第7話 阿波踊りは地球を救う【破】

 途方に暮れているララに対し、自衛官が提案した。


「差し出がましいようですが、ララ隊長を我々のヘリで現場までお送りいたしましょうか? そして、防衛軍の人員と装備に関しましては、自衛隊が現場まで移送するという事で如何でしょうか?」


 ララは腕組みをしてしばし思考する。


「願ってもない申し出だが、その必要はない。防衛軍には招集をかけたので、明朝には到着する。私は『加速装置』を使って現場まで走る。その方がヘリで飛ぶより速い」

「加速装置?」

「いや、聞かなかったことにしてくれ。そして、徳島にはあの秘密兵器があるではないか」

「秘密兵器? 徳島にも、萩のような防衛機関が存在しているのでしょうか?」

「そうではないが……徳島県人でないと理解できんか」


 要領を得ない自衛官は首を傾げていた。


「まあいい。私は行くぞ」

「はっ! 経路は、ここより南4㎞の松山ICより高速道路を東進。170㎞先の徳島ICより北東3㎞が現場であります」

「分かった。5分で到着すると伝えよ」

「は?」


 再びララの言葉に首を傾げる自衛官であった。通常、自動車での移動であれば、少なくとも3時間を要する行程だからだ。


「じゃあな」


 ビシッと敬礼したララは、残像を残してその姿を消した。その場にいた自衛官は仰天し腰を抜かしていた。


 ララは走る。

 時には肉体を高次元化し、ほぼ瞬間的に数キロメートルを跳躍する。高速道路上で着地し、アスファルトを剥がしてまた跳躍する。無数の、黄金に輝く残像が四国を横断した。そしてきっかり五分後、ララは徳島阿波おどり空港付近に設けられた陸上自衛隊の陣地に到着していた。


「待たせたな」

 

 唐突に現れたララの姿に驚きつつも、現場の指揮官らしき自衛官がララに敬礼する。ララも敬礼を返した。


「地球防衛軍の支援に感謝いたします」

「状況は?」

「思わしくありません。空港を占領しているのは、宇宙人の先兵と思しき戦闘用人型ドローンです。我々はそれを、〝電気クラゲ〟と呼称しております。水分含有量が多い軟体であり、随時放電して電子機器を破壊し、また、人員を感電死させております。この電気クラゲは我々が保有している小火器ではダメージを与えられません。現在、突貫で作成した火炎放射器にて応戦中です。重火器の支援に関しましては、陸路はうどん王国の妨害により期待できません。現在、護衛艦による艦砲射撃の実施を検討しております。また、豊後水道上の空母〝いづも〟よりF35Bの支援爆撃を要請しておりますが、対地攻撃用の装備を米軍から調達するのに時間を要しております」

「自衛隊はナパーム弾も気化爆弾も装備してなかったな」

「はっ。対艦ミサイルの攻撃では、空港設備に対する被害の方が甚大であるとの見解でありまして、現状、見合わせております」

「うむ」


 腕組みをしながらマップを睨むララ。そこには、徳島阿波おどり空港を中心とした松茂町のほぼ全域が、宇宙人の戦闘用人型ドローン、通称電気クラゲに占領されている様子が表示されていた。ララたちがいる陣地は、松茂町の西隣にあたる北島町との町境だった。


「軟体とは厄介だな。私の格闘術ではダメージが与えられない」

「残念です。そして、この電気クラゲに対して有効な最終兵器ともいえる……ピンク色のアレですが」

「ピンク色のアレね」

「現在、琵琶湖方面、および、若狭湾方面での防衛に従事しており、こちら迄は手が回らないとの報告を受けております」

「そうだろうな。しかし、あんな装備を考えたのは誰なんだ?」

「さあ……噂によると、どこぞの頭髪が寂しい男のようです。そして、それをけしかけたのは、ロリコンではないかと……」

「……ロリコンという人種はロクでもない奴ばかりだな」


 自衛官は返答に困っていた。


「まあいい。私が突っ込んで何とかする。私を抜いた個体に攻撃を集中させろ」

「了解しました。しかしララ隊長。装備はどうされるのですか? いくら隊長がお強いとはいえ、素手では……」


 自衛官が心配するものの、ララは腰に吊るしていた金属製の筒を握りしめた。その筒からは激しく発光するビームの剣が伸びる。


「任せておけ」


 そう言ってから、ララは電気クラゲの中へと飛び込んでいく。そして、竜巻のようにそのビーム剣を振り回す。ビーム剣に切り裂かれた電気クラゲは、激しく蒸気を吹き出しながらしぼんでいった。瞬く間に、空港西側にいた電気クラゲ、即ち宇宙人の放った戦闘用人型ドローンは駆逐されていった。

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