第13話 善処しております

「カタログをご覧に?」


「ああ。それで思ったんだ。もったいないなって。できないってことはないだろうに」


「こればかりは、お客様次第ですからねえ。高価な機能を押し売りする訳にも」


「希望は4か5だろ、ほとんど。予算が足りないってことはあるだろうけどさ、一度もないってのは変じゃないかと思って」


 再三繰り返したことをまた繰り返し、ステファンはじっと店主を見た。


「もしかして、断ってるのか?」


「まさか」


 店主は否定した。


「お客様に満足していただこうと、いつも善処しておりますよ」


「じゃあどうして」


「アップグレードの依頼はありますよ。たまにですが」


 初めは予算が足りなかったが、あとになってやっぱりトークレベルを上げてほしいという依頼はくるのだと店主は説明した。


「何だ、そうか。あるのか」


 拍子抜けしたように、ステファンは呟いた。


「じゃあ、作るんだ。カタログやアカシたちの反応からだと、いっさい作らないって印象だったのに」


「彼らは何と?」


「『面倒臭いんだろう』『かしましいからだろう』」


 ステファンは簡潔に、技術者たちの意見をまとめた。店主は笑った。


「私から推すことはまずしませんから、そういう印象なのかもしれませんね」


「あ、怒んないでやってよ」


「怒るようなことではありませんよ」


 穏やかに店主は笑んだ。


「でもさ、どうしてカタログにアップグレードのこと、載せないんだ? 載せた方がいいんじゃないか?」


 若者は提案した。


「俺が〈リズ〉を知らないでカタログを見たら、このクリエイターは2までしか作れないんだって思うぜ」


 〈リズ〉のトークレベルはゼロだが、あれだけのリンツェロイドを作れるクリエイターなら能力はあるはずだと、ステファンはそう踏んでいた。


「おや」


「そりゃ、トーク機能が全てじゃないさ。だけど、外見の次に目立つと言うか、興味を持たれるところだ。3も4も、もし5もあるなら、しっかり表記した方がいいと思うけど」


「仰る通りですね。検討いたします」


 にっこりと店主は言った。


「……これまで考えなかったとでも?」


「はい?」


「店のカタログなんて、重要な宣伝素材じゃないか。少しでも上層機能を誇示したがるのが普通だろ。もしかして、宣伝したくないってこと?」


「まさか」


 彼はまたしても言うと、肩をすくめた。


「考えなかったんですよ」


 笑みを浮かべる店主に、ステファンは胡乱そうな視線を向けた。


「コンテストに興味ないって?」


「私がですか?」


「成功、したくないの?〈キャロル〉見てたおっさんが工房変えたの、〈ミルキーウェイ〉に向上意欲がなかったせいなんだぜ。いつまでもこんなんじゃ、アカシたちだってそっぽ向くかもよ」


 人使いも荒いし、とステファンはまた言った。


「それは困りますね」


 笑んだままで店主は言った。


「……怒んないの」


「はい?」


一見いちげんの客、それも若造が何を偉そうに、って。怒るかと」


「私を怒らせたかったんですか?」


「そういうんじゃないけど。ライオットやアカシは気持ちいい奴らなのに、あんた見てたら、苛々したから」


「それは申し訳ありません」


「マスター、そういうとこがいけないんです」


 助手が小声で注意した。


「常ににこやかなのって、に障ることもあるんですから」


「そう? 難しいね」


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