第15話 プログラムはプログラム

「ステファンは、ロイドの揺らぎについて、どう思うんですか」


 改めて、トールは尋ねた。


「どうって?」


「ですから、その、揺らいでもプログラムはプログラムだと?」


「まあ、そうじゃないかな?」


 ステファンは言った。


「何で俺に訊くんだ? もっと詳しいプロフェッショナルが隣にいるのに」


「あ、いや」


「私の答えなど、彼は聞き飽きているんです」


 店主は口を挟んだ。


「ミスタの仰る『揺らぎ』がプログラミングされたものであるのならば、それは当然の結果だ。たとえば、心と言われるようなものとは、違いますね」


「心か」


 若者は腕を組んだ。


「さっき言った小説の主人公も、似たような疑問を抱えるよ。もっとも、シリアスな話じゃなくて、『お前、本当は人間なんじゃないのか』、『失敬な。あなたと一緒にしないでください』みたいなやり取りなんだけどさ」


 くすくすと彼は笑った。


「ロイドに心なんてない、そうですよね」


 笑みを浮かべて取り繕うように言ったのはトールだった。


「ん?」


 ステファンは彼を見た。



「あるだろ」


「……は?」


 トールはぽかんと口を開けた。


「ロイドに心なんて、あるに決まってんだろ」


 彼は繰り返した。


「それは、また。独特の考え方をお持ちですね、ミスタ」


 店主は控えめに言った。


「ちっとも独特なんかじゃない。ロイド・オーナーなら十人中、八人以上はそう思ってるはずだ」


「そうですね、オーナーは」


 クリエイターは同意した。


「あのな、マスター」


 こほん、とステファンは咳払いをした。


「クリエイターだって同じだと、俺は思うけど?」


「はい?」


 店主は目をしばたたいた。


「俺が言うのは、プログラムだ何だという話じゃないんだよ。リンツェロイドに感情を見るのは誰だ?」


 若者は肩をすくめ、答えを自ら続けた。


「俺らオーナーであり、クリエイターだろ。俺たちが、彼女は何か感じている、と思ったら、そのリンツェロイドには心があるんだ」


「……それは、また。何と申しますか」


 店主は返答に困るようだった。


「そういう考え方もある、ということですね」


「違うって! 判んないかなあ」


 彼は頭をかいた。


「たとえばさ。俺はキャロルがメンテで服を脱がされたりしても『彼女は恥ずかしいだろうな』とは、思わないよ。そういうことじゃない。でも、メンテナンス後は『すっきりしただろうな』みたいに思う訳」


 〈キャロル〉のマスターは彼女を見た。彼女は微笑みを浮かべた。


「はい、マスター。そのような感じがします」


「……と彼女が言うのは、プログラムですけれどね」


 店主は苦笑いのようなものを浮かべた。そうじゃない、とステファンは繰り返した。


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