛官までもが、その集団に加わっていく。


 そして、あろうことか、あの〝電気クラゲ〟もヒョロヒョロと踊りはじめたのだ。しかも性別があるのか、男踊りの一団と女踊りの一団に分かれ、周囲を練り歩き始めたのだ。


 華麗なステップで舞う女踊り。大股で豪快に練り歩く男踊り。

 各々が舞い歩く様は自由で光り輝いていた。


 ララの周囲にいた隊員たちも、武器を置き踊り始めた。


 老若男女。

 職業。

 そして所属する星。


 そんな区別も何もない自由な空間がそこにあった。


 上陸している全ての電気クラゲが阿波踊りを踊っている事を確認したララは、自衛隊の陣地へと戻った。

 そこでは、先ほどララと話をした指揮官が一人で起立していた。


「踊らないのか?」

「じ、自分はこの現場を見届ける義務があります」

「そんな義務は放っておけ。誰も咎めんぞ」

「そ、それでも自分はこの場の指揮官として踊るわけにはいきません」

「なるほど」

「と、ところでララ隊長は、こうなる事を見越しておられたのですか」

「まあな。阿波踊りは魔性の踊りだ。アレを目の当たりにすると、誰でも一緒になって踊りたくなる。人間も宇宙人も、ドローンも同じだな」

「確かに」

「私の姉が、魔法を使って少しおせっかいをしたようだが……」

「ララ隊長のお姉さまですか?」

「ああ。地球防衛軍の、裏の総司令だ」

「萩市長はお飾り。他に司令官がいらっしゃったのですね」

「そういう事だ」

 

 その時、爆音を響かせながら朱色のティルトローター機が接近してきた。地球防衛軍のATR-003彩雲だった。


「黒猫か。阿波踊りの邪魔はするな。距離を取って着陸しろ」

「了解」

「ところで首尾はどうだ」

「もちろん、大量ゲットできました」

「放置しても良かったのだがな。まあよくやった」


 これは、期限切れ間近の半額プリン買い占めに関する機密だ。知れ渡ると不味い情報である。


 彩雲は、人型機動兵器ヘリオスへと変形した。フォトンレーザー砲を装備したこの機体は、電気クラゲの天敵ともいえる兵器だったのだが、今回は出番がなかった。

 

 その後、徳島に上陸した宇宙人の放った戦闘用人型ドローン、通称電気クラゲは、阿波おどりの普及および技術向上の為、阿波おどり実行委員会に所属して活動する事になった。


 四国独立を掲げて立ち上がったうどん王国に対し、愛媛はマイペースで無視し、徳島は阿波おどりで盛り上がって無視する形となった。

 尚、高知県に関する情報はようとして知れなかった。

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