第12話 どうしてなんだ?
彼らがそうして話している間、〈キャロル〉はじっと黙って彼女のマスターを見ていた。
これが正しい――少なくともごく一般的なリンツェロイドの態度である。トークレベル3ならば話に相槌を打つが、「マスター」の指示があってからだ。
レベル4から5で、初めて会話に参加する。だがそれも通常は、「マスター」の許可を得てからである。
ぺちゃくちゃとお喋りをし、口喧嘩をし、あまつさえ失言をしかけるリンツェロイドなど、普通は、いない。
しゅん、と静かにオートドアが開いた。
彼らは話をやめ、そちらを向いた。
「マスター」
「ああ、アカシ。いたのか」
店主はまず、青年に目をとめた。
「すまないが〈サクラ〉のデータを早めにまとめてくれないか。彼女のマスターが知りたがってるんでね」
「判りました」
うなずくとアカシはそのまま応接室を出る。
「人使い、荒いんだな」
ステファンは目をしばたたく。
「俺のせいもあるけどさ。飯も食ってないんじゃないのか、アカシ」
「それはいけない」
店主は穏やかに言った。
「トール。あとで何か差し入れてやって」
「はあ」
困ったようにトールは苦笑した。
「ミスタ・ステファン・スタンリーですね。いくら順序が前後するようですが、ようこそ、〈クレイフィザ〉へ。私がここの責任者です」
店主は改めて名乗った。
「リンツ」
ステファンはにやりとした。
「『リンツェ』じゃないのか」
「まさか」
店主は手を振った。
「この道に進むきっかけではありましたけれどね。響きの似た姓だというので、子供の頃からリンツェロイドに興味を持ちました」
「へえ」
成程ね、とステファンはうなずいた。
「そう言や俺も、最初に『ステッパー』って聞いたときは、俺が呼ばれたのかと思って振り向いたりしたっけ」
似たようなもんかな、とステファンは笑った。そうかもしれませんねと店主も笑んだ。
「そちらが〈キャロル〉ですか」
「初めまして、マスター・リンツ。本日はお世話になりました」
「これはこれは、ご丁寧だ」
店主は笑んで、〈キャロル〉に近寄った。
「トークレベルは4かな?」
「3になります」
「ほう?」
「3設定でできるだけ、4に近くしてもらったんだ」
ステファンは店主にも話した。
「そう言えば、訊きたいんだけど」
「何でしょう」
彼は〈キャロル〉の観察を中断して、客に向いた。
「あんた、トーキングロイドを作らないな。どうしてなんだ?」
ついにステファンは、店主当人にその質問をぶつけた。
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