クレイフィザ・スタイル ―キャロル―

一枝 唯

第1話 メンテナンスの時期

 メンテナンスの時期が、近づいていた。


 彼女の「マスター」は考えていた。いつもの工房にいつものように頼むか、それとも違う工房を探すか。


 いつもの工房〈ミルキーウェイ〉には各種データも揃っており、これまではそこに託すことに疑念を覚えなかった。だが、彼の最も信頼する技術者が他工房に引き抜かれてしまったのだ。


 よって、彼の選択肢は三つあった。〈ミルキーウェイ〉か、技術者の行った遠い工房か、それとも近所にある、試したことのない工房か。


「……〈キャロル〉」


 彼は、彼のリンツェロイドを呼んだ。


 その見た目は、二十歳過ぎほどの女性だ。肩にかかる長さのブラウンヘアは、きれいに波立っている。薄青い瞳は、彼女を呼んだ「マスター」をじっと見つめた。


「どこがいい?」


「私は、マスターの指示通りにいたします」


「そりゃ、そうだよな」


 彼は笑った。


「よし。ものは試しだ。あれにしてみよう。確か、けっこう近場にあったはずだ」


 〈キャロル〉のマスターは指を弾いた。


「ブロウと〈リズ〉が世話になってる……何て言ったっけ?」


「――〈クレイフィザ〉です、マスター」


 データを検索するわずかな間ののちに、〈キャロル〉は答えた。


「そうそう、それそれ」


 ステファンはにやっと笑って端末を操作すると、工房〈クレイフィザ〉の公開情報を探した。


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