第9話 桂浜の決戦——巨大怪獣を撃破せよ! その①

 ここは徳島阿波おどり空港。

 昨夜の争乱の後片付けが行われている。自衛官や警察官に混じって、例の〝電気クラゲ〟も作業をしていた。


「根は素直なのだな」

「はい。宇宙人からのコマンド通信システムを阿波おどりが破壊してしまったようです。彼らは生体パーツを多用したロボット兵器であるとの認識です」

「機械部品は使用していないのか?」

「ええ、使用していません。そして体内には生体を利用した集積回路や蓄電池などが認められます」

「生体パーツを使用したロボットか……」


 空港を見つめながら話しているのは、ララと頭髪が寂しくなった白衣の男だった。彼は国立総合技術研究所の歌舞坂と名乗った。あの、ピンク色のアレを開発した人物だ。


「ところでララ隊長。私は隊長専用のTOVIC専用身体機能強化スーツを作成せよとの命を受け、ここに参ったの……」

「不要だ」


 ララは歌舞坂をじろりと睨む。しかし、彼は再びララに話しかけた。


「色は選択可能です。バストサイズは7段階UPしますので……Fサイズまで……」

「黙れ! 貴様の心臓を握り潰すぞ。それとも、その薄い髪を全て引き抜くか!」

「ひえ!」


 ララの剣幕に歌舞坂がたじろいだ。その時、自衛官から緊急の報告が入った。


「ララ隊長。海自のP3Cが、高知市沖の太平洋上に未確認物体を発見しました」

「UFOか?」

「いえ。海面下数メートルを巨大な何かが北上しています。全長は120メートル程度。速度はおよそ75ノット(時速140キロメートル)です」

「速いな」

「はい。この速度で移動できる潜水艦は存在しません。また魚雷などの攻撃兵器も最大で55ノット程度です」

「なるほど。原潜なみの大きさで、ありえない速度で移動している……」

「はい。そして、高知市を目指して北上中。このままですと、桂浜に上陸する可能性が高いと思われます」

「上陸だと?」

「はい。その未確認物体の形状が、まるでワニかトカゲのようなので、最終的には上陸すると思われます」

「まるでゴ〇ラだな。上陸時間は?」

「3時間後」

「分かった。黒猫、高知へ飛ぶぞ」


 ララのすぐ後ろに控えていたコウ・エクリプス少尉黒猫が頷いた。


「了解。正蔵と椿様はいかがいたしましょうか?」

「予定通り本部へ帰還させよ。ハイペリオンは三人いなくては動かせないからな」

「了解しました」


 朱色のティルトローター機、彩雲のエンジンが始動しローターが回転を始める。コウ少尉が操縦席に座り、ララと歌舞坂は機体中央の扉より乗り込んで席に座った。


 そして再び、ララが歌舞坂を睨んだ。


「貴様を呼んだ覚えはないのだが」

「あははは。私も技術者の端くれですから。高知に迫りくる怪獣に、私が制作したTOVIC専用身体機能強化スーツが通用するのかどうか見極めたいのです」

「私が何とかするから、あの、ピンク色のアレは不要だ」

「分かりました。ただし、実戦参加はともかく、ララ隊長の戦闘は見届けたい」

「好きにしろ。死んでも文句は言うなよ」

「もちろんです」


 ローターを上方に向けた彩雲は、ゆっくりと離陸していく。ある程度高度を取った段階でローターが前方へ向き、機体は水平飛行を始めた。

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