第2話 最新型のアンドロイド

 最新型のアンドロイド、LJ-5th。


 リンツェ博士の提唱した理論に改良が重ねられ、「リンツェ博士のアンドロイド」、いまで言う「リンツェロイド」の第一号が作られたのは半世紀以上前のことだ。


 時代はやがて、高級ブランド「リンツェロイド」と普及型「ニューエイジロイド」の二大ロイド時代に突入し、さまざまなタイプの通称「ロイド」が作られた。


 改良が進み、細分化が進んだいま、二大ロイドの牙城はまだまだ崩れそうにないものの、「ロイド・クリエイター」または「ロイド・マスター」と呼ばれる個人工房主が自主ブランドを開発するなど、業界の動きは活発だ。


 もっとも、名もないクリエイターが自分の姓を冠してロイドを販売しても、それはノーブランドとして扱われる。名の売れたクリエイターであればある程度はブランド力が認められるが、「リンツェロイドである」ことの方が重要だった。


 たとえ性能や外見に大きな差がなくとも、「リンツェロイド協会に認定されたリンツェロイドであるか否か」というのは、非常に大きな差異なのだ。


 協会を設立したダイレクト社は、リンツェロイドの一般販売に踏み切った先駆者であり、いまでも変わらず、業界の先頭にいた。もっとも、当時もいまもダイレクト社製品は超高級品であり、「一般」の人間が気軽に買えるものではない。


 ダイレクト社はリンツェロイド・ブランドを守った立役者であると同時に、リンツェロイドの行く先を狭くした戦犯であるとも言えた。


 だが、ニューワールド社は低価格ロイドを作った立役者でありながら、価格にこだわって機能を広げることをしない。どちらがよいとも言えなかった。


 それらの間を取るのが、個人工房のクリエイターたちである。


 リンツェロイドとするには協会の認定が必要であり、予算をかけても審査に通らないことが間々あったが、「リンツェロイド並みの性能」と謳うことは可能だ。或いは、ニューエイジロイドと銘打つこともできる。その規定は緩いからだ。


 と言っても、リンツェロイドならば一部大企業か個人工房、ニューエイジロイドならば大量生産品というのが一般的である。


 個人工房が自作ロイドに「ニューエイジ」の冠をつけることは滅多になかったが、「リンツェロイドになれなかったノーブランドよりは、最初からニューエイジロイドを作ることにしていた方がまし」と考えるクリエイターも皆無ではなかった。


 黎明期には意地とプライドでリンツェロイドを作り上げるクリエイターがほとんどだったものの、昨今はいろいろなのだ。


 もっとも、クリエイターの気持ちの問題だけではなく、注文主の財布事情もある。


 クリエイターたちは注文主の希望と予算に耳を傾け、可能ならばリンツェロイド、無理ならばノーブランドロイドを作る。希望の多くはリンツェロイドだが、予算が許さないことも珍しくない。


 ステファン青年の〈キャロル〉は、れっきとしたリンツェロイドである。


 友人のパトリック・ブロウに言わせると彼は高給取りなのだそうだが、誤解もいくらかある。


 確かにステファンはそこそこ稼いでいるし、〈キャロル〉に金をかけている。しかし、それは彼の趣味なのだ。


 たまたま金のかかる趣味を持ってしまい、それに興じているから、金が余っているように見えるのだろう。だが彼としてはほかの遊びを控え、節約をしているつもりだ。


 もっとも、ある程度以上は金がなくては、リンツェロイドを購入などできないのであるが。



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