第12話 桂浜の決戦——巨大怪獣を撃破せよ! その④

「痛いです……」


 数十秒後、やっと声を出せた歌舞坂のか弱い訴え。しかし、当然ララはそれを無視する。


「私の前で巨乳とか胸元が揺れるとか、そんな話は二度とするな。次は命がないと思え」

「はい……」


 彩雲機内でそんなやり取りがあった頃、湯薄は次々と様々なマッスルポーズを決め、例の未確認物体への攻撃を続けていた。しかし、湯薄から放たれたエネルギーはそのほとんどが海水に吸収されていた。


「目標はさらに増速。現在125ノット(時速230km)です」

「キチガイじみた速度だ。水の抵抗を無効化する特殊なフィールドを展開しているな」

「それが湯薄の攻撃も阻止していると?」

「それ以外に考えられん」

「なるほど……まるでAT〇ィールド絶対恐怖領域だ……」


 歌舞坂が腕組みをして俯く。そのポーズは頭頂部の薄毛が目立つ。しかし、それよりもA〇フィールドの方が著作権的に不味いのではないかと。ララはそう思ったのだが、敢えて指摘しなかった。


「黒猫。予想上陸地点にて迎撃する。歌舞坂。湯薄にもそう伝えよ」

「了解」

「わかりました」


 彩雲は機体をロールさせ、大きな弧を描いて旋回する。歌舞坂はスマホを取り出し湯薄に連絡していた。湯薄は胸筋をピクピクと痙攣させて笑顔で頷いた。

 その時、未確認物体が突如空中へとジャンプし、その大口を開いた。そしてあろうことか黄金色の全身タイツをまとった湯薄ゆうすけいが飲み込まれてしまう。


「不味い」


 ララが咄嗟に呟く。


「湯薄は大丈夫なのか?」

「恐らく。あのスーツは無酸素状態でも数十分は持ちこたえられます」

「そうか」


 暗緑色の未確認物体は恐竜のような形状、ディノニクスを巨大化したような姿だった。あろうことか、その100メートルはある巨体がそのまま空中を飛行していた。


「フォルカス! チャンスだ。ヤツの構造を解析せよ。湯薄を救出する」

「了解しました」


 フォルカスとはこの彩雲のAIの名である。


「解析中……終了まで後10秒……9……8……7……」


 ララの眼前に設置されている小型のモニターに未確認物体の透視図が表示されていく。

 外観は生物。巨大な恐竜そのものであったが、その中身は全く異質なものだった。


「2……1……解析完了。主動力は縮退反応炉です。生体ではありません。まるで宇宙船……戦闘艦をロボットに変形させたような構成です」

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